星紲のアーミラリスフィア
須藤 朋大
プロローグ
円筒型スペースコロニー「ニューランズ」。空を見上げれば、またそこに地面が見える。上空に映る逆さまの地面が霞んで見えるほどの巨大な人口建造物。その中を道や水路が縦横に走り、住居や大小様々な施設が貼り付いて円環状の都市を形成していた。
丘の真下へ目を向けると、いくつもの研究施設が建ち並んでいる。
正体不明の敵との戦争が始まってからは、軍の研究施設としても利用されるようになり、それらに対抗するためか、試作中と思われる実験兵器の姿よく見かける。
そんなものたちをぼんやりと眺めていたら、空から轟音が響いてきた。
見上げると、そこには人のような影がひとつ。スペースコロニーの薄い青空に溶け込んでしまいそうな淡い水色をした人型の機械。それが、紫白色に光るプラズマの尾を引きながら、空を滑るように華麗に飛んでいる。
「また踊ってる」
空中でステップを踏み、空を流れるように舞い踊る
「あのSWG,なんでいつも踊ってるんだろう……?」
SWG――Space Walking Gear――宇宙遊泳を目的に開発された、人の形を模した機械。
あのSWGに乗っている人間は
それなのに、なんだか楽しそうだ。ダンスのことはよくわからないけど、素人目にも楽しげに踊っているように見える。操縦技術も相当高いことが見てわかる。
――きっとつらいことも多かっただろうに。
今は、徴兵され訓練中なのだろうか。
戦争が続くこの時代に、「
搭乗している人物がどんな思いで、あの、軍用SWGに乗っているのか。強制的に戦争へ行かされることが決まっているというのに、相変わらずとても楽しそうに踊っている。
――どんな人が乗っているんだろう。いずれ戦場に送られることが決まっているというのに、どうして、あんなに楽しそうに飛べるのかな?
「志願兵でもないのに、なぜ?」
フェリシティ・ヘザリーバーンは、学校が終わるとすぐに自分の住むスペースコロニー「ダファディル」からシャトルに乗って、同型のスペースコロニー「ニューランズ」を訪れることが日課となっていた。研究施設が林立するニューランズの街並み。
フェリシティは、12歳の時から5年間、ほぼ毎日のように通い続け、ある研究に関わっていた。
「
(毎日こんなことしてて、いいのかな……? 新型SWGのデータを取るためといっても……)
「さてと、今日はどんな曲が来るかな」いつもの簡単な稼働テストを行った後、毎日楽しみにしている時間がやってきた。
いつものようにコックピット内に映し出されたダンス動画を見ながら、機体を使って踊り始める。
(この時間が一番好き)
人型の機械SWGに乗って自由に動ける。空を飛ぶことができるから自分の体以上とも言える。
充実した楽しい時間。嫌なことも、この時だけは忘れられる。学校にいる時みたいに周りの目を気にして縮こまってなくていい。心がスーッと晴れていき、モヤモヤしたものがすべて吐きだされていく感覚。
自由に自分を表現できているような、ありのままの自分でいられるような、そんな気持ちになれる。
そうして〈アルフェッカ〉を自在に操りニューランズの空を舞っていると、眼下に一つの人影を見つける。
「また来てる」
この研究施設が建ち並ぶ区域を取り囲んでいる丘に、一人の人物が座っているのを最近よく見かける。上下カーキ色の服装にブーツを履いている。
「軍人さん?」
〈アルフェッカ〉のカメラで拡大してよく見ると、やはりいつもの人物。自分と同じくらいの年齢の男の子。軍人にしては若い気がする。
「連盟軍工科学校」たしかそんな名前だった。
軍用SWGの一般パイロットを養成するための学校。自分と同じくらいの年齢の男の子たちが在籍していると聞く。
空を飛んでいると、地上で訓練している光景をよく見かける。
「そこの、人かな?」
その人は、見上げてこちらを見ている。
(今日も踊っているところ、ずっと見られていたのかな……なんだかすごく恥ずかしい……)
だけどSWGの中だから、素顔を見られているわけではないし、別にいいか、と開き直って再びダンスを続ける。
(SWGに乗っている時は人に見られていても不思議と気にならないかも)
その人は少し微笑んでいる。その表情から、喜んでくれているように見える。
それなら嬉しい。いつも辛そうな顔をしていたから。
ずっと俯いてばかりで、何だか大きな悩み事抱えている様子に見えた。
(下手なダンスだけど、少しでも気が紛れてくれてたらいいな)
「向こうの学校も大変なのかな……大変に、決まってるよね」
――あのくらいの年齢で、軍に志願して入るのって、どんな気持ちなのだろう。戦争が続くこんな時代に、「
フェリシティは、丘の上に座っているその少年のことが、ずっと気になっていた。
「徴兵義務もない人が、なぜ?」
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