第15話 彼女が背負っていたもの

 デート当日っ‼


 現在10:47ひとまるよんなな時、当然ながら約束の時間より1時間以上早く到着。待ち合わせの時間は12:00ひとふたまるまる。待機完了。装備確認よしっ! ちゃんと薬飲んできたし、念のため抗不安薬も持ってきた。


「よし! 問題なし」


(すごくドキドキする。でもいつもの、嫌な動悸じゃない)


 昨日から緊張してあんまり眠れなかったけど問題ない。


 櫂惺かいせいは英国紳士マニュアルを読み返しながら待機すること30分、待ち合わせ場所である噴水広場に女の子が早歩きでやってきた。


(フェリシティだ!)


 彼女もまた約束の時間よりもかなり早くやってきた。現れたフェリシティは白のワンピース姿。 


(かわいい! 生きててよかった……………………あの、死ぬんじゃないかと思える恐怖を味わって、尚更そう思える。ほんと生きててよかった!)


「ごめんなさい、待ったかな……?」


「いや全然っ! 問題ないよ。まだ約束の時間より30分以上早いし」


「けっこう早く来たつもりだったけど、櫂惺君のほうが早かったね」


「いいの、いいの!」


「誘ってくれてありがとう、今日はすごく楽しみ。友達と遊びに出かけるなんてプライマリースクール以来!」

 本当にうれしそうに笑顔を見せてくれるフェリシティ。


「そうなんだ、それはよかった。ハハハハハ……」

(と、ともだち………………)

 顔では最大限の微笑みを浮かべながら、心の中でガックリと肩を落とす少年。


(いや、まあ……まだ告白とかもしてないし、当然か。さて気を取り直して)

「フェリシティは何か見たいものとかある?」 


「わたし、フェリークをずっと見てみたかったの」


「フェリーク?」


「うん、ダンス・フェリーク。直接着るタイプのSWGでダンスする競技なんだけど、本物のドレスを着ているみたいで、全然機械に見えないの。空をね、自由に飛びながら演技するの。でね選手が滑走した跡は光の航跡ができてすっごく綺麗なんだよ! まるで妖精が舞っているみたい」


「へぇ、そんな競技があるんだ。いいね!」 

(やっぱり女の子はそういうのが好きなんだな)

 楽しそうに話すフェリシティを見て、櫂惺かいせいも同様に楽しくなってくる。


櫂惺かいせいは早速、時計型端末でスペシャルパスを読み込み「フェリーク」の席を予約する。 

 と、瞬時に席が確保できてしまった。人気競技の席が、当日に取れることなどあり得ないはずなのに、それがなんと、なぜか最前列の席が取れてしまった。


(ウソ! マジで⁉ 何とか会場に入れれば、と思っていたけど、まさか最前列が取れてしまうとは……)


 思いもかけない成果に驚愕の色を隠せない。


(なんなんだ……このスペシャルパスって……こういうのってふつう、VIPとか超大金持ちにしか手に入らないものだよな。ホント刀島とうじま隊長、あの人はいったい、何者なんだ……? 昔、情報局にいたっていう噂は本当だったのか? いったいどんな手口を使ったんだ、あの人……)


 スケジュールを確認すると、花形競技だけあって、ゴールデンタイムの19時開始予定。現在11時25分。


「まだ始まるまで、けっこう時間あるね」


「そうだね……」


 会話が止まる。


「ちょっと早いけど、とりあえずランチでも……どうかな?」


「うん」


 ぎこちなくもランチに誘う櫂惺かいせいに、フェリシティは笑顔で快諾してくれる。


(よっしゃあああっ!)


