第10話 戦争前夜に会話した思い出
「交通事故の加害者が逮捕され裁かれる意味がわからない。車を避けようという意欲やチャレンジ精神に欠けた人間は、死んで当たり前ではないですか。命の危機にあるのに、なぜ、果敢な挑戦をしなかったのか。避けようという意欲やチャレンジ精神を存分に発揮しなかったのか。人間の可能性を信じなかったのか。その点が大変遺憾ですね。いや、可哀想だと、被害者のことはもちろん思いますが、それとこれは話が別なわけで。猛スピードで車を走らせ突っ込んでくる加害者は、人間に、さあ、己の可能性を信じてこの困難を超えてみよ、ピンチをチャンスに変えてみよ、と試練を与える人物なんです。それで、その加害者が裁かれるのですか。納得できない。試練を乗り越えられなかったのは、轢かれてぐしゃぐしゃになったその人ではないですか。なぜ、試練を乗り越えられなかった責任を、他者に押し付けるのか。おかしな話。私は毎日、裁判官たちの自宅のドアノブに、私自身の精液を塗り付けてます。私は、怒りを覚えていますからね。」
午前11時、眺めの良い、広い通りに面するカフェにて、髪はボサボサ、無精髭を生やし、目は虚ろで、涎を垂らし続けている中年男性は述べて、立ち去る。
何か、大変に問題のある発言のような気がした。
真面目には聞いていなかったので、詳細を思い出すことは不可能。
しかし、例えばかなりの登録者数のいるユーチューバーが、同じ発言をしたら、やばいくらいに炎上するような発言ではなかったか。
コーヒーも注文せずに、つかつかと店内に入って来た男は、アメリカンコーヒーをぼんやりとしながら啜っている私の隣に座り、滔々と、静かな語り口で述べたのだ。
その日は良く晴れていて、眺めの良いその場所からは、広く大きな青い空を、見ることができた。
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