第15話015「カミングアウト祭り」



「「「はっ!!!!!!!!」」」

「おかえりなさい、三人とも」


 三人の意識がようやく現実に戻ってきた。


「あ、ああ⋯⋯すまん。取り乱した」

「ご、ごめんね、カイト。あ、あまりにも、現実離れな告白だったから⋯⋯」

「わ、私はまだ⋯⋯混乱してます」


 三者三様の言葉をいただいた後、改めて、父が真面目な顔で話を始めた。


「カ、カイト⋯⋯。先ほどは大まかな話を聞かせてもらったが、もう少し詳しく教えて欲しいのでいくつか質問をさせてくれ」

「わかりました」

「まず、お前は私の書斎ですべての魔法書を習得したと言ってたな? ということは今、使える魔法は初級と中級魔法で合っているか?」

「は、はい。あ、いえ⋯⋯もう一つ⋯⋯」

「っ!? も、もう一つだと! ま、まさか⋯⋯」

「そこにあった超級魔法も習得しました」

「「「っ?!」」」

「ちょ、超級魔法っ!? そ、そんな、まさか!? あ、ありえない⋯⋯」


 すると横で、レコが真っ青な顔で呆然と立ち尽くす。


「や、やっぱり、カイトちゃん⋯⋯あの超級魔法を⋯⋯」

「そうか。ということは、あの日私の書斎のベランダで魔力切れで倒れたのはその超級魔法を発動したのが原因なのだな?」

「は、はい。あ、いえ⋯⋯厳密には途中で魔法発動を強制停止したのが原因でした。あの時、その超級魔法極致炎壊フレア・バーストの炎の塊がものすごい勢いで膨張してしまい、これ以上膨張すると家に被害が及ぶと思ったので、強引に魔法を押さえつけました。すると、その魔法の強制停止が魔法発動よりもかなり魔力を持っていかれてしまい⋯⋯結果、それが原因で魔力切れで倒れました」

「「「ま、魔法を⋯⋯強引に抑えた、だとっ?!」」」


 カッチーン。


 また、三人が固まる。


「な、なんかまずかった⋯⋯の?」


 カイトが恐る恐る聞いてみた。


「当たり前でしょ! 発動中の魔法を強制的に抑える場合、魔法発動の倍の魔力を消耗するの! だから、普通は魔法発動に入ったら止めるようなことは絶対にしない。だって途中で魔力切れを起こして気絶するか、下手したら死ぬことだってあるのよ! それを⋯⋯しかも⋯⋯超級魔法の強制停止だなんて⋯⋯。普通なら生きてここに立っていること自体、あり得ないわ!」

「そ、そうなの?!」


 俺はあの時の自分の行動がいかに危ないことだったのかをレコに聞かされ、ゾッとした。


「しかし、超級魔法を発動させ、それをさらに強制停止させてもカイトには魔力切れによる気絶程度だったということは、我々の想像以上にカイトの魔力量は膨大だということか」

「超級魔法を使うには『魔法書に選ばれる』必要があるのだけれど、その選ばれる条件が超級魔法を発動させるだけの魔力が十分に備わっているかが求められるわ。そして、ウチの子はその条件をクリアしたということね。ああ、ウチのカイト⋯⋯控えめに言って最高ね」


 ベクターは俺の超級魔法の発動を強制停止させられるだけの豊富な魔力量があることに驚き、ジェーンは超級魔法の魔法書に選ばれた俺を「自慢の息子」という感じでウットリしていた。



*********************



「さて⋯⋯カイト。お前のその類稀なる話は我々の予想の遥か斜め上だった。そして、それは同時に、少しやっかいな問題にもなってくる。まずはそのことを話さねばならない⋯⋯」

