悲劇のヒロインを殺す理想的な方法

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人生は悲劇の連続

 

 みなさん、突然ではありますが“悲劇”はお好きですか?


 別にドMであるとか、サイコパスなのかを聞いているのではありません。その辺りは個人の趣味嗜好であるので、心の中にそっとしまっておいてください。


 ここで私がお尋ねしたいのは、“ライトノベルにおける悲劇が好きかどうか”ということなのです。



 悲劇というのは往々にして負のイメージ。

 これを好きかと言われて、「はい、大好きです!」と答える方はあまりいらっしゃらないと思います。もちろん、居ても否定は絶対にしません。


 私は基本的にハピエン厨。めでたしめでたし、大団円で終わるお話が大好物です。



 しかしこの悲劇。あるジャンルの物語において、ほぼ必須のファクターとも言えるのです。

 いや、急に悲劇って言われても……と、いまいちピンと来ない人もいらっしゃるでしょう。


 辞書的に言えば『悲劇とは、不幸や悲惨な出来事を題材にし、受難とそれに対する奮闘を描くお話』。

 もう少しだけ厳密にいえば、主人公の破滅エンドが本来の悲劇……らしいです。


 しかし小説に限ってそれをやってしまうと、大ヒンシュクを買ってしまう恐れがあるんですよね。

 数千字~数十万字を時間と労力をかけて読んだのに、報われずに胸糞な鬱エンドを迎えたら、そりゃあやるせない気持ちになりますから。

(まぁ、そういう作品の中には名作もあるのは間違いないでしょうが)



 閑話休題、なぜ悲劇が必要なのかという話に戻ります。


 理由として端的に言ってしまえば、ストーリーを盛り上げるのに悲劇が最適だから、でしょう。

 感動やカタルシスを得るためには、一度キャラクターを落とす必要があります。その場合、頻繁に登場するのが“悲劇のヒロイン”という存在。



 最近のラノベで例を挙げますと、婚約破棄モノであったり、追放モノだったりが代表的でしょうか。

 それらがランキングの上位作品にも多く見られるかと思います。


 もしかしたら、知らない方もいらっしゃるかもしれません。こちらも簡単にご説明いたします。



 婚約破棄モノのパターン:冒頭で主人公は婚約者(王子や大物貴族、幼馴染など。一見すると理想の相手)に“婚約破棄”を告げられます。

 破棄の決め台詞は様々ですが、大抵は婚約者として相応しくない振舞いをした、というのがその理由。しかしそれは誤解や誰かの陰謀で、主人公に過失が無いことが多いです。


 追放モノのパターン:特定の地位や集団から追放される。冒険者のグループ、職業ギルド、国や村などから理不尽な理由を突き付けられることで、立場や環境を破壊されてしまいます。

 ここで重要なのが、“理不尽な理由である”ということです。本来有能であったり、その人物が居ないと立ち行かない状況になってしまうにもかかわらず、本人の意思に反して追放が行われることが肝要だと言えるでしょう。



 どちらも、分かりやすい不幸ですね。

 シチュエーションの差異はあれど、どれもテンプレートと言われてしまうほどに良く利用された“設定”だと言えるでしょう。




 さて、これらの作品を好きでお読みになっている方々。

 婚約破棄や追放をされた“悲劇のヒロイン”に心から感情移入をして、楽しんでいらっしゃるでしょうか。


 そりゃあ私だって、そのヒロイン(もしくはヒーロー)の事を可哀想だ、と思います。

 テンプレ展開も好きですし、初見でも分かりやすい導入で非常に優秀。実際にその設定で書くことも、ままあります。


 しかし心底同情したり、キャラに自分を重ね合わせる程かどうかというのは……どうなんでしょう。



 たしかにこの二つの手法は、簡単な悲劇の作成方法ではあるのです。


 両者に共通して言える要素。

 それは“分かりやすい悪役を用意する”ということ。


 一度でも主人公との対立さえ生んでしまえば、後は簡単。

 主人公と悪役で、何かしらのやり取りをするだけ。


 悪役を倒してざまぁしてもいいし、そのまま新たな幸せを掴むもよし。報われずに地獄落ちでもよし。

 それだけで物語が一本、書けてしまうのですから。


 しかし、唐突に良く知らないキャラクターに不幸なイベントがポン、と渡されたところで心から感情移入することは殆ど無いですし、「そうですか、大変ですね」ぐらいにしか思えないでしょう。(感情豊かで優しい方は心から同情してくれるでしょうが)


 ぶっちゃけてしまうと、その時点で主人公と読者の間には明確な壁が出来る。

 要するに、他人事になってしまうのです。



 ではどうしたら読者は悲劇のヒロインに感情移入することができるのか。

 理想的な悲劇のヒロインをクリエイトするには、いったいどうすれば良いのか……非常に気になりますよね。


 作者としては腕の見せ所、というべき部分なのでしょう。

 ここを明瞭に分析して実行できれば、売れっ子作家の仲間入りすることができるかもしれません。

 正直、このエッセイを書いている私が一番、知りたい。



 そんな心情はさておき。

 ここまで読んでいただいておいて、分かりませんでは締まらない。ですので、物語の構成的な部分での方法を少しだけ書いてみようと思います。



 通常、物語ないし、登場する主人公には何かしらの目的があります。


 それは別に何でもいいです。

 婚約破棄や追放した相手をざまぁしたい、世界最強になりたい、幼馴染とイチャコラしたい……なんなら残忍に人を殺したい、でもオッケーです。


 結局は目的や欲求を明確にし、その理由づけをしっかりとさせるのです。


 ここで注意したいのは、あくまでもテンプレを使うのは目的までということ。理由付けはキャラクターそのものの独自性が重要なので、そこはしっかりと作者自身が考えて決めるべきです。


(脚本術では外的な目標や内的な目標といったものがありますが、ここでは割愛。より踏み込みたければご自身で調べてみてください)



 そして口だけではダメです。実際にキャラクターが手や足を動かさなければ、読者はストレスが溜まるでしょう。つまり、その目的を達成させるために行動させる。


 冒険に出るなり、復讐の根回しをさせれば、あらビックリ。有言実行で魅力的な悲劇のヒロインの誕生です。



 ……まぁこれらを考えるのが大変なんですけれどね。凄惨な過去を用意したり、困難に立ち向かわせたり。

 裏を返せば、そこが創作の醍醐味でもあります。頭をコネコネしつつ、あーでもないこーでもないと楽しみましょう。




 いかがでしたでしょうか?


 “ライトノベルにおける悲劇が好きかどうか”


 悲劇と言っても、物語に起伏は必須。

 現実ノンフィクションにだって悲劇は溢れているんですから、創作フィクションの中ぐらいでは面白い悲劇を演じてもらいましょう。

 もしヒロインを殺すなら、本懐を遂げてから殺しましょう! 使い捨てはダメ、ゼッタイ!!


 目指せ、理想的な悲劇作家です!!





 ~余談~

 冒頭で私はハピエン厨と溢しました。

 ぶっちゃけ、最終的に超絶不幸エンド(好きな人と結ばれずとも心中するとか)でも、悲劇のヒロインの心だけ満たされていれば私の中ではハピエンです。そんな話も大好きです。読みたいので皆さん是非書いてください!!(笑)



 さて、一時間ほどかけてこのエッセイを執筆しましたが……全く読まれなかったらコレって悲劇なのでは!?

 つまり、このエッセイが悲劇になるか喜劇になるかは、これを読んでくださった貴方次第……!!泣



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