第67話067「計画」



「さて、いよいよだな、クラス編成トーナメント⋯⋯」

「ああ。そうだな」

「なんだか、二週間⋯⋯あっという間でしたね」

「本当だな。それにしても濃い二週間・・・・・だったわ〜」

「はい。自分で言うのもなんですけど⋯⋯ここまで強くなる・・・・・・・・なんて思ってもみませんでした」

「「「「「同感(だ)(ですね)!」」」」」


 そう言うと、皆が一斉に俺を見た。


「いや、俺自身、ビックリしてるよ。『マンガ』がここまで効果が高かったなんてさ⋯⋯」


 いや、本当。マジで。


「カイト、実は『カイト式魔力コントロール』のことなんだけど⋯⋯」

「?」


 そう言って、ザックが神妙な面持ちで話し出した。


「⋯⋯正直言って、カイト式魔力コントロールは『世界の常識を覆す発明』だと思う」

「え?」


 ザックが、だいぶ大袈裟な表現を口にする。


「いやいやザック、さすがにそれは言い過ぎだか⋯⋯」

「言い過ぎじゃないよ」


 ザックが食い気味に言葉を入れる。


「カイト式魔力コントロールはこれまでの常識を覆す大発明、大発見だ。しかも、このカイト式魔力コントロールは『上級貴族よりも下級貴族』のほうがすぐに習得しやすい。もっと言えば⋯⋯カイト、これ『平民』でも習得できるんじゃない?」

「「「「「え⋯⋯っ?!」」」」」

「⋯⋯ああ、そうだな」


 皆の反応を見ると、ザック以外は気づいていなかったか。さすがだな、ザッきゅん。


 そう、この俺の魔力コントロールは、まだ試したことはないがおそらく『平民』でも習得できると睨んでいる。


「ただ、平民は下級貴族よりももっと『魔力の存在』が薄いから認識の部分で苦労すると思う。というか、平民では誰もが習得できるものにはならないだろう。だが、下級貴族は違う。俺の魔力コントロールの習得に最も適しているのは下級貴族だろう」

「やっぱり⋯⋯。いい、カイト? この国で⋯⋯ううん、他の国でも下級貴族は貴族の中で大多数にあたる。そんな現状で、このカイト式魔力コントロールを利用すれば、自ずとこの国の武力・防衛の水準は大きく飛躍すると思う。つまり、この国の深刻な問題となっている『武力低下』を一気に解決させるレベルの発明だ。このカイト式魔力コントロールの存在は慎重に扱った方がいい。だから今はとりあえず隠したほうがいいと思う。ちなみに、これは全員の総意だ」


 ザックがそう言うと、他のみんなも首肯する。


「いいのか? そうなると、この二週間の特訓で身につけたは大会では封印しないといけなくなるぞ?」


 そう。ザックやみんなが『カイト式魔力コントロールは隠したほうがいい』という意味は、『大会では特訓の成果を出すことはできない』と同義となる。しかし、


「いいのか⋯⋯だと? いいに決まってるだろうが! 別にクラス編成トーナメントで結果を残せなくても強くなったことに変わりはない」

「ガス⋯⋯」

「何、言ってんだ、カイト! 俺たちは別にクラス編成トーナメントで良い成績を残したいから強くなろうと思ったんじゃねーよ。それくらい、わかるだろ?!」

「イグナス⋯⋯」

「ま、そういうこと。だから、カイト式魔力コントロールは隠すってことで⋯⋯」


 ザックがそう言って、笑顔で話を進めようとする。なるほど。皆、すでに覚悟してザックに話させたのか。本当は『力を試してみたい』だろうに⋯⋯。だがしかし、


「ふっ、甘い。甘いぜよ・・、みんな⋯⋯」

「「「「「ぜよ・・⋯⋯?」」」」」


 俺は土佐弁をからめてザックの進行に「待った!」をかける。


「俺はハナっから、カイト式魔力コントロールを隠すつもりはない。だから、存分に暴れてくれ」

「え?! い、いやいや、聞いていなかったのか、俺の話! もし、俺たちが力を出せば当然周囲はこれまでと違う俺たちの強さを見て、理由を聞いてくるぞ?! もし、俺たちが逆らえない相手からそんな理由を聞かれたら、このカイト式魔力コントロールのことを話すことになってしまう! そうしたら、上級貴族や王族がどう動くかなんてわからないんだぞ!」


