第21話021「幕間:アシュリー・シュタイナーはかく語りき(3)」
「なっ?! なんだ、貴様は!!!!!」
「俺はカイト・シュタイナー。世界一かわいいアシュリーの兄だ。お前ら⋯⋯今、俺の妹に手を出そうとしていたな?」
そこにいたお兄様は、何か普段とは雰囲気が違っていた。言葉遣いもいつもなら『僕』なのに、この時のお兄様は『俺』と乱暴な口調で、それはまるで⋯⋯⋯⋯まるで別人のようだった。
でも、そんないつもと違うお兄様がすごくかっこよく見えて、心臓が張り裂けそうなほどドキドキした。
「だ、だったら何だよ! ぼ、僕たちは上級貴族の子供だぞ! 領主の子供って言ってもお前らの身分は下級貴族だろうが! ぼ、僕たちが偉いんだぞ!!!!」
「言うことはそれだけか?」
「え?」
「俺の大事な大事な妹にケガをさせようとしたその行為は⋯⋯⋯⋯万死に値する。上級貴族だなんだの身分も今の『怒りMAX』の俺には関係ない」
「え? お、おまえ⋯⋯なにを言って⋯⋯?」
「ああ⋯⋯ちなみにこれから俺がお前らにやろうとしていることを教えてやる。まず⋯⋯お前らを全員気絶させるだろ? そして、森の奥深いところ⋯⋯大人の足でも一日以上はかかるくらいの森の奥深くまで行くだろ? で、気絶したお前らを置いていく⋯⋯するとどうなると思う? 答えは⋯⋯お前らは魔獣に食われておしまい」
「なっ?! な、なななな⋯⋯」
「当然、捜索隊は出されると思うが、そんな森の奥深くにいるお前らを見つけるのは少なくとも一週間はかかるだろう。ていうか、その間にお前らなんて魔獣に食い千切られて死体なんて残らないだろうがな。まあ、服とか靴とかみつかるだろうが、それを見れば皆『森に不用意に入って魔獣に食われたんだな』と納得して、それで⋯⋯⋯⋯終わりだ」
「ゴ、ゴクリ⋯⋯。そ、そそそ、そんな⋯⋯」
ガクガクガクガク!!!!!!
リーダー格の男の子はお兄様の言葉に完全に怯え、体をガクガク震わせていた。
「お? ちょうど夕暮れも近いな? じゃあ、お前ら⋯⋯⋯⋯覚悟しろ」
そう言って、お兄様がリーダー格の男の子へとゆっくりと歩き出した⋯⋯その時、
「ご、ごごご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」
「⋯⋯あ?」
「ご、ごめんなさい! 僕たちが悪かったです! だから殺さないでください!!!!!」
「いやいや、殺さないよ⋯⋯
「い、いやいやいやいやいやいや!!!! それ、あんたが殺すことと同じじゃないですか!!!!」
「あ、そっか! うん⋯⋯どっちでもいいや! とにかく俺はお前らを許さないから。どうせ、ここで許したらまた調子に乗って妹をいじめるだろうし。俺、そういうの一番許せないから。俺の持てる力すべてを駆使してお前らを葬るから」
「そ、そんなっ?! い、妹さんをいじめるのはもう金輪際やめます! だから許してくださいっ!」
「いやいやいや。お前もわからない奴だな〜。お前のような性根の腐った子供の言葉なんて俺は1ミクロンも信用しないから。だからもう黙って⋯⋯⋯⋯寝とけ」
そう言って、お兄様は本当にその男の子を気絶させようとした⋯⋯⋯⋯が、
「や、やめて、お兄様っ!!!!」
「っ?! アシュリー?」
「お兄様が本気でそんなことしたら⋯⋯お兄様も大変なことになるし、それに⋯⋯お父様やお母様にも迷惑をかけてしまいます!」
「ああ⋯⋯心配してくれるんだね、アシュリー。相変わらず優しい子だ。でもね、大丈夫だよ? 俺の持てる力すべてを使えば、俺たち家族に迷惑がかからないようにすることなんて簡単だから。だから俺のことや家のことは何も心配しなくていいんだよ?」
お、お兄様は本気だ。本気でそのような言葉を口にしている。そして、本当にそんなことができる『力』を持っているんだ⋯⋯。
私はこの時初めて「お兄様って何者?」と畏怖の念を抱くと同時に物凄く⋯⋯⋯⋯惹かれた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! どうか許してください! 二度と! 二度と妹のアシュリーさんをいじめたりしませんからっ!!!!!」
リーダー格の男はもうすでに理性が崩壊しているようで、体をガクガク震わせ、ボロボロと泣くだけでなくおしっこも漏らしていた。
「⋯⋯様」
「へ?」
「アシュリー様⋯⋯な?」
「は、ははははいぃぃぃ!!!! アシュリー様! アシュリー様を二度といじめたりしませんっ!!!!!!」
「ほ、ほら⋯⋯お兄様。この子も反省しているようですし、もう許してあげて⋯⋯」
「んー⋯⋯ダメだよ、アシュリー?」
「へ?」
「こういう子供は許したらまた調子乗って親にあることないこと言った挙句、屋敷に押しかけてくるんだ。だから⋯⋯⋯⋯絶対に生かしておけないよ?」
「お、お兄様⋯⋯」
お、お兄様ってそんなに私のこと⋯⋯ここまで愛してくれていたんだ!
う、嬉しい。嬉しいけど⋯⋯ダメ!
絶対に⋯⋯絶対に⋯⋯止めなきゃ!!!!
「お、お兄様! 一度だけ⋯⋯一度だけ⋯⋯彼らを許してあげて!」
「アシュリー?」
「そ、それで『もし親に言ったらどうなるか?』てことをこの子に言ってあげて。まだ子供なんだから過ちは誰だって犯すでしょ? だから、チャンスをあげてやって! でも、もし、それでも親に言ったりなんかしたら、その時は⋯⋯その時は⋯⋯全力で私もお父様もお母様も守ってっ!!!!」
「アシュリー⋯⋯。わかった、アシュリーの言う通りにしよう」
「お兄様っ!」
そう言って、お兄様がもう一度男の子にチャンスを与える。
「おい、お前。優しいアシュリーが今回は見逃してあげてと言ってくれた。だから、一度だけお前らのことを見逃してやる。でもな? もしこの事を親や他の誰かに告げ口してみろ? 俺はその日のうちにお前の家族もろとも⋯⋯いや、お前の家の領地もろとも吹き飛ばすからな?」
「は、ははは、はいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
男の子は「見逃してやる」という言葉を聞いて安堵する。
「あ? お前、今、俺がそんなことできないと思っただろ?」
「え⋯⋯? い、いえ! そ、そんなことは⋯⋯っ!?」
「いや、思ったね。俺にはわかるんだよ。よーし、そうだなぁ⋯⋯⋯⋯お? あの山とかいいな!」
「お、お兄⋯⋯様⋯⋯?」
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