第4話 魔物の襲来に備えて


 <フォーステリア>から魔族が攻め込んでくる。

 まだ頭が混乱しているが、ヤバそうなことはわかる。


「うむ。だからこうして皆に伝えに来たんじゃよ」

「今後魔物が襲ってくるから気を付けなさい、と」

「その通りじゃ」

「えっ、伝えられてもどうしたらいいんですか?」


『ドラゴンに気を付けてね~』と言われても気を付けようがない。


「もちろんただ伝えに来たわけではないぞ。その魔物に対抗する力を与えるために来たんじゃよ」

「魔物に対抗する力……」

「そうじゃ。昔ドラゴンや悪魔がこちらに来てしまった時も、当時の者たちに儂が力を授けて退けてもらったんじゃ。今回もその力を使い、この世界の平和を守ってほしいんじゃ」

「えっ、オレがですか!? 一人で!?」


 世界の平和がかかっているのに一人だったら荷が重すぎる。


「もちろん君だけじゃないから安心してよいぞ。今回は事が事なだけに可能な限り多くの人に力を授けるため、他の人々の適正を部下たちに見てもらっておる。話を伝えるついでにの」


 ホッ……。ちょっと安心した。


「その力はオレも使えるようになるんですか?」

「大丈夫じゃ。キミは過去に儂が力を与えた者と所縁があるようじゃから、極めて適性が高い。きっと強い力を使えるようになる。そして過去に関わりのあった者たちは現在でも形を変えて繋がっておる。その者たちと共に戦ってほしいんじゃ」


 多生の縁というやつだろうか。

 1人じゃないということは心強い。


「でもなぜオレに? オレ戦いなんてしたことなんてないんですけど……。狩りも鹿狩りくらいしかやってないし。ドラゴンや悪魔を見たことは無いですが、お話のイメージのままなら力をもらっても戦える気がしないんですが……」


 戦うどころかケンカすらほとんどしたことがない。

 体力や筋力などに自信があるわけでもない。

 力があるとしても空を飛んだり火を吐いたりするやつとどうやって戦えというのだろう。

 無理な気しかしない。


「力と言ってはいるが、単純な筋力などではなくてな。技術スキルと言った方がいいかもしれんな。剣術や弓術、体術など戦闘のためのスキルもあれば、錬金術、付与術、鍛冶加工など戦闘補助のスキルもあるし、魔法スキルにも攻撃魔法、補助魔法など様々なものがある。個々の性格や適性などに合わせてその種を与えるんじゃ」


 魔法! 心を擽るいい響きだ!


「魔法……! オレも使えるようになりますか!?」

「うむ。君が所縁を持つ者は多くの魔法を使いこなしていたから、君も同様に扱えるようになるじゃろう。ただ、所縁はあるとしてもヴィト君はヴィト君じゃ。君にしかできないことも沢山あるじゃろう。固定観念に捉われてもいかんから、自身が思うように力を伸ばしておくれ。特に、魔法を使うのに重要なのはイメージや感覚じゃからな」

「分かりました! 頑張ります!!」


 誰しも一度は憧れる魔法!

 それこそドラゴンや悪魔退治の神話や娯楽小説、冒険小説では定番で、子供の頃は火を噴きだしたり水を操ったりしてみたいと思ったものだ。

 楽しみすぎる。


「もちろん、うまく使いこなせるようになるまでは慣れや訓練が必要じゃが、ヴィト君なら慣れるのも早いじゃろう」

「精進します! あの、ところで、魔物が来るというのはもう確定事項なんですか?」

「ほぼ間違いはないじゃろうな。今後数か月の間に徐々にワームホールが生じ始め、こちらに魔物が出現し始めるじゃろう。初めは不安定じゃから繋がったり途切れたりが続く。初めはサイズも小さいので魔物もそこまで強大ではないじゃろう。その後、時期までは確定できんが、数年以内にワームホールが大きく安定するようになり、本格的に魔物の軍勢が侵攻してくるじゃろうな」

「繋がらないようにはできないんですか? というかそこまでわかってるなら神様が倒しちゃった方が早いんじゃ……」


 神様は少し俯き、申し訳なさそうに話した。


「申し訳ないが神にも制約があってのぅ。直接的な介入ができないんじゃよ……。なので皆に力を与え、乗り切ってもらうしかないんじゃ……」


 神様だから何でも出来るというわけではないようだ。


「そうなんですね。自分にどこまで出来るか分かりませんが、頑張ります。大切な人がいなくなるのはもう嫌だから」

「君やこれから出会う仲間たちがこの世界を守る要となるじゃろう。大変な事を押し付けてしまうようで申し訳ないが……この世界のためによろしく頼む」


 神様に頭を下げられてしまった。

 慌ててこちらもより深くお辞儀をする。


「そ、そんな神様、止めてください! 自分たちの住む場所は自分たちで守らなきゃですもんね!」

「そういってくれると嬉しいのぅ。それともう1つ言っておきたいんじゃが、フォーステリアの住人全てがこちらに敵対的というわけでもないんじゃ。魔族にもいろいろな考えのものがおる。人間と同じようにのぅ。じゃから、フォーステリアは全て悪などと考えないでほしいんじゃ」

「わかりました。そういう人たちと仲良くなれればいいんですけどね」

「そうなってくれるといいんじゃがのぅ」


 神様は悲しそうな顔で軽く頷いた。

 いつか別世界の住人と手を取り合うことができたら……。

 でも襲ってくるものにはやはり立ち向かわなければ。


「あ、そういえば、仲間になる人は現在も形を変えて繋がっていると仰っていましたが、どんな人なんですか?」

「既に出会っている者もいれば、これから出会う者もおる。おのずと過去の所縁が導いてくれるじゃろうから、楽しみにしているがよいぞ」


 既に出会っている人か。

 タックやススリーだといいな。

 これから出会う人なら気が合う人だといいなぁ。

 

「さて、概ね伝えたいことは伝えられたようじゃが、他に聞きたいことはないかの?」

「多分一杯あると思うんですが……今はまだ考えがまとまらないです」

「ふぉっふぉっふぉっ。それもそうじゃな。もし何か用件があれば教会で祈ってみておくれ。いつでも対応できるわけではないが、可能な限り答えよう」

「ありがとうございます」

「人々も最初は戸惑うじゃろう。世界のあり方も大きく変わるかもしれん。しかし、君たちならば正しく力を使い、平和なミリテリアへ導いてくれると信じているぞ」


 平和なミリテリアのため……。

 本当にオレに出来るんだろうか……。


「世界のために! と、そんなに気負いすぎなくてもよいからの。君が大切な人、身近な人のために頑張ってくれれば、それはおのずと世界の平和につながるからの」


 やはり神様はオレの心を御見通しだった。

 頼れる仲間もいるみたいだし、自分に出来る範囲で頑張っていけばいい。

 少し気が楽になった気がする。


「ありがとうございます。正直、世界のため……なんて想像もつかなくてプレッシャーに感じてきてました……。でも、まず身近な人やこの街のために頑張ることなら出来そうです!」

「うむ。それでよい。よろしく頼んだぞ。それではまたの」


 神様は再度優しく微笑んだ。

 徐々に神様の姿と雲の上の世界が薄れてゆき、オレの意識も眠るように遠のいていった。


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