第21話 ちくしょうサービスだ!攻め
宿を出て再び港の方へ向かっていく。
多種多様な飲食店があり、お店を決めるのも一苦労だ。
「何食べる?」
「せっかくだからまず海産物が食べたいわね」
「どれもうまそうだなー。食えるなら俺はなんでもいいぜ!」
「あっちからいい匂いがするのだ!」
グウェンさんがふらふらと匂いに引き寄せられていく。
そこには食べ歩きや持ち帰り用の料理を売る屋台が並んでいた。
魚介や肉の串焼きに丼もの、麺類、パンにお菓子など、いろんな屋台がある。
「お昼はここで好きな物買ってもいいかもね」
「そうね。どれにしようか迷っちゃうわ」
「よし、俺はとりあえず肉と魚介の串焼きを食おう」
「む、タック。わたしもそれにするぞ!」
オレもススリーも同意見で、先ほどから香ばしい匂いを漂わせてオレたちを誘惑してくるけしからん屋台に向かっていった。
「たのもー! 美味しい串焼きをくださいなのだ!」
「いらっしゃいお嬢ちゃん。うちのは全部美味しいよ。どれでも1本銅貨1枚だけど、6本買うと銅貨5枚だよ!」
どうせ1本では足りないので6本を選ぶことにする。
タックは12本買うことにしたようだ。
あれこれ悩みつつ選んでいると屋台のおっちゃんがグウェンさんに話しかけている。
「お嬢ちゃんかわいいねー。1本サービスしちゃおう! どこから来たんだい?」
「わーい! ありがとなのだ! ティルディスから来たのだ!」
「おうそうだったのかい。観光で来たのかい?」
「観光もするけど、ハンターギルドの登録に来たのだ!」
「えっ? じゃあお嬢ちゃんは力を授かった人なのかい!?」
「そうなのだ。ヴィトたちと一緒に登録するのだ」
「そうか、お嬢ちゃんみたいな小さい子まで……」
おっちゃんが何やらショックを受け、唇を噛み締めた。
あ、これはグウェンさんを子どもだと思ってるパターンだな。
訂正しておこう。
「あ、違いますよ。その」
「おっちゃんはな! 力を授かっていないから魔物の事は授かった人に任せるしかないんだけどよ……。だけど、娘と同じくらいのお嬢ちゃんにまで任せるしかないなんて、大人として情けねぇ……!」
「いや、グウェンさんは」
「おっちゃん。困ったときはお互い様なのだ。気にすることはないのだ」
「お嬢ちゃん……!」
説明しようとしても会話に入れない。
おっちゃんが感極まっている。
「ちくしょうっ! おっちゃん力はないけど、美味い串焼きなら焼ける! お嬢ちゃんたちの無事と活躍を祈って、今日はサービスだ! 好きなもん持って行ってくれ!」
「そ、そんなの悪いのだ。お金はちゃんと払うのだ!」
「お嬢ちゃん。これはおっちゃんからのお願いなんだ。魔物の事では力にはなれないが、せめてうちの串焼き食べて元気を付けてくれ!」
おっちゃんが色々串焼きを詰めて渡してくれる。
そして真剣な顔つきで、目に涙を浮かべながらグウェンさんを見つめて言った。
「ただ、お嬢ちゃん。これだけは約束してくれ。命だけは粗末にしちゃいけないぞ。危なくなったら逃げ出したっていいんだ! 力を授かったからと言って、他の人の為にお嬢ちゃんや若い兄ちゃん姉ちゃんだけが危険な目に合う必要はないんだからな!」
「わ、わかったのだ。気を付けるのだ。」
「兄ちゃんたちもまだ若いのに申し訳ないと思うけど、お嬢ちゃんの事、しっかり守ってやってくれよ!」
「は、はい。わかりました」
「また来てくれよ! サービスするからな!」
「「「ありがとうございます……」」」
おっちゃんは言い終わるとこちらに背中を向け、少し上を見ながらたくましい右腕で自分の目を拭っている。
恐らく、グウェンさんを見た目通りの年齢だと思ったのだろう。
そして自分の娘と重ね、娘が魔物と戦うことを想像したのだろう。
確かにそんな想像をしたら、誰だって大人の自分が何も出来ないのは不甲斐なく感じるだろう。
ただ、グウェンさんは戦いに赴く予定はない。
毒や解毒剤作成などで、自宅でサポートしてもらう予定だ。
そして、子どもでもない。
オレたちの10歳上で宿代を出してくれるほどの立派なレディだ。
でも聞いてくれなかった。
決して騙したわけでもないし、あえて黙っていたわけでもないのだが、何となく罪悪感を抱きながら屋台を離れた。
串焼きには罪はないので皆で頂くと、めちゃくちゃ美味しかった。
どれもこれも素材の良さはもちろんだが、焼き加減も塩加減も抜群だ。
オレの中ではイカ焼きが一番美味しかった。
肉厚のイカが醤油ベースのタレで香ばしく焼かれており、弾力がありつつも容易く噛み切れる。
噛めば噛むほど旨味が出てくる。
正直もう2~3本食べたいところだったが、さすがに今行くともっと寄越せと言っているようで気が引ける。
王都滞在中にまた行こう。
因みにその後、他の屋台で買い物をした際も、『どこから来たの? →観光かい? →えっお嬢ちゃんが……!? →ちくしょうサービスだ!』のパターンが続いた。
戦いはしないんですよ、こう見えて年上なんですよと説明をしても、オレやタックが買いに行ったとしても、後ろにいるグウェンさんの姿を見つけ、そのパターンが発動した。
どうやっても『ちくしょうサービスだ!』パターンに持ち込まれ、逃れられない嵌め技を食らっているかの様だったので、オレたち3人は諦めることにした。
何か屋台の人たちの決まりでもあるのか、グウェンさんが凄いのか分からないが、こっちが損するわけじゃないし、そんなにあげたいなら貰っとけばいいと。
当の本人は『なんかまたもらえたのだー!』とご満悦だった。
年上の威厳は何処へ……。
実は神様から何かサービスをしたくなる様なスキルを貰ってるんじゃないか?
そんな疑惑を抱きつつ、美味しいけど精神的に疲れた昼食を終え、ハンターギルド総本部の予定地に向かっていった。
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