第112話112「決勝トーナメント準々決勝(5)」



「お? カイト・シュタイナー!」

「! リュウメイ・ヤマト⋯⋯君」


 舞台からリュウメイ・ヤマトが入ってきた。


「お、お疲れ様⋯⋯です」

「カイト君! 君との対戦、今からすっごく楽しみにしてるよ!」

「あ、いや、僕、これからまだ試合なので、準決勝に進めるかどうかはまだ⋯⋯」

「ハハハ、何を言ってるんだい? 君が負けるわけないじゃないか! だって⋯⋯⋯⋯あれだけ膨大な魔力を持って、尚且つ、まったく本気を出していない君がさ?」

「!?」


 リュウメイが突然真顔になってカイトの顔を窺う。


「レイア姫様は僕に舐めていると言っていたけど、そういう意味では⋯⋯君もだいぶ舐めてるんじゃない、試合を?」

「っ?!」


(こ、こいつ⋯⋯!?)


「なーんてね! とりあえず君との対戦、楽しみにしているね。それじゃ!」


 そう言って、リュウメイはさっさと控室へ戻っていった。俺は大きなため息をつくと、近くにあったイスに腰掛けようとした。すると、


「おい、カイト・シュタイナー」

「! サラ・ウィンバード⋯⋯さん?」


 リュウメイの次に、今度は次の試合の対戦相手であるサラ・ウィンバードに話しかけられる。


 ピコピコ。


「ピコピコっ!」


 サラ・ウィンバードの『ネコ耳』に即座に反応する『ネコ耳モフリスト』のカイト。


「私はあんたの強さに興味がある。あんたと対戦するのが楽しみだった」

「っ!?」


 そう言うと、サラ・ウィンバードはじーっとカイトを凝視する。


「あ、あの、サラ・ウィンバード⋯⋯さ⋯⋯」

「それでは、これより準々決勝第三試合を始めます! サラ・ウィンバード選手、カイト・シュタイナー選手の入場です!」


 すると、舞台から入場のアナウンスが流れた。


「それでは、試させて・・・・もらいます、カイト・シュタイナー」

「え⋯⋯あ⋯⋯」


 そう言って、サラ・ウィンバードはさっさと舞台へ向かっていった。


「——ったく、どいつこいつもぉぉ〜!!」


 カイトは半ば呆れ気味に、舞台へと足を運んだ。



********************



「それでは準々決勝第三試合の開始です! はじめぇぇぇーーー!!!!」


 ゴーーーン!


「参りますっ!『隠密コバート』!」


 モクモクモク⋯⋯。


 試合開始早々、サラが闇属性初級魔法『隠密コバート』を展開。本来であれば、黒い霧でサラの認識を阻害し、相手からはサラが認識できないようになる⋯⋯のだが、


「後ろから、意識を刈り取ろうとしてますね⋯⋯」

「っ!?」


 サラは『隠密コバート』を発動後、素早くカイトの後ろに移動し、意識を刈り取ろうとしたが、カイトに自分の行動を指摘されたため、サラは思わず距離を取った。


「流石です⋯⋯見えているんですね?」

「うん、見えているよ」


 サラは、カイトの言葉に納得しているのかニコリと笑顔を見せる。


「では、これはどうでしょう⋯⋯闇属性中級魔法『森羅迷彩カモフラージュ』!」

「むっ!?」

「消えた、消えたー! 今度は完全に舞台からサラ選手の姿が消えましたーーーっ!!!!」


 司会のフェリシアがサラの技に驚きのあまり声を上げる。それもそのはず⋯⋯カイトでさえ、自分の視界からサラが魔法発動した瞬間、パッと姿が完全に見えなくなったのだ。観客や他の者が驚くのも無理もなかった。


「スピードで消えている、誤魔化している⋯⋯というわけでもなさそうだ。どういうことだ?」


 カイトはサラが消えた魔法の分析をするが答えは出ない。しかし、


「とはいえ、別にやることは変わらないけどね」


 そう言うと、カイトはスッと目を閉じる。


「おおっと! カ、カイト選手が、突然目を閉じた! これは一体⋯⋯?!」


 フェリシアがカイトの様子に驚きの声を上げる。


 シーン⋯⋯。会場がいつの間にか静寂に包まれた。


「そこ!」


 ドゴっ!


