第24話 誓いの嵐
「失礼。某は蜥蜴人族のディリムスと申します。夢撃流槍術という流派を創設し、日々鍛錬に勤しんでいる者です。先ほどのスキャンの結果が聞こえたもので、お話を伺えればと思っていたのですが、少しばかりお時間頂けないでしょうか?」
「あ、どうも初めまして。ヒト族のヴィトです。こちらは、タック、ダークエルフ族のススリー、エルフ族のグウェンです」
「初めまして。以後お見知りおきを」
ディリムスさんが深々とお辞儀をする。
聞きたい事ってなんだろう。
あまり良い予感がしない。
「どういったご用件でしょうか?」
「ありがとうございます。皆さんお若いのにかなり高Lvのスキルをお持ちの様で。特にタック殿は槍術Lv8とのことでしたので、どのような流派でどのような鍛錬を行っているのか、ご指導頂ければと思い、恥を忍んでお願いに参りました」
あ、これはマズイ。
本格的にやっている人からすれば、そりゃ気になるよね。
『神様からスキルを貰ったので、3週間前から色々振り回してたらLv8になってました』なんて言えるわけがない。
どうしよう……ススリーの方を見るが、ススリーも困っている。
グウェンさんは……『わー大きいのだ―』とディリムスさんの太ももや尻尾をペタペタ触っている。
それは大丈夫なのか?
失礼に値しないのか?
チクショウ、役に立たない最年長者め。
困っているとタックが一歩前に出て、見た事もない位にキリッとした顔で答え始めた。
「ディリムス殿。同じ武芸の道を歩む者としてこの言葉を贈るのでござる。形に捉われるのは三流、小手先の工夫をするのは二流。本当の一流とは目に見えないところに工夫を凝らすものでござる。それを続けて初めて、超一流となるのでござる。ディリムス殿、己の敵は今日の自身と心得よ。常に高みを目指すべし」
武芸の道を歩んでたかだか3週間の男が、何十年も鍛錬をしているであろう槍術流派の開祖に対して、なんかそれっぽい口調でそれっぽいことを言い出した。
正直意味がよくわからない。
大丈夫かとハラハラしていると、ディリムス殿は衝撃を受けたように大きく口を開け、少し仰け反った後、タックにひれ伏した。
「金言にござる! 某、Lvという形に捉われた三流でござった。鍛錬においても槍先や指先の動きなど、小手先の工夫に留まっていた二流でござる! 目に見えない所に工夫を凝らす……この意味をしかと噛み締めて鍛錬に励んで参ります! その際にはどうか、どうか一度お手合わせのほどを!!」
えー!?
物凄く感銘を受けたようだ。
どうするんだこれ。
するとタックが膝をつき、微笑みながら優しくディリムス殿の肩を叩く。
「ディリムス殿、顔を上げてお立ちくだされ。某どもは世界の為に立ち上がった者同士でござらぬか。こんなところで膝をついて歩みを止めてはならぬ。共に歩み続け、切磋琢磨し合い、人々の平和を守り抜きましょうぞ!」
『お前も今膝をついているぞ』と言いたかったけど、とてもそんな雰囲気じゃない。
馬車の中で女の子にモテたいと涙を浮かべていたタックを返して……。
「タック殿……!! 某もタック殿の隣を歩めるよう、更なる精進を致すとここに誓おう! そしてその力を世界の為、人々の為に惜しみなく使うとここに誓おう!!」
大きな声で宣言をし、タックとディリムス殿はガシッと力強く抱きしめ合った。
熱い漢の友情の誕生だ。
何だこのミュージカルは。
すると高Lv同士の会話を固唾を飲んで見守っていた
登録に来た人も、ギルドの職員も、みんな熱いソウルを迸らせている。
グウェンさんもその雰囲気に感化され、皆と一緒に『うぉぉぉ! 誓うでござるのだー!』と拳を突き上げていた。
そんな中、オレとススリーは全く着いていけず、二人でポカーンと見守る事しか出来なかった。
その後もしばらく熱狂は鎮まらず、弟子に取った覚えのない年上から『師匠!』と言われたり、『死す時は同じ日同じ時を願わん!』とか、勝手に凄いことを誓われたりして大変な事になってきたので、逃げ出すことにした。
誓いの感染者からタックとグウェンさんを引き剥がし出口に向かうと、一番最初に声をかけて説明してくれた職員さんがいたので挨拶はしておく。
「今日はありがとうございました。またよろしくお願いいたします」
職員さんは少し頬を上気させている。
「あっしらに戦う力は御座いませんが、御身の助力に挺身するとここに誓いましょう!! 協力同心して国難を打ち破りましょうぞ!!」
もうめちゃくちゃだ。
誓いの爆心地から離れたここまで汚染が広がっていたとは……。
もうここにまともな人はいない。
早く逃げよう……。
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