 フェリシティとの何気ない会話にも舞い上がりそうなほど嬉しくなる。今まで感じたことない幸福感がふつふつと湧きあがってきて心が満たされていく。


 櫂惺かいせいは昨日のうちにオシャレで有名な店を、入念に何度も見返して調べ上げていた。


 今持てるセンスのすべてを出し切って、最もオシャレだと思ったカフェレストランへフェリシティをご案内する。


 テラス席に着き、軽く昼食を取りながら予定を決めていく二人。


「フェリシティ、他に何か見たいものとかある?」


「あ、そうだった。あともう一つどうしても見てみたかったのがあるの、オリンピア・グランドフェスティバルと全然関係ないんだけど、いいかな……?」


「いいよ。僕は特別見たいものとか無いから、どこへども行くよ」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」

(僕はフェリシティといられることが一番うれしい、なんてさすがに恥ずかしくて言えない……)


 フェリシティは手帳を取り出し、内蔵されている携帯端末を開き櫂惺に見せる。


「ここ、ずっと前から行ってみたかったんだ」


「……アムレート市博物館『地球展』。へぇ、いいね! フェリシティ、地球に興味あったんだ」


「うん、地球って植物とか多いでしょ、小さい頃から昔の地球の写真や映像見るのが好きだったの。なんでかな、特に最近、地球への憧れが強くなってて」


「そうだったんだ」


「で、櫂惺かいせい君は、見たいものとかないの……?」


「えっ! 僕? あ、えっとー……」


 フェリシティのほうばかり見ていた櫂惺かいせいは、焦ってパンフレットの方へ視線を移し、目の前に開かれたホログラムパンフレットで、どんなものがあるのかを確認してみる。


(宇宙遊泳自由形、シン・オオズモウ、想像してもよく分からない種目が多い、それに非公式な種目もけっこうあるな)


 四年に一度のビッグイベントに便乗して様々な団体が各所で催し物を行っている。かなりマイナーな競技、マニアックな出し物の数々。


(てか、大会運営も、これ全部把握できてないよな。テロ対策とか大丈夫か……)


 会話を途切れさせないために話題のストック作りと、オシャレな名店検索に没頭するあまり、肝心の競技種目のことなど完全に失念していたため、櫂惺は、不意を突かれ戸惑いながら咄嗟とっさに目に留まった競技名を口に出す。


「えーっと……エクストリーム・カワラワリ……とか」


「へぇ、そんなのもあるんだぁ。おもしろそうだね」


(いきなりとはいえ、全く内容が想像できないものを答えてしまった……)


 それでもフェリシティは笑顔で反応してくれる。その笑顔を見てまた胸がドクンと跳ねる。テーブルの上で一つのホログラムパンフレットを二人して覗き込む。自然と顔と顔が近づいてドキドキしてしまう。


「それじゃあ、アムレート市博物館に行ってみようか」


「うん」


ランチを終え二人一緒に最初の目的地へと向かう。


 今が戦争中とは思えないほど、街中が賑わっている。今だけは病気のことも将来の不安も忘れられる。櫂惺は隣にいるフェリシティが楽しそうにしている姿を見て、今まで感じたことが無い高揚感と幸福感に包まれていた。


「オリンピア・グランドフェスティバル」

 惑星ヘレネー圏にて開催される4年に1度の競技の大祭典。競技用SWGを使用した競技がほとんどであり花形。また地球圏のオリンピックとは違い、企業主体となって開催されているためエンターテイメント性が強い内容で、都市の各所でアイドルやアーティストたちのライブなども行われる一大ビッグイベントとなっていた。 



