第36話 異変の始まり

「レイダー団長! "ブルータクティクス"の皆様をご案内致しました!」

「ご苦労。お前は持ち場に戻ってくれ」

「はっ!」


案内してくれた騎士はオレたちにも敬礼して来た道を戻っていった。


「初めまして。私はファイライン王国騎士団団長のレイダーと申します。皆様、ようこそ御出で下さいました。」

「は、初めまして!私は”ブルータクティクス”のマスター、セラーナと申します。よろしくお願い致します。こちらはヴィト、タック、ススリー、グウェンです」


セラーナの紹介に合わせて俺たちも頭を下げて挨拶をした。


「皆様よろしくお願い致します。本日ご足労頂いた件について、これから説明致しますので、どうぞこちらへ」


レイダーさんの案内について2階の部屋へと進んでいく。

広くて明るい廊下の壁には豪華な装飾が施されており、天井には絵が描かれている。

床には高級そうな絨毯も敷かれている。

その絨毯の上を歩いていくが、『やべー、靴綺麗だったかな?』と自分の足跡が不安になってくる。

レイダーさんが部屋の前で止まり、扉を開けて中に案内してくれる。


「こちらでお掛けになってお待ちください」


促されるまま部屋に入ると、長いテーブルと椅子があり、そこには10名ほどの人が座っていた。

その中には見知った顔もあった。


「あ、ディリムスさん」

「おぉ! "ブルータクティクス"の皆様方ではござらぬか!」


オレたちの同盟クラン”天下泰平の道“のマスターディリムスさんと、隠密術Lv6だった猫人族のアイリさんがいた。


「お二人も呼ばれていたんですか」

「左様でござる。理由は分からぬが、王城から手紙を頂いたので、アイリと2人ではせ参じたでござる。皆様方も?」

「そうなんです。オレたちも手紙を頂きました。うちは近いので一応みんなできました」


他の人たちもどこかのクランの人たちのようだ。

それぞれ2~3人で来ているようで、オレたちが一番大人数だったが、とりあえずオレたちだけじゃないし、顔見知りもいるので少し安心した。

これなら家の件で怒られることは多分ないだろう。

ディリムスさん達の隣の椅子に座り、何で呼ばれたのだろうかと話していると、レイダーさんと3人の男性が部屋に入ってきた。


「皆さん、本日は遠方よりご足労頂き、ありがとうございます。私はファイライン王国第一王子のリッツィ・ファイラインです。こちらは宰相のオルザファレン、その隣がハンターギルド・ファイライン王国本部のマスター、インフェリテスです。騎士団長のレイダーは既にお会いしましたね。よろしくお願い致します」


めちゃくちゃ偉い人じゃないだろうか?

周りのみんなは慌てて立ち上がり、膝をついて礼をした。

さっきグウェンさんに見せてもらったやつだ。

オレたちもぎこちなく真似をして膝をついて礼をした。


「皆さん、ここではそのような礼は結構ですのでお戻りください。これから皆さんをお招きした理由を説明させて頂きますので、お席にお掛け下さい」


皆立ち上がるが、さすがにすぐに座ることはなく、王子や宰相が席に着くのを待ってから椅子に座った。

皆が席に着いたのを確認し、リッツィ王子が話し始めた。


「本日皆さんに来て頂いたのは、今後の魔物の襲来に関してお話しておきたいからです。お告げを受けてからもうすぐ3か月が経とうとしています。天使の話によれば、数か月以内に<ワームホール>が発生し始め、魔物が侵攻してくるという話でした」


そういえばお告げからもう既3か月経つのか。

魔法や剣術等の訓練は毎日やっていたけど、そんなに時間が経っていたとは。


「実は10日ほど前、西方のグレイフォール王国にて<ワームホール>が発生し、そこから魔物が出現したという報告がありました」

驚きの報告にざわつく室内。

グレイフォール王国はファイライン王国の正反対の位置、逆三角形をした大陸の西側中央部に位置する国だ。

距離的には遠い国の出来事だが、<ワームホール>は別次元とつながる穴なので、遠いからと言って安心はできない。

まだ先の事と思っていたが、もう既に起こっていたとは。


「突然の出来事だったため対応が遅れ、近隣の村の住民に壊滅的な被害が出ました。連絡が入り次第、すぐにハンターギルドがAランクのハンターを3名擁するクランを派遣して討伐をしたとのことですが、村人の被害は死者が42名、重傷者が31名だったようです。魔物の数は7体。赤黒い毛並みで狼のような魔物だったとのことです」


被害の多さに皆言葉が出ない。

地域によって異なるだろうが、小さな村だと人口は100人程度だ。

たった7体の魔物によって約半数が死に、生存者も殆どが重傷を負っていることになる。


「派遣されたクラン”ダイヤモンドアッシュ“は、Aランク3名とBランク7名、Cランク11名という編成で討伐に向かったそうです。個々の魔物の強さはさほどでもなく、Cランクのハンターでも倒せるくらいのようです。しかし、魔物も連携をしてくるようで、AランクやBランクのハンターならまだしもCランクで同数以下の場合は非常に危険だろうとのことでした」


初めて魔物と戦った人たちの非常に貴重な意見だ。

オレたちはSランクと言われたけど、当然魔物と戦ったことはまだない。

オレたちは上手く戦えるのだろうか……。


「現在、グレイフォール王国では、討伐した魔物の生態や能力の調査を行っており、分かり次第、ハンターギルドを通して共有される予定です。しかし、今後いつどこで<ワームホール>が発生するかはわかりません。よって、今後の対応を改めることにしました。インフェリテス、説明を頼む。」

「はい、畏まりました。皆様、初めまして。ハンターギルド・ファイライン王国本部のマスター、インフェリテスです。私の方から魔物討伐と対策について説明させて頂きます」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る