第66話066「感謝」



——クラス編成トーナメント 大会三日前


「よー、カイト、遅せーぞー!」

「あ、あれ? なんでみんな来ているんだ?」


 今、俺たちは二週間近く通っていた『秘密特訓場』にきていた。というのも、ザックから「カイトに話がある」と言われたので来たのだが、そこにはザックだけでなく、皆も集まっていた。


「まー、暇だしな」

「お暇でしたので」

「暇だからよ」

「お、俺は、無理矢理ザックに連れられて、仕方なくだな〜⋯⋯っ!!!!」


 よくわからんが、イグナスだけツンデレ返しをいただきました。平常運転のようだ。


「ところで、本当に何の用なんだ、ザック?」

「⋯⋯実はさ、カイトにお礼が言いたくてさ」

「え? なんで?」

「いや、何でじゃねーだろ! たった二週間⋯⋯二週間だぞ! たった二週間で、まさかここまで飛躍的に魔力量と魔法威力が増加するなんて普通あり得ねーんだぞ! そして、そんなあり得ない結果を生んだのは、すべてお前が『カイト式魔力コントロール』を俺たちに教えてくれたからだ! 感謝したい、礼を言いたい、て思うのは当然だろが!」


 ガスは、カイトが『なんでこの程度で礼を言いたいんだ?』とでも言うかのようなキョトン顔に、「信じられん」とでも言いたげな顔をして、カイトに説教まじりに叫ぶ。しかし、


「そうか? だって、お前らは俺の舎弟だからな。強くなってもらわんと今後・・いろいろと困るからな」

「な、何?」

「だから、お前らを強くしているのは、あくまで自分の為・・・・に過ぎない。だから、お礼なんて気にしなくていいぞ。まあ、どうしてもお礼したいと言うのなら、お礼ではなく⋯⋯俺様を称えるがよいっ!」


 そう言って、カイトが両手を腰に当てドヤ顔で胸を張る。


「は?⋯⋯⋯⋯ぷっ! ワッハッハッハ! お礼より称えろってか! やっぱ、お前おもしれーわ。最高だよ、カイトっ!」

「カイト様ー(棒)」

「カイト様ー(棒)」


 ガスがカイトの言葉に一瞬呆れるが、すぐに大声で笑うと、横にいたディーノとカートがガスの気持ちを察したのか、ノリよくカイトを棒読みで称えた。


「おい、カイト」

「! イグナス?」

「今のやり取りで一つわかったことがある」

「? な、なんだ?」

「お前、俺以上のツンデレじゃねーか!」

「がーーーーーーーん!!!!」


 俺は効果音をそのまま口にしてショックの度合いを表現した。


「『がーん』じゃねーよ! お前、本当は俺たちが言わなくても『どれだけ凄いことをしたのか』ちゃんとわかっている! そして『自分が感謝されるだけのことをした』こともわかっている! だからこそお前は、それをまともに言葉や態度に示されるのが恥ずかしいから、こうしてごまかしてる! そうだな!?」

「⋯⋯うっ!」


 や、やめろ、やめろぉぉぉ、イグナスーーー!!!!。


「ふふ、わかる、わかるぞ、カイト。お前は人から感謝されるのが苦手なんだな?」

「そ、そそそ、そんなんじゃ⋯⋯」

「ほー? そうか? ふーん⋯⋯?」

「⋯⋯くっ!?」


 ちくしょう! まずい! イグナスに悟られた! な、なんだ、あのイグナスのドヤ顔は! ムカツク〜〜〜!!!!


「ふっふっふ、わかるか、カイト? 今、お前がムカついているその感情こそ、何よりツンデレの証拠だ! お前も⋯⋯こっち側の人間なんだよ」

「う、うるせー! 俺はBL路線じゃないやい!」

「いや、俺もBLじゃねーよ! おっと⋯⋯危ない、危ない。危うくカイトの術中にハマるところだった。今日の俺はごまかされんぞ? なんせ、お前の本質を見抜いたんだからな〜?」


 な、なんだ、こいつ! これまでの意趣返しってか! ふざけんな、この野郎! 俺が何したってんだ! あ、結構いろいろ言ってたかー!


 俺はこれまでのイグナスへの対応を振り返ってみた。納得の意趣返しでした。


「カイト、もう一度言うぜ! お前はツンデレだ! 小っ恥ずかしいくらいのツンデレだ! そんなお前に俺から直々に強烈なヤツをお見舞いしてやるぜ!」


 そう言って、イグナスがニチャァと笑う。⋯⋯くるっ!


「ありがとう」

「⋯⋯え?」


 目の前でイグナスがスッと頭を下げていた。そして、


「俺は、自分の魔力量の少なさにずっと苦しんでいた。一生かけて修行しても上級貴族の魔力量には到底及ばないことを知ってさらに絶望した。そんな⋯⋯人生に絶望し、捻くれ歪んだ俺の前に、カイト⋯⋯お前が現れた。そして⋯⋯お前は⋯⋯俺が人生に絶望した『魔力量』に光を⋯⋯光を与えてくれた! 常識ではあり得ない⋯⋯まさに『奇跡』としか言いようのないような⋯⋯解決策で。⋯⋯俺の⋯⋯俺の人生に⋯⋯光をくれた! 感謝⋯⋯し尽くしても⋯⋯しきれない⋯⋯本当に⋯⋯本当に⋯⋯ありがとう、カイト・シュタイナー⋯⋯」


 イグナスは周囲にはばかることなく、ボロボロ、ボロボロ涙を流しながら、まっすぐ俺の目を見て一言一言想いを込めた言葉を⋯⋯お見舞いした。


「⋯⋯イ、イグナス」


 まったく予想していなかったイグナスの態度と言葉に、不覚にも目頭が熱くなり、目から汗をツツーとこぼしてしまった。


 くっ! 不意打ち⋯⋯まさに不意打ち!


 ちくしょう⋯⋯⋯⋯やられた。


「⋯⋯へ、へっへー! どうよ、カイト! まいったかよ!」


 イグナスは涙をグッと一度腕で拭うと、すぐにテンションを上げ、口角をこれでもかというほどグィ〜と上げてドヤ顔を向けた。


「⋯⋯まいった」

「よし!」


 俺はイグナスに初めて負けを認めた。

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