第57話057「レコとカイトのお話し合い(ストレス発散)」
『合同魔法授業』を終えた翌日——俺は一日学校を休んだ。というより、その日の朝、寮にレコが来て
「いい? あんたは今日一日、寮から出ずに大人しくしてなさい」
と言われ、強制的に学校を休まされたのだ。そして、放課後にまたレコが寮にやってくると、
「ちょっと顔貸しなさい」
と言われ、以前イグナスと一戦交えたあの森の中の秘密特訓場へと移動。移動すると、レコが俺が休んだ今日一日の学校の話をしだした。
「⋯⋯あんたが休んだ今日、予想通り、学園のほぼ全校生徒が合同魔法授業の話で持ちきりだったわ」
レコの話だと、今朝からお昼休みにかけて一回生だけでなく、他の上級生も俺の話をしていたらしく、そのせいでお昼休みになると、いつもより多くの生徒が食堂に押しかけていたらしい。
「おそらく、カイトを一目見ようと集まってきたのだろう」とレコが大きなため息を吐きながら睨みつけるように説明した。
「あんたね〜、どうしてガス・ジャガーを圧倒するなんて目立つようなことしたのよ。おまけに超級魔法を打とうとするなんて頭おかしいんじゃないの!?」
「い、いや、あの時は友達がガス・ジャガーに嫌な思いをされたから、その、ついカッとなって⋯⋯」
「カッとなって、超級魔法打つバカがどこにいるのよっ!」
「⋯⋯ここ?」
「だあらっしゃぁぁぁぁ!!!!」
「ごふっ!!!!」
すかさず、レコの肘が俺の
「あんたね〜、そんなんで目立ちまくったら目を付けられるって言ったじゃない! もっと自重しなさいよ、自重!」
「自重? え、なにそれ、おいしいの?」
「⋯⋯ハイハイハーイっ!!!!」
「ごっ! がっ! ふごっ!!!!」
レコが人体の正中線に寸分
「いや、普通に急所攻撃とかやめて⋯⋯」
「うるさーい! あたしはね、あんたのせいで団長にしょっちゅう怒られてばっかだし、演技が棒だから勉強しろとか言われるし! あたしは⋯⋯やっと騎士団から離れて先生として、この騎士学園で学園生活を満喫しようと思っていたのに⋯⋯⋯⋯バカァァァァ!!!!」
「ごあっ!?」
レコの掌底がまともに顔面に入った。ていうか、君、魔法士だよね? 武闘士じゃないよね? あ、鼻血出た。
「ぶつぶつ⋯⋯せっかく、カイトにも久しぶりに会えたから、色々いっぱいお話したかったのに⋯⋯」
「え? 何?」
「何でもないわよっ!」
「どわっ!?」
レコが飛び蹴りをノーモーションで入れてきた⋯⋯が、さすがにこれ以上受けるのはキツいので俺は横へと飛んで蹴りを躱した。
「⋯⋯何、躱してんのよ!」
「いや、躱すよ!? さっきからクリティカルヒットづくしなんだから!」
「う〜〜〜〜⋯⋯全部あんたのせいよ! あんたのせいで私のストレスはもう限界なの! ストレス発散に付き合ってもらうわよ! そこに立ちなさい、カイト!」
「え、ええ⋯⋯っ?!」
「いきなりもくそもないわよ! いいから、あんたはあたしのストレス解消に貢献しなさい!