 ザックが必死に『カイト式魔力コントロールが世に知られること』が、いかに危険かを示唆する。しかし、


「望むところだ」

「⋯⋯え?」

「俺はこのクラス編成トーナメントで他の生徒や外部の大人たちに力を示すつもりでいる。だから、派手にやって構わないし、むしろ派手にやってくれ」

「ちょ!? おまっ⋯⋯うぇぇぇ?! マ、マジかよ!」


 カートが変なリアクションを返す。


「マジだ」

「お、おい、カイト⋯⋯お前何をしようとしてるんだ?」


 ガスがもっともな質問をしてくる。


「まあ、とりあえずはこの国の『新たな騎士団』を新設しようかなと思っている」

「「「「「な⋯⋯っ?!」」」」」


 皆に、俺が「ちょっとコンビニ行ってくる」くらいのノリで発した言葉に衝撃が走る。


「だから、まずこの学園で派手に動いて存在感をアピールしたいと思っている。だから、カイト式魔力コントロールで強くなったみんなが活躍することや、このカイト式魔力コントロール自体の存在が知られれば、その中心に俺がいることがわかる。そうすれば、俺の存在は国レベルで無視することなんてできなくなるだろ? だから、そこまでいったら後は⋯⋯まあ、ノリで何とかなるかな?」

「ム、ムチャクチャだ。ムチャクチャ過ぎるぞ、こいつ⋯⋯」


 カートが俺の言葉を聞いて、呆気に取られている。ていうか引いてる。


「カイト。あなた、私たちにこんな話をして大丈夫なのですか?」

「⋯⋯ディーノ」


 ここでディーノがカイトに進言してきた。


「ザックはまだいいとして、私やカート、ガス様、イグナス様は上級貴族です。さらに、もっと言えばガス様はジャガー財閥のご子息で、イグナス様はカスティーノ総合商社のご子息⋯⋯つまり、国の根幹に力を持つ『家柄』の子供なんですよ? それがどういう意味かわかっていますか?」

「『裏切られたら』どうすんだ、てことか?」

「⋯⋯はい」

「別に。俺を裏切るなら裏切っても構わねーよ? ただ、まあ、これは俺の単なる『想い』というか『期待』というか⋯⋯て話になるが、俺は自分が認めて『舎弟』にしたお前らが裏切るとは1ミリも思っていない」

「⋯⋯」

「ただ、まあそれでも裏切ってしまったのなら仕方ないさ。俺のやりたいことを邪魔するなら排除・・するだけだ」

「そ、それは、王族や上級貴族も敵に回す⋯⋯ということですか?」

「まあ、邪魔するならな」

「私たちはまだ子供で権力を持っていない。そんな私たちが親の命令に背くことは非常に難しい⋯⋯というより無理です。そうなると、カイトが考える道の先に私たちが一緒にいる可能性は低い。それでも、あなたは一人・・になってもやり遂げるつもりなのですか?」

「ん? あー、それは前提・・がおかしいよ、ディーノ」

「⋯⋯え?」

「だって俺⋯⋯最初ハナっから一人でやるつもりだったし」

「なっ!?」

「⋯⋯マ、マジかよ」

「そ、そんなことを、そんなサラッと⋯⋯」

「う、うそ⋯⋯?」


 周囲は俺が特に強い意志を持って喋っているでもない、この俺の言葉と雰囲気に目と耳を疑っている。


「ただ、ケンカするのは俺は好きじゃない⋯⋯ていうか嫌いだ。だから、できるだけケンカをしないように動くつもりだった。そして、この今の状況もその延長線上・・・・のつもりだ」

「⋯⋯そ、それはつまり、俺たちを舎弟にすることや、カイト式魔力コントロールの公開が⋯⋯武力回避・・・・に当たると?」

「そうだ」

「⋯⋯なるほど。あなたはやはりとんでもないお人・・だ」


 そう言って、ディーノがニコッと笑みを浮かべる。すると「ガス様」と言って、ガスを俺の目の前に手引きした。手引きされたガスはカイトの前に出るとニカッと笑い、


「乗ったぜ、カイトっ!」


 と、何とも頼もしい野太い声で第一声を上げた。

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