第54話 傷跡はまさに跡形もなく

 昨夜は帰宅後に、ギルドから治療に至るまでの出来事を皆に説明した。

 タックとススリーには特に心配されていなかったが、3人娘には心配されていたようだった。

 でもそれは『何か事件にでも巻き込まれたのでは』という心配ではなく、『浮気してるんじゃないか』という酷いものだった……。

 誤解どころかただの妄想を一蹴し、再度残りの傷を治して魔物の話を聞きに行くと伝え、一人早めに休んだ。

 セラーナがいれば同時に治療が出来るのでついて来てほしかったが、ギルドに呼ばれているらしく結局一人で向かうことにした。

 グウェンさんとプラントさんが着いてきたそうな目でこちらを見ていたが、来ても何もすることがないので丁重にお断りした。


 そして今、途中でリルファちゃんへのお土産用のお菓子をたくさん買い込み、サラさんの家に到着した。


「おはようございまーす。”ブルータクティクス”のヴィトでーす」


 ノックして声をかけるとすぐに扉が開いた。

 出迎えてくれたのはエイミーちゃんだった。


「おはようございます!」

「おはよう。治ったところの調子はどう? 違和感はない?」

「たまに痒みがありましたけど、今は大丈夫です! 痛みも違和感もありません!」


 元気よく答えてくれる。

 横からリルファちゃんも『おはよー』と腰のあたりに抱き着いてくる。


「それは良かった。リルファちゃんもおはよう。はい、これ、お土産だよ。後でみんなで食べてね」

「わー! ありがとう!!」

「治療をしてもらっているのにお土産まで……。何から何まで本当にすみません」

「気にしないで。あ、サラさん、おはようございます。お邪魔致します」


 サラさんにも何度もお礼を言われた後、エイミーちゃんの部屋に向かう。

 今日も長丁場になりそうなので、昨日と同じように横になってもらって治療を行う予定だ。


「さて、今日で全部治しちゃおうか。昨日みたいに時間は掛かるかもしれないけどまた寝ててもいいからね」

「今日は大丈夫です! 昨日沢山寝ましたので!」

「あら、じゃあ退屈かもしれないよ。本読んだりしててもいいからね」

「今日は見ていたいんです。ダメですか?」

「あぁそうか。もちろん構わないよ」

「やったぁ!」


 身体を揺らして喜びを表現するエイミーちゃん。

 一時は絶望を与えられた傷が消えていく様子を見れば、心の傷も少しは癒えるかもしれないな。


「よーし、じゃあ始めようか! 腕からにしようか?」

「はい! お願いします!」


 寝た姿勢だと見辛いはずなのでエイミーちゃんにはベッドに腰掛けてもらい、腕を前に出してもらう。

 それに対して直角になる様に椅子に座り、腕を支えながら傷の周辺に触れて魔力を流していく。


「温かくて気持ちいいです……」

「なんか、ほわーってしてくるよね。楽にしていていいからね」

「えへへ……。わかりました」


 顔の傷は自分では見れなかったが、今日は治っていくところをずっと見つめている。

 少しずつ傷が浅くなり、皮膚が戻っていくところを見て驚きと感動を繰り返していた。

 腕の傷が元通りになるまで4時間ちょっとかかってしまったが、エイミーちゃんはその間飽きることなく傷が消えていくところを見つめていた。

 そして先日と同様に、傷があった場所を何度も指で触れ、嬉し泣きをしながら『ありがとうございます』と繰り返していた。


 サラさんに昼食をごちそうになり、少し休憩した後、お腹の傷とその他の切り傷や打撲などを治療していった。

 こちらは3時間ほどで全て終了した。


 全ての傷が治った後、また姉妹は抱き合って喜び、サラさんも涙を流していた。


「本当にありがとうございます! あの傷が全て消えるなんて、信じられない気分です!」

「若いから傷の治りが早いのと、傷を負ってからまだそこまで時間が経っていなかったことがよかったね。時間がもっと経っていたら跡が残っていたかも。そう考えるとやっぱりリルファちゃんのおかげだね」


 ニコニコしてお姉ちゃんと抱き合っているリルファちゃんの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めた。


「よし、傷の方は治ったから後は魔物の話を聞きたいけど、流石に今日は疲れたろうから明日にしておく?」

「いえ、私は大丈夫です! でもヴィトさんが疲れてませんか?」

「まぁ多少疲れはあるけど問題はないかな。じゃあ少し休憩してからお話を伺おうかな」


 治療中、大人しく待っていたリルファちゃんと遊んであげながら休憩をした後、ブロックホーン村に現れた魔物について話を聞くことにした。

 エイミーちゃんが襲われた日の事を話すのは初めてらしいので、帰宅した旦那さんを含め、食卓でみんなで聞くことにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る