「いぃ?! マジかよ! 本当に打ってきやがった!?」
そうして、レコと小一時間ほど魔法と武闘で戯れました。
********************
「はあはあはあ⋯⋯あ、あんた、本当に何者よ!? はあはあ、どうしてこんなに⋯⋯強いのよ、はあはあ。ご、五年間でどんだけ⋯⋯強く⋯⋯なったのよ⋯⋯はあはあ」
「い、いやまあ、えーと⋯⋯自分ちの、シュタイナー領の森の奥に入っていって魔獣討伐とかやって自主練してました」
「え? シュ、シュタイナー領で?!」
そう言って、大の字で寝そべっていたレコが突然、体をいきおいよく起こした。
「ご、五年前のシュタイナー領って、もしかして、あんたがBランクのダーク・ケルベロスをやっつけた後のことよね?」
「う、うん⋯⋯」
「あの後、団長にその事を報告したらすぐに騎士団でシュタイナー領の森を調査することになったのよ。そしたら、あの森で普段なら現れないBランクの魔獣が大量発生していたことがわかったから、それで騎士団の精鋭を二十人ほど連れて森に入ってBランク魔獣を討伐したのだけれど⋯⋯」
「あーそういえば来てたね。ちなみにそれから半年後に実は同じ場所に今度はAランクの魔獣が巣を作っててさ」
「え⋯⋯?」
「その頃の自分はちょうど森で魔獣討伐という形で自主練していたから『あ、修行にちょうどいいや』と思って、そのAランク魔獣の巣を殲滅したんだよね。いや、懐かしいな〜。あのAランク魔獣がすごく強かったから、おかげで魔法や武闘術の特訓が随分
「⋯⋯」
レコが固まったようだ。これ、懐かしいな。
——一分後
「⋯⋯はっ!?」
「おかえり、レコ。意識が飛んでいたようだけどどうしたの?」
「ど、ど、ど⋯⋯」
「ど? ドリフ大爆笑?」
「どうしたもこうしたもないわ、ボケーぇぇぇ!!!! ていうか『ドリフ大爆笑』てなによっ!?」
「な、何を、興奮しているのかな?」
「あんた、単独でAランクの魔獣の巣を叩いたですってぇぇぇ!!!! そんなの騎士団の精鋭十人以上用意しても難しいわよ!」
「へー、そうなんだ。じゃあ、ちょっとは強くなったかな?」
「ちょっとどころの騒ぎじゃないわよ、バカーーーーっ!!!!」
レコは疲れた体に鞭を打ち、俺にアッパーブローをお見舞いした。腰の入った見事なアッパーでした。
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「もう、あんたには『規格外』という言葉さえも、もはやチンケに感じてきたわ」
「⋯⋯すみません」
レコはひと暴れして落ち着いたようで、今は二人とも近くにある切り株に腰を下ろしていた。すると、レコがゆっくりと今日の学校での出来事や学園長室での話し合いなどを話し始めた。
「朝は『ガス・ジャガーを圧倒した下級貴族』というのと『超級魔法の使い手』ということで騒ぎになっていたわ。でも、午後の授業が終わる頃には『超級魔法を使おうとしたのではなく、あれは単なる魔力暴走だった』というのが皆の見解となってその噂はほぼ落ち着いたわね」
ただ、レコの話では『ガス・ジャガーを圧倒した下級貴族』という件は払拭されていないようで、しかも間が悪いというか、ワザとなのかわからないが、
「あのガス・ジャガーがカイトのことを認めるような発言をしたから、今はこの話題が皆の憶測を呼んでいるわ」
「どゆこと?」
話によると、Aクラスに在籍する上級貴族で、しかもあのジャガー財閥のガス・ジャガーが「カイトという下級貴族は俺よりも強い」と皆の前で堂々と言い放ったことから、結果一回生の生徒はもちろん、上級生もあのガス・ジャガーが「カイト・シュタイナーの強さを認めた」ということで学園全体で話題になっているらしい。
「まあ、とりあえずガス・ジャガーのほうはカイトが何とかしてよね。それよりも『超級魔法』の件だけど、実はついさっき⋯⋯放課後、学園長室に昨日の合同魔法授業に居合わせていた先生たちが呼ばれてね、そこに騎士団長が事情聴取を取りに来たのよ」
「事情聴取? 騎士団長?」
「そう。もちろん
「へーそうなんだ」
「だから、とりあえず、何とかギリギリ、あんたの
「はーい」
「自重しなさいよ!」
「はい、はーい」
「はい、は⋯⋯一回っ!」
「へぶしっ!?」
レコの掌底が俺の顔面をキレイに捉え、本日二度目の鼻血が華麗に空中を舞った。
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