 列車に乗って最寄りの駅で降りると、そこはグランドフェスティバルが開催されている中心地と違って、人通りは少なく静かな時間が流れていた。


「ここがアムレート市博物館、意外と大きいんだね。それに厳かで落ち着いた雰囲気の建物だね」


「そうだね、私も想像していたものよりけっこう広くて驚いちゃった」


 古代ギリシアの神殿を模した外観のエントランス。中に入ると地球の歴史にそった展示物が並べられている。


 二人が惑星ヘレネーへの移民計画「ダファディル・プロジェクト」のブースへ足を踏み入れると、その顛末てんまつをたどる映像とナレーションが流れ始めた。


『指向性エネルギー兵器の登場、宇宙空間と海洋空間の開発競争、それらは核戦争の恐怖を拭い去りました。

 しかしながら、その〝恐怖〟が薄まってしまった結果、皮肉なことに、世界各地で紛争が多発――』


 民族対立、領土問題、資源争いの末、互いに武器を取り戦争に発展してゆく描写が克明に映像として記録されている。


『サイバー内では、協定の存在しない戦争が日夜繰り広げられ、世界の混乱に拍車をかけました。

 そしてついに、大国同士の直接武力衝突に発展、地球全土に広がる大きな戦争へと発展しました。

 そこに端を発した長きに渡る世界戦争の末、地球の大地は壊滅的な被害をこうむってしまったのです。

 質量兵器やパルス兵器、それら新兵器が残した爪痕はあまりに深く、先進国、途上国問わず、多くの難民と生活困窮者を生み出しました』


 核の傘が事実上無効化かされた世界で、戦争を抑止する機能が著しく低下、そうした中、水資源を巡る争いが民族対立も相まって激化し、一地域の紛争が、世界を巻き込む戦争へと発展してゆく姿が映し出されていく。


『人間の身体能力を遥かに超えるロボット兵器が次々と戦場へ投入され、戦争はそれまでとは比べられないほどの速さで移り変わり、巻き込まれた人々は逃げ惑い難民の増加を加速させました。

 宇宙空間から撃ちこまれた質量兵器により、山々と肥沃な大地は深くえぐられ、河川の流れを大きく変えてしまいました。

 その結果、繁栄を謳歌していた先進国でさえ食糧難に陥る事態となったのです。

 また、パルス兵器の使用により発電所が停止、都市機能がマヒした地域から防衛体制の整った都市に人々が押し寄せ、人口過密により治安もまた悪化の一途をたどりました』


 地球が破滅へと向かっていく様子が、ホログラムを使った映像技術により、まるで自分自身がその場にいるかのように錯覚するほど克明に映しだされる。


 そして、衝撃の事実が明かされる。


『世界中で戦争が続く中、人類はついに恐るべき兵器を生み出したのです。

 それが、SRN――Self Replicating Nanomachines――自己複製型ナノマシンでした。

 兵器として使用されたSRNは生物だけでなく、地球環境に深刻な被害を与え、直接的にも間接的にも結果として、数十億もの人命を奪ってしまったのです。

 SRNは、人類史上最大の犠牲者を出した兵器となりました』


 そのナレーションを聞いて、フェリシティの顔がみるみる青ざめ、口をおさえ、その場にかがみこんでしまう。


 櫂惺かいせい咄嗟とっさにフェリシティの肩に手を当て、精一杯の言葉をかける。


『大丈夫だよフェリシティ、別にフェリシティが悪いわけじゃないんだから、それに昔の話だから、ね。今はそういうことがないように、安全策が十二分に取られているわけだから。人か人へ、絶対に移ったりしない、でしょ……』


 何とか自分の知り得る知識を絞りだし、フェリシティを励まそうとするが、それはただ聞き知っただけの知識、当然フェリシティも知っている。むしろフェリシティの方が詳しいに決まっている。自分が自己複製型ナノマシン投与を受けた人間CRESクレスではないため、彼女の気持ちを真に理解するなど、今の自分にはおこがましく、どうやってもできはしない。


 SRNで負の感情を起こしにくいフェリシティでさえ、こんな状態になってしまうくらいなのだから、今、心に受けた痛みはやはり自分なんかに到底理解できるものではないのだろう。フェリシティの体が震えている。櫂惺かいせいは着ていたジャケットをとり、フェリシティの肩にかける。


