第2話 2月の寒さ
あーせめて上着持ってこれば良かった。真冬にセーター一枚は辛すぎる
お財布ないし、どうしよう。ちょっと遠いけどコインランドリーに行こうかな。利用しないのは悪いけど今度行くから今日ぐらいいいよね
10分しか歩いてないのに手がカチカチしてきた。2月の寒さ舐めてた
「あっれ〜?吉田じゃん、何してんの?てかウケるその格好〜」
嫌な声が後ろから聞こえてきた。しかも足音3つということは長瀬、大田、石川だ。
球技大会のバレーで俺が足を引っ張ってから目をつけられるようになった。いじめがひどくなったのは着替えの時に父親につけられたあざが見つかった時だ。いつも着替えはトイレとか、みんなが着替え終わったあとにしてたのに、それがおかしいとみんなの前でからかわれ服を脱がされた。俺の親が弁護士なのを僕は言ってないけど、どこからか情報が渡ったようで、「親が弁護士なのに虐待してるって知られたらクビになるよな」って脅され、それから僕はイジメの標的になった。別にあんな親父庇いたくもないけど学生の僕じゃ親がいないと何もできないから生きるため仕方なくだ
「......」
「おいおい、無視してんじゃねーよ。なんか言えよ」
何か言ってさらに怒らせる方が面倒だ。
ジリジリと距離を離そうとするが向こうもその分迫ってきた。
「もしかして凍死しようとしてるとかー?」
「そうだ!せっかく死ぬならさー持ってる金全部よこせや」
とうとう追いつかれ太田に羽交い締めにされる。こんなことなら声かけられたときにさっさと逃げれば良かった
「こいつ何も持ってねーじゃん」
「つっかえねークソだなおい、家出するなら全財産持ってこいよ」
彼らの言葉なんて耳に入ってこない。どうやって逃げようか普段は動かない頭で一生懸命考える。
「お金ないなら俺らのストレス発散に付き合えや」
おとなしく従っているふりして隙があったら反撃して逃げよう。こんな真冬に有家毛無くなるまで殴られて、放置されたら絶対死ぬ
「俺は先に歩いてるから大田と長瀬はこいつ押さえながらついてこい」
人気のいない場所まで連れて行かれるのだろう。肩に腕を回されはたから見たら中のいい3人組だ。きっと他の通行人とすれ違えば隙が出るはずそのときがチャンスだ
思惑通り仕事帰りのくたびれたおじさんが近ずいてくると徐々に、力が緩む
緊張で呼吸が浅くなる。
おじさんとすれ違う瞬間長瀬の足をかかとでふんずける。驚いた大田の腕が外れたところで思いっきり噛み付く
「痛っってーー!こいつぜってええ許さねええ」
僕はなりふり構わず逃げた。ちょうど路地を抜けた先は十字路だ。十字路の先をいくと川がある。向こう岸は人通りが多いからそこに向かう。
3人が何か言いながら追いかけてくるけど振り返らず路地を抜ける。
十字路の信号が青から赤に変わりかけていた。車が並んでるからすぐには渡れないことを信じて渡る。
喉が痛い肺が痛い、口の中が血の味がして気持ち悪い。
信号を渡ったら橋を渡るために土手を駆け抜ける走って走って自分が本当に運動音痴なのか疑うほど動けて、3人の声が遠くなった。
確認しようと後ろを向いた瞬間、スケートリンクみたいな地面に気づかず、すっころんだ。
足をくじいて横へ倒れて土手から転げ落ちる。
あとはもう一瞬のことで、心臓まで突き刺すような冷たさが身を貫き、口の中に大量の水が入ってくる。
必死にもがいて空気を吸おうとするけど水を含んだ服は異様に重くて、上手く泳げない。鼻に入った水が痛くて涙が出てくる。慌てれば慌てるほど水を飲み込みパニックになる。
息ができない苦しい。目が回る必死に動かしていた腕も力が入らなくて川底に落ちていく。
水を飲んでも空気は得られないのに勝手に体が水を飲み込んでいく。頭をかち割られ電気に感電しているようにビリビリする
心臓が破れそうなほど動いているのを感じる
ああ、もう無理かも、死なないように逃げたのに結局死ぬじゃん
しょーもない人生だったな、誰かを妬んでばかりで、僻んでばかりで悪態ついてさ、そりゃ誰も愛してくれないよな
愛されてみたかったな......
反抗期少年ほだされる ベアリーサ @bearisa
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