第44話044「レイア・クラリオン(レイア姫)」



「では、まず、魔法対決をしたい生徒はAクラスの先生のところへ。自主練と魔力コントロールができていない生徒たちはBクラスの先生のところ⋯⋯最後に私に魔法指導を受けたい生徒はこっちに移動してください」


 そう言って、レコが生徒に声をかけた。大して大声を出していない感じなのに拡声器を使ったように声が通った。おそらく、これも魔法の一種なのだろう。


——五分後


 結果、生徒の八割は『レコ・キャスヴェリー先生との魔法指導』に集中。長蛇の列が形成されていた。


「レコ⋯⋯先生モテモテだな」

「そりゃそうだよ、カイト。だって、僕らと一つしか違わないのに、最年少で飛び級で騎士団に入団して、さらに上級魔法士としても最年少で認定された超有名人だもの。そりゃ、こうなるよ」

「ああ、ザックの言う通りだ。普通、レコ・キャスヴェリー女史に直接指導してもらえるなんて、あり得ないからな。当然の結果だ」

「⋯⋯なるほど。道理でレコ先生が移動するよう指示した瞬間、誰よりも早く動き出したのか」


 そう。ザックとイグナスはレコとの魔法指導の列の最前列を確保していた。ていうか、イグナスの口から「レコ・キャスヴェリー女史・・」なんて言葉が出てくるとは⋯⋯恐るべし、レコ・キャスヴェリー女史。


「で、カイトはどうするの? 一緒にレコ先生の魔法指導受ける?」

「だとしたら、カイトは後ろに並べよっ! こっちには絶対に割り込ませねーからな!」


 はい、はい。イグナスの想いはおじさん引き裂かないよ。そんなイグナスが、俺にキャンキャン文句を言っていると、


「おい、カイト・シュタイナーというのはお前か?」

「え?」


 ふいに声をかけられた⋯⋯⋯⋯その人物は、


「えぇっ?!!!!!!」

「いぃっ?!!!!!」

「「「「「っ!!!!!!!!」」」」」


 周囲はカイトに声をかけた人物を見て、一斉に驚愕な顔を浮かべ固まる。しかし、


「は、はあ、僕ですけど⋯⋯どちら様でしょうか?」


 声をかけられたカイト本人は、その人物が何者か知らず、むしろ「不審者?」とでもいうような反応を示した。


「私の名は⋯⋯レイア・クラリオン」

「レイア・クラリオン?⋯⋯⋯⋯ああ! レイア姫っ!」

「「「「「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

「わーーー!!!! バ! バババババ、バカ! バカカイトぉぉーーーー!!!!」

「バカか、カイト! お前、不敬すぎるぞっ!!!!」


 周囲が俺の反応に騒然とする中、ザックとイグナスが必死になって俺の口を手で塞ごうとした。


「よい。別に私は気にしていない。カイト・シュタイナーよ、その口調で構わんぞ」

「あ、ありがとう⋯⋯ございます?」

「「なんで、疑問形なんだよっ!!!!」」


 二人(ザック&イグナス)のツッコミがシンクロした。



********************



 俺はレイア姫に自己紹介をしてもらって、ようやく以前、ザックに教えてもらった美少女の一人だと理解した。ていうか、第二王女ですね。


「と、ところで、その⋯⋯どうして僕の名を?」

「うむ。お前の話はから聞いておる」

「父? あ⋯⋯」


 あー『父=クラリオン国王』ね。確か、アルフレッドとレコが現クラリオン王国の国王⋯⋯ラディット国王も俺ののことを知っていると言ってたな。


 俺はレイア姫が俺のどこまでのことを知っているのか聞こうと思ったので、周囲に聞こえないよう、レイア姫の耳にスッと寄って呟こうとした。すると、


「貴様っ! 何をしている!」

「姫様に近寄るなっ!!!!」


 レイア姫の背後にいた二人の生徒(護衛兼生徒かな?)が、前に出てきて俺に止めるよう恫喝した。しかし、


「よい。問題ない。許す」

「し、しかし⋯⋯!!」

「ひ、姫様⋯⋯!!」

「許す⋯⋯と私は言いましたよ?」

「「うっ! し、失礼⋯⋯しました⋯⋯」」


 護衛の二人は、レイア姫の言葉に納得いかない様子であったが、レイア姫自身が「許す」と言っている以上、反抗できないようで渋々後ろへと下がった。


「大丈夫だぞ、カイト・シュタイナー。なんだ?」

「あ、じゃあ、失礼します」


 そう言って、俺はレイア姫の耳元に寄って小声で呟く。


「ちなみに僕のこと⋯⋯どの辺まで聞いてます?」


 すると、レイア姫も俺の調子に合わせて、耳元に顔を寄せて小声で呟く(あ、フローラルなかほり・・・)。


「グラン・キャンバス大渓谷の仕業がお前である⋯⋯という事実」

「っ!!!!」


 ゲッ! マジかっ!!(がっつり、バレテーラ)


「大丈夫。この事を知っているのは生徒の中では私だけだ」

「は、はあ⋯⋯」


 ど、どうして国王はそんな話を娘にしたんだ? 少し、思うところはあるが、とりあえず、そんな機微は漏らさないよう俺は話を続けた。


「そ、それで、どうして僕に接触してきたのでしょうか?」

「カイト・シュタイナーという者がどういう生徒か、ちょっと気になって話しかけた」

「な、なるほど」

「まあ、正直⋯⋯パッと見は、パッとしない男じゃな」

「あ⋯⋯なんか、すみません」

「じゃが⋯⋯」

「?」

「だからこそ、興味が湧いたぞ!」

「えっ?!」

「まあ、とにかくお前と話ができてよかった。では、またな」

「え? あ、ちょ、ちょっと⋯⋯」


 そう言って、レイア姫はさっさと護衛の生徒を連れて去っていった。まあ、特に「力を見せてみろ」とか言われなかっただけよかったかな? それだと簡単に断りにくいだけにいろいろやばかっただろうから。


 とりあえず、大したことを要求されたわけでもないし、特に目立つようなことはない⋯⋯、


「お、おい、レイア姫がなんでCクラスの生徒に話しかけたんだっ?!」

「し、しかも、お互い、耳元で話すようなことまでしていたぞ!」

「あ、あいつ、何者だ?」


 ざわざわざわざわ⋯⋯。


 レイア姫が去った後、俺はレコの魔法指導を受けるために並んでいる生徒たちや、その他の生徒たち⋯⋯というか、おそらく、この場にいる全生徒どころか先生を含め全員から一斉に注目を浴びた。


 あ、あれ〜? 充分、目立っているジャマイカ。

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