「そうね。カイトのその『規格外さ』はいろいろ考えないといけないわ⋯⋯」

「はい。お二人の言う通りです」

「え? ど、どういうこと⋯⋯ですか?」


 三人が一度お互いの目を合わせる。そして、ベクターが口を開く。


「お前のその力はあまりにも目立ち過ぎるということだ」

「え?」

「ベクター殿の言う通りだ、カイト。特に、今の超級魔法を習得している話を聞いたらなおさらね」

「レコ⋯⋯」

「カイトよ。もし、五歳にしてそれだけの力を持つお前のことが公に知られてしまうと、まず間違いなくすぐにでも騎士団入りを要請されるだろう⋯⋯ここにいるレコ君のようにな」

「え! 騎士団に!? 騎士学園にも行っていないのにですか?!」

「そうだ。今のこのクラリオン王国の実情を考えるとまず間違いないだろう」


 ベクターの話では、どうやらクラリオン王国はひと昔前までは一・二位を争う武力を誇っていたが、ここ最近だと武力の低下が著しいらしい。理由はいろいろとあるらしいのだが、とにかく今、国では武力の強化が最優先となっているらしく、それが俺が騎士団に強制的に入団される可能性につながるとのことだった。


「ベクター殿の言う通りだ。だから私みたいな子供でも上級魔法士になれるほどの才能があれば、騎士学園などに行かせず、直接、騎士団へ入団させられるのよ」

「そうね。私たちがいた頃に比べたら、ずいぶん騎士団のレベルも落ちたものね⋯⋯」

「「⋯⋯え?」」


 母ジェーンの何気ない発言に俺とレコが反応する。


「お、お母様⋯⋯今、なんて?」

「え? ああ⋯⋯お母さんはそのひと昔の騎士団で『副団長』やってたから。えっへん!」

「「え? ええええええええええええ!!!!!!!!!!」」


 俺とレコは、不意打ちのようなジェーンのカミングアウトに度肝を抜かれる。


「ちなみに今の騎士団団長のアルフレッドは同期で、当時は『進軍官』を務めていたわ⋯⋯⋯⋯て、あれ? これ言ってよかったっけ?」

「ジェーン⋯⋯。お前、何をサラっと秘密を暴露してるんだ⋯⋯」


 ベクターが頭を抱えながらジェーンの発言に呆れ返った。


「あ、あらあら⋯⋯おほほほほほほほ。で、でも、もういいじゃない、あなた。だって、カイトのこの力を知った今、私やあなたの力も必要になってくる話になるんだもの。隠し事はもうヤメにしましょ?」

「はぁぁぁ〜⋯⋯君はいつも、そう、ノリで何でもしゃべったり、動いたりするから⋯⋯」

「まあ、まあ、まあ。ほら、あなたももうゲロっちゃいなさいよ!」

「まったく君って奴は⋯⋯」

「お、お父様は! お父様は騎士団ではどういう位置に⋯⋯」


 俺は興奮しながらベクターに尋ねた。


「⋯⋯はあ。私は当時の騎士団で⋯⋯⋯⋯『団長』を務めていた」

「「だ、団長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」


 おいおい⋯⋯。父親のベクターが団長で、母親のジェーンが副団長って⋯⋯俺の規格外の話もさることながらウチの両親もなかなかにやばいじゃないかっ!?


「まったく⋯⋯ジェーンが言わなければこんなことには⋯⋯」

「何言ってるの。どうせ、これから私たちの力が必要になるんだから、カイトに知らせるのが早いか遅いかの違いじゃない」

「⋯⋯まあ、そうだな」

「な、なんだか、すごい話を、私たちはこれから聞かされるのでは?」


 レコが不穏な空気をいち早く察知し、どうしたものかと怯えていた。そして、その予感は的中する。


「ふ〜。さて、今の妻と私の話を聞いた以上、レコ君⋯⋯⋯⋯君には最後まで付き合ってもらうよ? もちろん、この事は他言無用だ」

「へ⋯⋯?」


 ヒク⋯⋯。


「返事は?」

「は、ははははは、はいぃぃ!!!!!!!!」

「うむ。では詳細は明日改めて。クラリオン騎士団団長アルフレッド・ヴェントレーをここに呼んでから話を始める」


 こうして、激動のカミングアウト祭りは終わりを告げた。

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