第56話056「揺れる騎士学園〜第三者side〜(4)」



【Cクラスside:平民出身ステルス系幸薄美少女サラ】



——お昼休み


 彼女は食堂でいつものサンドイッチを買った後、一人、屋上へと向かう。


 屋上は普段から鍵が閉まっているが、少女は制服のポケットから針金のようなものを出して、いつものように・・・・・・・鍵を開けて屋上へと足を踏み入れた。そこは誰も入ってこない彼女だけのお昼の解放区⋯⋯聖域サンクチュアリだった。


 彼女の名はサラ。


 数少ない平民出身の生徒の一人。普段から気配を消して『目立たない』ように存在を消すステルス系美少女。


 そして、実際に闇属性初級魔法『隠密コバート』を発動し、意図的・・・に存在を消している⋯⋯ある理由・・・・で。


「ふぅ〜。今のところ、そこまで目立ってはいないようですね⋯⋯はむ」


 そう言って、サラはサンドイッチを頬張る。


「それにしても⋯⋯むしゃむしゃ、今、話題になっているあのカイト・シュタイナーという下級貴族の生徒。今日は体調不良で休んでいるとのことなので⋯⋯はむ、むしゃ、やはり昨日の舞台で見せた『巨大な炎の塊』は単なる魔力暴走だったのでしょうか⋯⋯んぐっ!?」


 リスのようにサンドイッチを口元忙しく頬張っていたサラは、案の定、喉に詰まらせ、急いで家から持参してきた紅茶を流し込んだ。


「ごくごく、ぷはー! ふ〜、死ぬところでした。まったく、人間社会・・・・の食べ物は悔しいですが美味いですね。それにしても仮に魔力暴走だったとしても、その暴走した魔力で大きくなったあの炎の塊をすぐに消失して止めたのは驚きでした。余程、魔力コントロールが長けていて、尚且つ魔力量も豊富なのが伺えますね。はむ、はむ⋯⋯ごくん!」


 サラはあっという間にサンドイッチをたいらげると、もう一度、紅茶を飲んで一息つく。


「ふぅ〜。それにしても、あのカイト・シュタイナー⋯⋯本当に女王様が仰っていたとおりの人物・・・・・・・・・・・・・・・なのでしょうか? 今のところ、何とも言えないですが、とりあえず、これから少しずつ接触を図ってみましょうか⋯⋯はむ」


 そう言うと、サラは食堂で購入した二つ目のサンドイッチに手を伸ばし、幸せそうに食べ始めた(残り三つ)。


「今の私は平民出身のサラ・・・・・・・ですからね。カイト・シュタイナーと同じCクラスの生徒ですから色々とお話を聞いちゃいましょう! はむ、はむ、は⋯⋯もごぉっ!?」


 急いで紅茶の入った水筒へ手を伸ばすと、中身が空だったことに気づき、絶句するサラ。その後、生死の淵を彷徨いつつも何とか生還を果たした⋯⋯という、どうでもいいところで命を落としかけたのはどうでもいい話。



********************



【レイア・クラリオンside】



——深夜 王城 レイア・クラリオンの部屋


「呼び出してすまなかった、レイア」

「いえ、とんでもないです。お父様」


 王城のレイアの部屋には、父であるラディット・クラリオン国王がいた。


「お父様がわたくしの部屋にわざわざ足を運んだということは⋯⋯」

「ああ。カイト・シュタイナーの件ではあるが、他にもいくつか報告することもある」

「報告?」

「⋯⋯今、騎士団長アルフレッドから報告があった。今回のカイト・シュタイナーの一件で我々がマーク・・・している者が動き出すだろうとの話だ」

「例の⋯⋯ですか?」

「うむ。まあ、カイト・シュタイナーの動きはこちらの予想の斜め上をいくものなので、中々、思い通りに事は進まないが、ただ、結果的にを炙り出すことに成功したようだ」

「⋯⋯なるほど」

「ただし、無理はするな。お前もこの年齢にしては優秀な魔法士であることは間違いないが、監視対象は躊躇なく人を殺しかねない奴だ。過度な正義感は絶対に禁物だ、よいな?」

「はい、お父様」

「⋯⋯正直、お前に無理をさせているのは承知の上だ。すまない。だが、奴の正体・・・・を探るには学園の生徒であるお前の方が自然で探りやすいのだ」

「わかっております」

「⋯⋯本当にすまない。ただ、これだけは約束しておくれ、レイア。お前は魔力コントロールや魔法センスも素晴らしいものを持っているが、まだ実戦には早すぎるし幼すぎる。お前の護衛も弱くはないが、同じように幼い。少しでも危険を感じたときは、その場からの離脱を最優先にするんだよ、いいね?」

「はい。私もまだこんなところで死ぬ気はありませんので!」

「そうか。それはよかっ⋯⋯ん? まだこんなところで・・・・・・・・・?」

「はい! 私には生きる目標・・・・・がみつかりましたからっ! こんなところで死ぬつもりは毛頭ございません!」

「⋯⋯そ、そうか」


 ラディットは、娘がいきなり「生きる目標がみつかった」と、変なスイッチ・・・・が入ったような異常な興奮をみせながら話すさまを見て、若干の不安を感じたので思わず質問してみた。


「と、ところで、その⋯⋯『生きる目標』? というのは何かな、レイア?」

「乙女の秘密ですっ!!!!」


 乙女の秘密を持つ少女、レイア・クラリオン。そのまっすぐな瞳には父親であるラディットさえも初めてみる、力強さとほんの少し深みが広がる蒼が宿っていた。



********************



【???side】


——学生寮(平民寮)の一室


「カイト・シュタイナーという者⋯⋯どう見ますか、わか?」


 その男子生徒は、膝をつきながら目の前のわかという男に問いかける。


「やめてください。ここはクラリオン王国です。わかではなく、友人として振る舞ってください、ウキョウ」

「いえ、今は寮の部屋の中で他の生徒の目が届かない場所ですので!」

「は〜⋯⋯まあ、ウキョウには何を言っても通じませんか」

「はい、その通りでございます、若!」

「は〜〜〜〜〜⋯⋯まあいいでしょう。でも、本当に普段の生活では気をつけてくださいよ?」

「御意」

「さて⋯⋯カイト・シュタイナーですか。そうですね、今のところは『まだ何とも言えません』といったところが正直な感想です。ただ⋯⋯」

「ただ?」

「彼は何か本性・・を隠しているように思えます。もっと言うと『猫をかぶっている』といったところでしょうか」

「猫をかぶっている? 一体なぜ?」

「さあ、どうしてでしょう? とりあえず彼が⋯⋯カイト・シュタイナーが我が国に伝わる『異界者トラベラー』かどうかはわかりませんが、個人的には彼と一度ゆっくり話をしてみたいですね」

「それはつまり、彼の『化けの皮を剥いでみたい』ということですか?」

「そこまでは言ってません。⋯⋯が、まあ、そういうことですね」


 そう言うと、若は「ふふ⋯⋯」と含みを込めた笑みを浮かべた。

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