第97話097「決勝トーナメント一回戦(7)」

今年、最後の投稿となります。

来年もまたよろしくお願い致します。


皆様、良いお年を。


2021年12月31日 mitsuzo


********************



「あまりにも突拍子もない予測だけど、もしかするとガスたちを強くしたのは⋯⋯⋯⋯生徒・・の仕業じゃないかなってね」

「何っ!?」


 ランドルフはエミリオの発言に驚愕の顔を向ける。


「馬鹿な!? そんなことがあるか! あってたまるか!!!!」


 ランドルフは興奮気味にエミリオをさらに恫喝する。


「もちろん、今のはあくまで俺の勝手な予測にしか過ぎないよ。でも、まあ、気になることがあってね⋯⋯」

「気になること⋯⋯だと?」

「⋯⋯カイト・シュタイナー」

「っ!? そいつは、たしか、この大会で初めて『学園長推薦シード』に選ばれた奴の⋯⋯」

「そう。そして、彼のことも少し調べてみたんだけど、これがビックリ! ちょっと面白いこと・・・・・がわかったんだ」

「面白いこと?」

「カイト・シュタイナー⋯⋯シュタイナー家。聞き覚えない、父上?」

「シュタイナー家?⋯⋯⋯⋯っ!? ま、まさか、あの南の小さい辺境地を収めている、あの『元騎士団長ベクター』と『副団長ジェーン』のシュタイナー家のことか!!!!」

「ご名答!」

「なっ!? つ、つまり、あのカイト・シュタイナーはベクターとジェーンの息子だと言うのかっ!?」

「そういうこと」


 ランドルフが、しばし沈黙する。


「し、しかし⋯⋯いくら、あの二人の子供だからといって、魔力量を急激に上げたりすることなど可能なのか?」

「それはまだわからない。だって、あくまで俺の予測でしかないからね。でも、少なくとも、あの元騎士団長と副団長の子供であれば、少なくとも何か・・ありそうじゃない?」


 そう言うと、エミリオが不敵に口角を上げる。


「むぅ、確かに。しかし、まさか、あの二人の息子だとは⋯⋯」

「とりあえず、父上。カイト・シュタイナーの試合は次の次⋯⋯第六試合だから。そこで彼の実力を見てからまた考えましょ」


 また飄々とした態度でランドルフに軽い口調を向けるエミリオ。


「フン!⋯⋯ああ、そうだな」


 そんな、エミリオの人を食ったようないつもの態度に苦々しい顔でランドルフは返答した。



********************



「「「「「ワァァァ! いいぞぉぉぉーーーー!!!!」」」」」


 観客の歓声の中、舞台上でリュウメイとディーノの二人が再度言葉を交わしていた。


「ディーノ・バレンチノ、中々の食わせ者・・・・のようだね」

「いえいえ。『慎重』⋯⋯と言ってください」

「フッ、慎重⋯⋯ね。まあ、でも、もうだいたい君の実力はわかったよ・・・・・・・・・・、ディーノ君」

「⋯⋯何?」

「そろそろ、この試合⋯⋯⋯⋯終わらせるよ」


 フッ。


「なっ!? き、消えた!!!!」


 突如、ディーノの目の前にいたリュウメイの姿が消える。


「う・し・ろ」

「っ!?」


 ゾク⋯⋯。


 気がつくと、いつの間にかディーノの背後にリュウメイが立っていた。


「「「「「いつの間にっ!!!!」」」」」


 ザックやカート、また他の観戦している一回生たちもまた、リュウメイの今の動きに誰もついていけないでいた。


「くっ!!!!」


 ディーノも、目一杯の速度で振り返りながら同時に右肘を叩き込もうと回転。しかし、


「氷属性中級魔法『氷結凝固フリーズ・パック』!」


 ピキーーーーンっ!!!!


 リュウメイは、ディーノの背後——近距離から『氷結凝固フリーズ・パック』を展開。かなりの魔法威力なのか、ディーノは一瞬で氷結。これまでの試合の中でも分厚い氷の人柱が出来上がった。


「勝負あり! リュウメイ・ヤマト選手の勝利っ!!!!」

「「「「「⋯⋯っ!!!!!!」」」」」


 観客は二人の実力は拮抗しているものだと思っていたのか、まさかの一瞬で勝負がついたことに歓声を上げることなく、静まり返っていた。


 こうして、リュウメイとディーノの戦いは、リュウメイの圧倒的な強さを見せつけ幕を下ろしたのであった。



********************



「な、なんという、魔法威力⋯⋯」

「いやいや、それよりもあの身のこなしですよ! 本当に王太子が消えたのかと思ったくらいに物凄い素早さでした!」

「いやいやいや、それよりも予選、本選と戦ってもまだ息切れ一つしていませんから! それだけ圧倒的な強さということですよ!」

「いやいやいや⋯⋯」

「いやいやいや⋯⋯」


 観覧席にいるその他大勢の下級貴族や平民の大人たちが「王太子リュウメイ・ヤマトがいかに凄いか」という話で盛り上がっていた。あーうるせー。


 カイトは騒めく周囲の観覧席を舞台横の席から見渡しながら呟く。


「それにしても⋯⋯」


 リュウメイ・ヤマト。ヤマト皇国の王太子。あれだけの身のこなしは初めて見た。周囲の皆にはどうやらリュウメイが消えたように見えたようだ。


 なるほど、そのくらいのスピード・・・・・・・・・・が人の視認の限界といったところなのか。勉強になったな。今後の参考にしよう。


 しかし、リュウメイ・ヤマト⋯⋯⋯⋯強いな。それに、リュウメイの護衛をしているウキョウ・ヤガミという奴もタダ者じゃなかった。ヤマト皇国の人間はみんなあんなに強いものなのだろうか? だとしたら、やはりクラリオン王国の騎士団や騎士学園の生徒も含めて、武力レベルは低いのかもしれない。


 そして、次の準々決勝——イグナスの相手はウキョウなのだが、個人的にイグナスはウキョウと互角くらいの強さはあると見ている。というのも、イグナスは特訓した中でも一番飛び抜けて強くなっていたし、何より、まだ俺はイグナスがどれだけ強くなったかをちゃんと把握していない


 というのも、イグナスはみんなとの特訓以外の時間もどこかで一人練習しているようだったし、それに、みんなとの模擬戦ではまだまだ実力を隠しているような感じだったからだ。


 いずれにしても、そこを鑑みればウキョウに全く歯が立たないなんてことはないだろうし、下手したら互角レベルだと思う。ぜひ、イグナスには勝って欲し⋯⋯、


「⋯⋯強いな、リュウメイ・ヤマト」

「っ!? レ、レイア姫様⋯⋯!」


 いつの間にか俺の横にレイア姫が座っていた。

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