コトノハ

『言葉にはチカラがある』


 それは彼女の口癖だった。

 彼女がそう口にする度に頷いていたけれど、正直なところ、言っている意味はわかってなどいなかった。

 普段から彼女には妄想癖みたいなところがあったので、相手にしていなかった、というのもある。

 そんな私だが、今では彼女と同じように思い始めている。


 私は元々、あまりそういうことを信じない質だ。

 だからなのか、そういうことを信じている人のことは、理解し難かった。

 一時期は見下していたことさえもあった。


 そんな時に私は、彼女と出会った。

 彼女は私とは正反対の人物だった。

 私が今までに出会ってきた誰とも、違っていた。

 コロコロと目まぐるしく表情は変わり、それと同時に感情もくるくる変わる。

 そんな彼女に、私は初め、不気味さを感じた。

 一生分かり合うことなど出来ないだろうと考えていた。

 しかし、私と彼女は一緒に居る時間が長く、互いの心に触れる機会が多かったのだ。

 その感情が羨望に変わり、やがて恋慕に移ろうのにそう時間はかからなかった。

 それは彼女も同じだったのだろうか。

 確かめる術を、私は持っていない。

 今となっては私の声は彼女に届かず、彼女の声もまた、私には届かないのだ。

 彼女は私のことをどう思っていたのか。


 昔、彼女の友人にそれとなく聞いて貰った事がある。

 そのとき彼女は、満面に笑みを浮かべ、「大切な人の一人だよ。だって、友だちだもん!」と、言ったらしい。

 実に聞き覚えのある台詞だと思った。

 誰が聞いても、誰の事を聞いても、彼女は同じ事を繰り返していた。

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