「……ありがとう、櫂惺かいせい君」


 今の自分にはこんことくらいしかできない。


「どこか座れるところで、少し休もうか」


「ううん、大丈夫。びっくりしちゃったけど、もう落ち着いた……それに最後まで見てみたいから」

 そう言ってフェリシティはしっかりと自分の足で立ち上がって、流れてくるホログラム映像を見つめる。


 それでも怖いのだろうか、フェリシティが櫂惺かいせいの方に肩を寄せてきた。


 櫂惺かいせいは彼女に寄り添い、その恐怖が少しでもおさまるように震える彼女の手を取る。 


 繋がれた手から温もりを感じ、フェリシティの震えがゆっくりとおさまっていく。


『戦争と同様、地球規模で多発する異常気象もおさまるきざしが見えず、地球の大地では、水場と食料を奪い合う愍然びんぜんたる野蛮な戦争が続いていったのです。

 このような状況では、有効な対策を講じることが出来ず、再び地球が実りある大地を取り戻すには、当時はまだ、非常に長い年月を要することになったのです。

 そのかん、月やスペースコロニー群の生産量では、地球に住むすべての人々に水と食料を十分行き渡らせることが不可能でありました。

 そうした中、地上に住む人々に〝はしご〟が下ろされました。新天地へと続く〝はしご〟が』


 場面が、惑星ヘレネーへの移民計画が発表された月面都市の式典会場に切り替わる。櫂惺かいせいとフェリシティも、その式典に居合わせているかのような臨場感のある映像。


『惑星ヘレネー。の星に希望を見出すことが、当時の人類の選択できる唯一の方法でした。

 そして打ち出されたのが、ダファディル・プロジェクトでした。

 ダファディル・プロジェクト――それは、太陽系開発と並行させながら、惑星ヘレネーへの移民を実現させる、人類の一大プロジェクトでありました。

 ダファディル型航宙スペースコロニー、それは太陽帆とレーザー核融合ロケットエンジンを併用し、宇宙を航行する巨大な宇宙船であり、かつ数百万人が永続的に居住可能な都市でもあります。

 地球の重力圏を脱出したのち、さらに数十回に分けて加速を行い、およそ30年かけて、太陽系と0.7光年の距離まで近づいたネメシス星系を目指したのです。

 移民先となるネメシス星系第2惑星ヘレネー、そこは地球にとてもよく似た惑星でした』


 場面が、宇宙空間に切り替わり、地球と月が見える。


 地球と月の間の宇宙空間に浮かぶ銀色の〝ラッパズイセン〟の花々が等間隔に列をなして咲く姿。ダファディル型航宙スペースコロニー――直径4km全長38kmの円筒型をなし、居住区であるその円筒型の構造物より長大な太陽帆が6枚取りつけられた超巨大建造物。地球と月の重力が均衡する宙域L1点に建造され、未だ半数以上が建設途中の状態で点在している。


『プロジェクトの名を冠した、その第1号、ダファディル・コロニーが、ネメシス星系第2惑星ヘレネーに向け、最初の航海に出ました』


 場面が、再び月の式典会場に戻り当時の様子が流される。


「ダファディル・プロジェクト」を強く推進し、式典会場の壇上に立つ中年の女性が、旅立つダファディル・コロニーを仰ぎ、はなむけの言葉を贈る。


『ダファディル。その花に象徴される〝復活〟と〝新たな始まり〟を願い、長く険しい旅が、どうか無事に終えられることを、この月の大地より祈り続けております。

〝ダファディル〟新たな人類文明の萌芽ほうがとなりますように』


 月の代表者がはなむけの言葉を贈ると、ダファディル・コロニーへ超大型のレーザー発射装置から解き放たれた眩い光の流路が、真っすぐ注がれる。光の柱に押し出されるようにして、後端から青いプラズマのジェットが噴きだし、ダファディルがゆっくりと加速を始め、他の航宙スペースコロニーの列の中から1基、抜け出してゆく。 


 赤と緑の光を発しながらダファディルを守るように周囲を流れる無数の影。水先案内人となりダファディルの針路の安全を確認する探査船、ダファディルにとって脅威となる小天体などの障害物を排除するための作業船、非常時のための水と保存食が備蓄された大型貨物船。総勢百隻を超える無人宇宙船がダファディルに寄り添い、長い旅を共にする。


