Fランクの最強魔剣士。魔法を極めし前世最強の賢者。魔力適正0の無能としてと実家を捨てられる~だけど、そもそも現代の魔法理論が間違っていたようです。冒険者学院ではFランク扱いですが剣も極めて無双します~

つくも/九十九弐式

最強賢者、魔王を追って1000年後に転生する

『プロローグ』


長きに渡る冒険であった。勇者パーティーは長きに渡る冒険の末に、魔王を絶命させる寸前まで追い詰めた。


「うっ……ううっ……」


 だが、その代償は大きかった。勇者パーティーは魔王と同じく、虫の息だった。唯一まともに立っていられたのは『賢者』である『アベル』だけだった。


「終わりだ……魔王」


 アベルは瀕死の魔法に対して、トドメの魔法を放とうとする。


 ――だが、その瞬間。魔王がにやりと笑ったのだ。悪い予感がした。


「ま、まさか!」


 魔法を放つ際に、僅かではあるが間というものが存在した。その間に、魔王は良からぬたくらみを仕掛けてきたのだ。


 賢者であるアベルは魔王が何をしようとしたのか、瞬時に理解してしまう。


「ま、魔王! き、貴様! 転生の魔法を使用するつもりかっ!」



「いかにもだ……賢者アベルよ」


「させるかっ!」


 アベルは慌てて魔法を放とうとする。


「遅いっ!」


 魔王の体を光が包んだ。そして、その魂は異界へと放たれる。魔王は転生をしたのだ。


 魔王の亡骸はここにある。——だが、そこにはもう既に魂がない。失敗した。魔王を完全に消滅させる事はできなかった。


 世界に平和は訪れる事だろう。だが、魔王の魂は生きている。何百年、何千年間は平和かもしれない。しかし、その平和は有限のものだ。いずれ、魔王は蘇る事であろう。


 そうなれば確実に世界は再び、滅びの危機に陥る事になるのだ。


 そんな事、許せるわけがなかった。今が平和なら良いとはアベルは思えなかった。そんなものは束の間のものだ。仮初の平和でしかない。


 アベルは現世を惜しみつつも、魔王を追って転生の魔法を使用する決意をした。


 次こそは必ず、魔王を倒せるように。


 強さの高みへ至る事を心に誓ったのであった。


 ◇


それから1000年の月日が流れた。長い時間のようにも思えるが、転生の魔法を使用したアベルにとっては、それは眠りから目覚めた時のように、一瞬の出来事でしかなかった。


アベルは瞬時に理解をした、そこでアベルは『ゼスト』という名の少年に転生したのである。


ゼストはエーデルフェルトという魔法師の家系の元に生まれた少年に生まれ変わった。


エーデルフェルト家。それは何を隠そう、勇者パーティーの賢者であるアベルの血脈の家系であった。


だが、その両親達もまた、自分達の息子がそのアベル本人の生まれ変わりだとは思ってもみない事であろう。


「おおっ! ……よくやったぞ! エリザ!」


「は、はい……あなた、可愛い男の子です」


 両親は息子であるアベル——もといゼストが無事、生誕した事を喜んでいる様子だった。


 だが、この後その両親は天国から地獄に叩き落される事になる。


「早速、魔晶石で魔力適正を調べよう」


 父――ガイゼルはそういって、魔晶石を取り出した。この魔晶石は魔力適正を調べる魔法道具(アーティファクト)である。


「きっと……私達の子だから、優秀な適正を秘めているに違いないわ」


 二人は期待して、適正測定の結果を待ちわびた。


「な、なんだと! そ、そんな! こんなバカな事があるかっ!」


 しかし、ガイゼルは驚愕していた。


「あ、あなた、どうしたの? ……そ、そんなに凄い、適正が出たの?」


「お、おかしい! こんな測定出鱈目だ! こんなはずがあるかっ!」


「ば、馬鹿なっ! なぜ私達の息子に魔力適正がないんだ!」


 父であるガイゼルが喚き散らした。


 魔力適正がないだと? ……。ゼストは考えた。前世が世界最強の賢者であったゼストに魔力適正がないなどという事は考えづらかった。


 あり得るとしたら、この1000年間の間に魔法の体系が変化してしまったのかもしれない。


 だから前世が最強の賢者アベルであるにも関わらず、魔力適正が0として測定されてしまっているのだ。


「……なんという事だ! こんな事があっていいはずがないっ!」


「あ、あなた……」


 待ち侘びていた男子(だんじ)が生まれたという、本来であるならば歓喜すべき瞬間が、一瞬にして絶望の淵に落とされる事となった。


「ごめんなさい……あなた、私のせいで」


 母――エリザは涙を流す。その涙は勿論のように、悲しみの涙であった。


「くそっ!」


「あ、あなた! どうするつもりなのですかっ! その子を!」


 ガイゼルは実の息子であるゼストを奪い取った。


「決まっているだろう! 我がエーデルフェルト家は魔法の名家だ。その名家の跡取りが、魔力適正がないなどという事、あってはならない事だ!」


「……そ、そんな。せ、せっかく生まれた我が家の跡取りが……。でしたら、跡取りはどうするのです?」


「仕方があるまいよ……お前に子供が生まれないのだったら。そうだな、メイドのアリシアの奴が、最近孕んでいたんだよ……妾の子でしかないが、その子に魔力適正があれば、我が家の家督を継がせるとしよう」


「そ、そんな! さ、最近。あのメイドのお腹が膨らんでいたとは思いましたが、まさかあなたの子だったのですかっ!」


 ガイゼルは臆する事もなく、妻であるエリザに自身が不倫を働いていた事を告げた。全く悪びれる事すらない。自身の父とはいえ、いかがなものかとゼストは思った。


「うるさいっ! 文句があるなら出ていけっ! こんな出来損ないしか埋めない女など、我がエーデルフェルト家には必要ないのだっ!」


 ガイゼルは言い放つ。あまりに酷い言葉だ。ガイゼルにとっては妻であるエリザは生涯を共にするパートナーなどではないのだ。ただ優秀な世継ぎを生むための道具に過ぎないのだ。


「うっ、うう……」


 エリザは涙にくれていた。しかし、ガイゼルはそんな事はお構いなしで、ゼストを抱えて外へと向かっていったのだ。


「ま、待ってください! その子を! ゼストをどこにやろうというのです!? 私達の子供なのですよっ!」


「ふん……魔力適正もない無能な子供など、我が家系の恥さらしだ。捨ててくるだけさ」


「や、やめてくださいっ! あなたっ! 私がその子を育てますっ!」


「黙れと言っているんだっ! こんな不良品を生みやがって!」


 ガッ!


「ううっ……」


 ガイゼルは産後間もないエリザを蹴り飛ばす。そして、生まれたばかりのゼストを抱え、外へ出ていったのだ。


 ◇


 近隣の森の中だった。ガイゼルは泣き喚く息子——ゼストを置き去りにした。この森には多くの凶悪な野獣が現れる。武芸を嗜んだ成人男性でも危険な場所だ。


「……よし」


 ましてや魔力適正が0の赤子などが、到底生き延びれるはずもない。


「さらばだ……我が息子よ。お前が魔力適正のない無能に生まれてこなければこんな結果にはならなかっただろう……」


 そう告げて、ガイゼルはその場を去っていった。


 こうしてゼストは森の中に置き去りにされたのである。

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