第61話061「魔力特訓(1)」



——放課後


 お昼休みにガス・ジャガーから『イグナスの魔力量を上げられるかどうか試して欲しい!』ということで、早速、放課後に『森の秘密特訓場』へ来ていた。⋯⋯ガスたちも一緒に。


 結局、「もし、本当にできるなら俺たちにも教えて欲しい!」ということになったので、イグナス以外のメンツもこの秘密特訓場についてきた。いわゆる『便乗』である。


 まあ、俺としても一人でも多くの人に自分の魔力コントロールのやり方を伝授できるのか試したかったので、教える人数が多いぶんには都合がよかったので止めなかった。


「はい! では、ちゅーもーく! えー、これよりわたくし、カイト先生による魔力コントロール講座を始めたいと思いまーす」

「「「「「おおーーーー!(パチパチパチパチ)」」」」」


 どうやら皆、ノリがいいようだ。素晴らしい。


「というわけで、早速説明するけど俺の魔力コントロールはこう⋯⋯体内にある魔力を筋状・・に延ばして体中に循環させているんだが⋯⋯このニュアンス、わかる?」


 現在、ここには俺たち以外の外部の人間はいないので、俺は『かぶっている猫』を外している。


「⋯⋯ま、魔力を⋯⋯筋状・・に延ばす?」

「はい、先生! もうすでに意味がわかりませんっ!」


 うむ。予想通りの反応である。


「通常の魔力コントロールてのは、体内で魔力の存在・・・・・・・・をどれだけはっきりと認識できるか、てことだと思うけど、俺の場合は魔力を循環させることに意味があるから、まずはうっすらでもいいから、今認識できている魔力を筋状に延ばして足のほうから順に上へ向かう感じで魔力の筋を移動してみてくれ」


 俺は身振り手振りをしながら、説明をする。しかし、


「うーむ⋯⋯こ、こりゃあ⋯⋯難しいな」

「う、うーん、正直⋯⋯『魔力の筋』ていうイメージが⋯⋯全然湧かない」

「いや、これ、無理だって! ただでさえ薄い魔力の認識なのに、それを筋状にして体中に循環させるなんて⋯⋯」

「そ、そもそも『魔力を体内で循環させる』というイメージ自体⋯⋯全然理解できない⋯⋯」


 皆、試行錯誤して試してはいるものの、どうやら『魔力を筋状にして体内で循環させる』というのが中々イメージできないらしい。そう、以前教えた彼女・・も同じような反応だった。