 深く傷ついた地球の大地と、無数の人口の光に彩られた月の大地とを、遥か遠くに眺めながら、人々の命と希望を繋ぐため、50万もの人々を乗せたダファディルが今、無限に広がる闇の中で大きく帆を広げ航海へと乗り出す、小さな星々の輝きだけを頼りに。



「これが、ヘレネーへの移民計画の始まりだったんだ。地球が大変なことになっていたとは……聞いていたけど」

 手を繋いだまま、櫂惺かいせいはフェリシティに語り掛ける。


「教科書で知ってはいたけど、本当に同じ人類同士で、悲惨な戦争をしていたなんて信じられなかった……私が見ていた写真や映像は、きれいな風景ばかりだったから」


「確かに、人同士が戦争するなんて、このヘレネーでは考えられないよね。まあでも、この時からもう40年経っているわけだし、今はだいぶ地球も復興が進んでいるって話だから」


「地球、行ってみたいな……」


 地球へ行ってみたいと言ったフェリシティの表情から、櫂惺かいせいは2年前の自分の心境と似たものを感じていた。


(フェリシティはここから、このヘレネー圏から、逃げたいのかな……?

 僕も2年前、家を飛び出し工科学校に逃げ込んだ。逃げこんだ先にも、嫌なことやつらい事はたくさんあった。それでもまた、逃げ出さずにいられたのは、アーティット、シェノル、ウィル、そして部隊のみんな、価値観を共有できるかけがえのない仲間たちの存在があったからだ。

 だけど、フェリシティは? 一人で行ってしまったら、そこで気の合う友人達に恵まれればいいけど、そうじゃなかったら……。

 SRNが兵器として、あの世界戦争で使われて、多くの人が犠牲になっていたなんて知らなかった。そんなことがあったのだから、こちらよりむしろ地球の方がCRESクレスに対する差別は酷いんじゃないか?

 一緒について行きたいけど、まだ恋人にもなれていない僕が、一緒に行くのもおかしいし) 


 櫂惺かいせいが頭の中であれこれ考えていると、フェリシティがもどかしそうに話し始める。


「でも、どうせ行けないんだけどね。そもそもヘレネーの方から地球へ行く手段なんてないし、太陽系外敵性存在との戦争が始まってからは、地球もヘレネーへの移民を停止しちゃったからね。それで兵員不足になって、CRESクレスが徴兵登録の義務を負うことになってしまったわけだし……」


(ヘレネーから地球へは行けなかったんだ。そもそも地球に行くことなんて考えたことなかったから知る由(よし)もなかった。それじゃあ……)


――フェリシティに、逃げる道はもうどこにも無いということ。



 櫂惺かいせいはフェリシティの心を和ませるため、彼女が好きだと言った植物を見に植物園エリアへフェリシティの手を引いて連れて行く。


 地球の希少な植物が多く栽培され、観覧しているとフェリシティの表情がだんだんと明るくなって目に優しさが戻っている。


 ゆっくり園内を散策していると、大きな桜の木が目に止まる。花びらを散らしながら満開に咲き誇っていた。


櫂惺かいせい君見て! 桜! 桜の木があるよ。きれい」


「ホントだ。あれ、でも今花の咲く季節じゃなかったような」


 櫂惺かいせいは散る花びらを手の平で受けとめようとすると、それらは手をすり抜けていく。


「ああ、これ、花はホログラムか。木は本物みたいだけど」


「でもすごくきれい……イーハトーブにもいっぱいあるんでしょ、桜?」


「うん、4月になるとイーハトーブ・コロニーの中一面が淡いピンク色になるんだ。空を見上げても、横を眺めても、コロニーの中を淡いピンク色の輪がずっと続いていくんだ」


「いいなぁ。私も見てみたい」


「うん、一度来てみるといいよ。来年、一緒に見よう」


「うん」

 フェリシティは、櫂惺かいせいの提案に、もういつぶりくらいになるだろうか、希望にあふれる未来が見えたようで、今日一番の優しい笑顔を見せた。


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