第38話 <ワームホール>発生!
リッツィ王子が皆に馬を貸してくれることになったが、オレたちは乗りなれていないし走った方が早いので断った。
グウェンさんは補助魔法をかけてもオレたちについてくるのが大変だったのでオレがおんぶしていった。
馬と並走していることを皆に驚かれたが、5分ほどで現場に着くことができた。
到着した場所は未だ収穫前の葉物野菜が植えられているところだった。
その畑の地面から4~5mくらいの高さに、黒い裂け目のようなものが揺らめきながら徐々に大きくなっているのが見える。
何もない空中に裂け目がある様子は奇妙で凄く悍ましかった。
穴の中は漆黒で内部を窺い知ることが出来ない。
「なんだこれは……? これが<ワームホール>なのか?」
「<ワームホール>についての報告はありませんでしたね。しかし、今までこんなものは見たことがありませんので恐らくそうかと」
「問題は魔物がどうなるのかだ。徐々に大きくなっているのを見ると、これから出てくるのかもしれんが、既に出た可能性もある。レイダーと“ブルータクティクス”はここに待機し、他のみんなは周囲の確認をしてきれてくれないか!」
リッツィ王子がオレたち以外のハンターに指示をする。
一応、王族と言えどハンターに命令する権利はないはずが、今はそんなことを気にしている場合ではないので、各自周囲を偵察しに行った。
「殿下、インフェリテス殿、御下がりください。何があるか分かりませんので」
「わかった。インフェリテス、少し下がろう。しかし、<ワームホール>が出来る瞬間に立ち会えたのは大きいぞ。つぶさに観察し、後ほどすぐに各国とギルドへ通達してくれ」
「はい、畏まりました。ヴィト殿が違和感を覚えてからこれまで10分弱、ここに到着してからは2分程度ですね。最初の状態はわかりませんが、すぐに大きくなるわけではなさそうですね」
穴から20mほど離れた位置から観察を続ける。
垂直からわずかに地面側に傾き、音もなく揺れながら空間を切り裂いていく穴は、初めは縦に1mくらいであったが、今は1.5mくらいになっている。
どこまで大きくなるのかわからないが、魔物が出てくる可能性が十分にあるため、グウェンさんに“
「“
「いや、魔物が出てくる過程を見られるかもしれないし、今は様子を見ておこう。魔物が出たら必ず討伐するから」
「わかりました」
セラーナがこっそりと聞いてきた。
前もって閉じてしまえば楽だが、初めての<ワームホール>に魔物だし、今後の為に情報も必要だろう。
そして、出来るなら一度体験しておきたい。
他の人たちもいるのでまぁ大丈夫だろう。
更に観察する事2分。
縦2mくらいになった時、揺らめきが止まった。
それまで音を発していなかった穴から『オォォォォォォォ』と反響音のような不快な音が聞こえ、今度は内側から破る様に横へと穴が広がっていった。
先程までとは違い、横方向への拡大は早い様だ。
オレとタックがみんなの前に出て身構えると、その横にレイダー団長も並び剣を構えた。
そして気が付いた。
しまった、オレたちは手ぶらだった。
体術も今はすでにLv9になっているので素手でも困る事はないと思うが、最初から肉弾戦というのもどうかと思う。
帰ったら皆で装備の相談をしないとな。
横幅も2mくらいに広がり、円形の穴が完成すると、その中から黒い蒸気のようなものと共に体長1mくらいの赤黒い狼が次々と現れた。
「魔物だ! 皆さん注意を!」
レイダー団長が声を上げる。
オレは念のため“ブルータクティクス”のみんなに補助魔法の上掛けと、<ワームホール>を中心として半径50mほどの“
これで万が一打ち漏らしても逃がさないはずだ。
出て来た魔物は既にこちらに気が付いているようだが、動かずに警戒しながら後からやってくる仲間を待っている。
魔物の狼だから魔狼でいいのだろうか。
仲間と連携するというグレイフォール王国の報告は本当の様だ。
次々と赤黒い狼が出てきていたが、14匹目に他の狼よりもかなり大きな狼が出て来た。
体長2mくらいはありそうで、あいつがボスっぽい。
初めて魔物と対峙しているが不思議と恐怖感はなかった。
鹿狩りでも正面から対峙するとドキドキしていたものだったけど、これも力を授かった影響なんだろうか。
タックも同様の様で、拍子抜けしているように見えるが、油断しないように目を合わせて軽く頷きあった。
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