第25話 クラン員募集会でござる

 狂乱のギルド登録から5日が経った。

 “スキャン”の調査のため早めに王都入りしたオレたちだったが、結局到着当日にハンターギルドの登録も済ませてしまった。

 その後は特にやることも無くなってしまったので、日中は王都観光や食べ歩き、夜はみんなで鍛錬をしていた。

 串焼きのおっちゃんとその娘と仲良くなったりもして楽しく過ごしていた。


 そしてクラン員募集会の当日となった。

 クラン員募集会はハンターギルド総本部の近くにある公園で行われるらしい。

 普段は景色を楽しみながら散策するような広々とした公園だが、そこの遊歩道や広場に屋台のようなブースが設けられ、各クランが募集活動をするとのことだ。


 ハンターギルド総本部で参加クランの一覧や大まかな場所が記された用紙を受け取とり、公園へ向かう。

 クランは既に200を超えているようだが、どこも出来たばかりだし、知っている所があるわけでもないので、入り口から順に見て回ることにした。


「むー混んでいるのだ。全然見えないのだ」

「迷子にならないで下さいね」

「子どもじゃないのだ! ……でも一応手をつないでおくのだ」


 そう言ってオレの手を握ってくる。

 まぁ迷子になられるよりはいいか。

 ブースはお祭りのように遊歩道の両側に設置されているが、入り口から既に混雑しているため、片側分しか見られない。

 流れ的には右側通行で進んでいるようだ。


「ホントに人が多いなー。これみんな“ハンター”なのか?」

「誰でも入れるようだし、一般の人も見学に来ているんじゃないかしら」

「たぶんそうだね。なんかいい匂いするし、本当のお祭りみたいに屋台も出てるよ」

「とりあえずりんご飴買うのだ」


 クラン員募集ブースの間に、なぜか飲食の屋台も出ている。

 グウェンさんの興味はもう屋台にしか向いていない。

 りんご飴を与えて大人しくさせてから、ぐるっと一周回ってみることにした。

 なぜかりんご飴の代金はオレが払わされた。


 ブースの上にはクランの名前が表示されており、その下には『初心者大歓迎!』とか『懇切丁寧に指導します!』など誘い文句も書かれている。

 みんな登録したばかりの初心者なはずなんだけどな……。

 また、ブースからはクラン員が『今なら幹部候補ですよ!』とか『一緒に最強クランを作りましょう!』などと各々呼び込みをしている。

 学院生のころの部員勧誘を思い出すが、おそらくそんなノリなのだろう。

 オレは働かないといけなかったからどこにも入らなかったけど、見る側も勧誘する側も何だか楽しそうで懐かしさを感じる光景だ。


「いろんなクランがあるんだなー。"レッドドラゴンズ"に"ドラゴンフォース"、"ドラゴンスレイヤーズ"に"飛空竜騎士団"……。ドラゴンばっかりだな。ていうかドラゴンは敵なんじゃないのか?」


 確かに。いいドラゴンもいるかもしれないけど、神話では敵だったな。

 ドラゴンスレイヤーズならまだセーフか。

 そんなことを話しながら見ていると、一際人が集まっているブースがあった。


「我らと平和の為に不惜身命の誓いを立てようぞ!!」


 聞き覚えのある声とフレーズが聞こえてきた。

 覗いてみるとやっぱりディリムスさんたちだった。

 獣人族のみんなとクランを立ち上げたようだ。

 クラン名は"天下泰平の道"と書いてあり、その下に『冬夏青青』と書いてある。

 うーむお堅い。そして熱い。


「タック殿! タック殿ではござらぬか!」

「ディリムス殿。ご健勝のようで何よりでござる」

「貴殿等もクランをお探しに参られたのでござるか?」

「左様でござる」


 また始まってしまった。

 周りの人もキラキラとした目でタックとディリムスさんを見つめており、以前のような危うい熱気を感じる。


「そ、それならば我らと共に歩んでは下さらぬか!? 可能ならばマスターもタック殿に!」

「ディリムス殿。ありがたいお言葉でござるが、このクランはディリムス殿だけのものではありますまい。皆の魂の拠り所、外様の某が汚してよい場所ではござらぬ。同じクランに居らずとも、共に歩むことはでき候」

「はっ……!タック殿……! かたじけない! 某またしても道を誤るところでござった!!」

「誤った道から引き戻すのも友の勤めにござる。まぁ今のはまだ誤ったというほどの物ではござらぬがな。わっはっは」

「やはりタック殿のお言葉は全て至言にござる。これからも是非ご指導を賜りたい」


 またしても感銘を受けた様子のディリムスさんとそのクラン員たち。

 見学していた人も感動しているようだ。

 これのどこに何をそんなに感動しているんだろうか?


「タ、タック、あまり長居しちゃ他のみんなの迷惑になるからもう行こう」

「む、そうだな。それではディリムス殿。失礼するでござるよ」

「タック殿! 貴殿等も良き日を! クランが決まった際にはぜひご一報下され!!」


 ディリムスさんとクラン員たちに別れを告げ、ほかのクランも見て回る。

 背後から“天下泰平の道”に入りたいという希望者が殺到している様子が伝わってきた。

 通行の邪魔をしちゃったけど、クラン員募集に一役買えたならよかったのかな。

 あそこのクランなら人々の役に立てそうだし、クラン員のことを大切にしてくれそうだ。

 疲れそうだからオレはあまり入りたくはないけど……。


 その後も色々見て回ったが、ピンとくるクランはなかった。


「いくつか高Lvっぽい人がいるクランがあったけど、神様が言っていた仲間はあの人たちなのかなぁ?」

「うーん。確かに強そうな感じはしたけど、なんかしっくりは来ないのよね」

「俺もそうだなー。これだ! って感じのビビビッとした感じがなかったな」

「わたしも……モグモグ……特に何も感じなかったのだ」


 みんなピンと来てないようだ。

 タックはいつもの話し方に戻っている。よかった。

 あれはディリムスさん専用イベントのようだな。

 グウェンさんはいつの間にか串焼きソーセージを頬張っている。

 オレはずっと手を繋いでいたはずなんだがいつの間に……?


「みんなピンと来ていないなら今すぐクランに入る必要はないかな? 一応高Lvっぽい人のクランに話を聞きに行ってみる?」

「そうね。入るか入らないかは別として、話を聞いてみるだけならいいかもね」


 遊歩道の終わりにある広場のクランも一通り眺めたので、折り返して先ほど強そうな人がいたクランに向かおうとした時、ふと広場の端の方が気になりそちらを注視した。


「どうしたの?」

「いや、なんかあそこが気になって。何もないはずなんだけど」

「確かに気になるわね。何かしら?」

「何もないけどな。でも確かに変な感じがする」


 タックとススリーも感じたようだ。

 何もないし、誰もいないただのスペースなのだが、なぜか違和感を覚える。

 しかし、どこかで感じたことがあるような感覚だ。

 近づいていくうちに何となくわかってきた。


「結界だ、あれ」

「結界?なんでこんなところに?」

「わからないよ。何の結界かまではわからないけど確かに結界だ」


神様に教えてもらった結界とは違い、ガラス板に模様が入っているわけではないが、何か膜のようなものが感じられた。

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