 ただ、その後ずっと身振り手振りで何度も何度も繰り返してやったら、二ヶ月後に彼女は俺の魔力コントロールをマスターした。なので、


「最初イメージできないのも当然だが、この『魔力を筋状にして循環させる』を意識し続ければ、人によっては最短二ヶ月で身につけることができる!」


 と、俺はみんなに希望を持たせようと実体験を元に断言したのだが、その俺の言葉にピンときた者がいた。


「カ、カイト? も、もしかして、すでに成功している人が⋯⋯いるの?」


 ザックだ。ザックが目敏く・・・俺の言葉にいち早く気づき、質問した。さすがだな、ザッきゅん。


「ああ。俺の魔力コントロールの習得に成功した子が、すでに一人・・存在する」

「「「「「マ、マジかっ!!!!」」」」」


 俺のカミングアウトに皆が騒然となる。


「まあ、最初『仮説』と言ってごまかしたけどな。とにかく! だからこそ、俺はここにいる全員が身につけることは可能だとマジで思っているから!」

「マ、マジかよ⋯⋯」

「し、信じられん。すでに成功している人がいるなんて⋯⋯」

「ちょ、ちょっと待て! そ、その成功した人・・・・・て奴は誰なんだ?!」

「もしも、その話が本当なら、ソイツはここにいる俺たちよりも強いってことなんじゃ⋯⋯」

「カ、カイト! その野郎はどこのどいつだっ!?」


 ガスが皆を代表するかのように、俺の魔力コントロールを使える奴が誰なのかを聞いた。


「失礼な! その子は野郎・・じゃないぞ、ガス!」

「な⋯⋯っ?! て、てことは、まさか⋯⋯⋯⋯なのか?」

「そのとおり! 俺の魔力コントロール⋯⋯『カイト式魔力コントロール』を習得しているその子・・・は⋯⋯⋯⋯俺の大事な世界一かわいい妹・・・・・・・・だ」

「「「「「い、妹⋯⋯っ!!!!!!!!!!」」」」」


 皆が俺のさらなるカミングアウトに度肝を抜かれる。そして、


「ちなみに、さっき誰かが言ったように、俺の妹は今の時点でここにいる俺以外の誰よりも強いと思うよ?」

「「「「「⋯⋯ウ、ウソ?」」」」」

「ほーんと」

「「「「「⋯⋯」」」」」


 俺は追い討ちをかけるように、妹の強さも付け足して皆にトドメ・・・を刺した。



********************



——同時刻 シュタイナー領の森(森の最奥付近)


「へくちっ!」

「おや? 風邪ですか、アシュリーお嬢?」

「いえ、きっとお兄様が私のことを口にしたのでしょう。さしずめ『俺の妹は世界一かわいい』などと自慢した、そんなところでしょうか⋯⋯⋯⋯きゃあああああ!!!!!」


 バシバシバシバシ!


「痛ててててっ!!!! ちょ?! や、やめてくださいよ、お嬢っ!!!! た、ただでさえ、お嬢はカイトさんの話になると手加減無くなるんですから⋯⋯っ!?」

「わ、わかってます! ごめんなさいね、ジミー」


 そう言って、『アシュリーお嬢』⋯⋯アシュリー・シュタイナーは『ジミー』という肩を叩いた男の子に、すぐに謝る。


「い、いえ。お気になさらず。それにしても、アシュリーお嬢は、そうやって俺たちにも優しくするのはすごく嬉しいですけれど、本当は俺たちの『リーダー』であり、先頭に立って俺たちを導く『尊き存在』なんですから、俺たちに対して、同じ目線で接するのはどうかと⋯⋯。もう少し、こう威厳を持った態度で接してください」

「そ、それは無理です! 私はあなたたちを『仲間』だと思っているのですから! だから上も下もありません! あなたたちがどう思っていようと、そのお願いは却下です!」

「ははは。⋯⋯そう言うと思ったよ、お嬢は!」

「バ、バカ! そうやってお前らがお嬢を甘やかすから、いつまで経ってもこうやって俺たちに甘いんだぞ! それに、本当は俺たちもお嬢に対して、もっとかしこまるべきであってだな⋯⋯」

「はいはい、うるさいわよ、ジミー。それよりも目の前のCランク魔獣の巣をパパッと殲滅するわよ!」

「「「「「了解です、お嬢っ!!!!」」」」」


 カイトの後を追うように、現在、アシュリーもまた森の中で『仲間』と一緒に魔獣討伐を兼ねた自主訓練を行っていた。その『仲間』というのは、かつてアシュリーをいじめていた五人組男子で、今では『アシュリー親衛隊』としてアシュリーを支えるべく共に行動しているのである。


 ちなみに、カイトがアシュリーに『カイト式魔力コントロール』を教えたのは、アシュリーが七歳になった頃で、それまでは両親の元でアシュリー親衛隊と一緒に修行をしていた。


 それから二ヶ月後——アシュリーが遂にカイト式魔力コントロールを身につけると、カイトと同じように両親であるベクターとジェーンを超えることとなり、その後、仲間と共にシュタイナー領の森に入り、現在に至る。


 余談ではあるが、両親がカイトに続けてアシュリーにも強さを超えられたことに、多大なるショックを受け一週間ほど寝込んだのは言うまでもない。

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