「うぐっ!? バ、バカな⋯⋯『森羅迷彩カモフラージュ』さえも⋯⋯効かないだなんて⋯⋯」


 カイトは声を上げると同時にしゃがみ込み、そして何もないところ・・・・・・・に拳を繰り出した。すると、その瞬間——そこにサラの姿が突如現れる。つまり、カイトはサラの渾身のパンチをよけて、サラの腹部に拳を入れたのであった。


「う、うにゃ〜⋯⋯」


 ガクン。


 サラはカイトの強烈な打撃に思わず地面に膝をつける。「ワーン、トゥー⋯⋯」と、レフリーはサラがダウンしたと判断し、カウントを数えた。


「も、もしかして⋯⋯『森羅迷彩カモフラージュ』も見えて⋯⋯いた⋯⋯のですか?」

「いえ、見えてはいません。なので、あなたの『気配』と『音』を頼りに探っていました」

「け、気配と音で⋯⋯っ!? フフ、なるほど。流石ですね⋯⋯⋯⋯女王・・様が仰っていただけのことはあります」

「? 女王様? 女王様って、もしかしてリーガライド獣国の王様のことですか?」

「はい。リーガライド獣国の王⋯⋯『アン・リーガライド女王』です。女王様より『クラリオンのカイト・シュタイナーに会って見極めてこい』と言われ、ここへやってきました」

「え? それって、つまり、アン・リーガライド女王は僕のことを知っている・・・・・ってこと?」

「はい」


 え? な、なんで? 何でリーガライド獣国の女王が俺のことを知っているんだ? 確かに、俺は『ケモナー』だ。それは認めよう。異論はない。だが、そんなこと一言も公言してはいない。あ、ちなみにケモナーはケモナーでも『人よりのケモナー』です。おい、今、『邪道』とか言った奴! 一度ゆっくり話し合おうじゃないか!


 い、いやいやいや、違う、違う! そんな話ではない! そんなことよりも、なぜ、リーガライド獣国の女王はサラに『俺に会って見極めてこい』なんて言ってんだ? 俺の『』を見極めてこいと?


「と、ところで、サラさんは、僕の何を見極めにきたのでしょうか?」

「サラ⋯⋯で結構です。いえ、『サラ』でお願いします」

「は、はい⋯⋯」

「あと、カイト・シュタイナーの質問に対する答えですが、それは『一生を添い遂げる相手としてどうか』を見極めにきました」

「え? 一生? 添い遂げる?」

「はい。そして、実際に見極めさせていただきました。そして、間違いありませんでした」

「え? え?」


 あ、あれ? サラさん? ど、どうして⋯⋯⋯⋯頬を染めているのかな?


「カイト・シュタイナー⋯⋯私はあなたの妻になります。結婚してください」

「えっ!? え⋯⋯」

「「「「「えええええええええええーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」」」


 サラの突然の『求婚宣言プロポーズ』に俺は驚いて声を上げようとした⋯⋯⋯⋯が、それ以上に観客が声を上げたため、俺の叫びはかき消される。


 ちなみに⋯⋯というか、レフリーはその間もしっかりと舞台でサラの横で『カウント』を取っていた。そして、テンカウントになってもサラが地面に膝をついた状態だったので『試合続行不可能』と判断し、両手を振り『レフリーストップ』のリアクションをする。⋯⋯プロの仕事プロフェッショナルだな。


 しかし、そんなプロ意識高めプロフェッショナルなレフリーの仕事ぶりを余所に、司会のフェリシア含め会場全体は、サラの「求婚宣言プロポーズ」に沸きに沸きまくり、もはや試合結果うんぬんどころじゃなくなっていた。あ、あれ? 優先順位おかしくね?


 い、いや、それよりも何よりも、なんで、その見極めた結果が俺への『求婚宣言プロポーズ』につながるんだ? わ、わからん! まったくわからんのだがっ!?


 と、とりあえず、準々決勝最後の試合はレフリーストップにより俺の勝利で終わった。ていうか、もうそれどころじゃなくなってるよね!?


 ていうか、俺この後⋯⋯⋯⋯どうする? どうなるの?

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