弟がバ美肉で活動しているから俺もする
椎那
第1話 黒い箱と俺
ーーーー俺は今とても困惑している。
先程まで元気な笑顔を見せていたのに青い顔をして固まる弟、軽快なBGMが漏れ出すヘッドフォン、そして俺が固まる原因となった"弟の動きに合わせて動く女の子の姿"…
見たままの状況がたった今起きているということを…
時は遡る事1ヶ月前。
弟である稲葉 翔(いなば かける)は、高校生になってから遅めの反抗期が来てしまったようだ。
「部屋、これからは自分で掃除するから勝手に入んないでね」
そんなことを学校に行く前に捨て台詞のように放った。
「どうしたの翔いきなり……あ、もしかして……翔も男の子だもんねっお母さん嬉しくなっちゃうな……」
「違うっ、そういうんじゃないって」
「あら、じゃあどういうのなの?」
「ぐっ……別に何でもないよ。言ったからね、兄ちゃんも分かった?」
にまにまと笑う母をよそに翔は俺にも宣言をする。
「あ、もしかして俺も入っちゃダメなのか?」
「ダメ。だから漫画とかゲームとか、俺が学校から帰るまでは部屋にも入んないでね」
「え〜翔く〜ん、俺は入っていいだろぉ?暇な時どうすりゃいいんだよ〜」
「暇なら大学の課題?とか期限前に終わらせたら?どうせすることしない暇人みたいなもんなんだから」
「なんだとぉ〜?そんなこという翔くんはくすぐっちゃうぞぉ〜?」
翔の兄にあたる俺、陸(りく)は翔とは4つ歳の差のある大学生だ。学生生活にも慣れ、単位が必要な授業に出るという生活をしている。まぁそんなことはさておき、
「ちょっとまじで真剣に聞いてんの?勝手に入ったら兄ちゃんの秘密母さんにバラすから。じゃあ行ってきます」
俺のくすぐりに近づいた手を振り払った翔はバタンと玄関の扉が大きな音を立てて閉まる。
その扉をしばらく母と見つめて、
「そっかぁー……翔も反抗期かぁ〜……。陸、あんた翔のこと、任せたよ!」
「え、俺?」
「当たり前よぉ!お母さんみたいにピチピチで可憐な女の子にはわからないことがあるんだからっ」
「どこがぴちぴちだか……」
自分の部屋に戻る途中に母に尻を蹴られた。
……と母は言ったものの、実は翔とはどうコミュニケーションを取ればいいか悩んでいた。
父を早く亡くしてから女手ひとつで息子二人を育てていた母を気遣い俺もバイトに手をつけていたが、当時中3の受験期真っ盛りの翔のことを二の次にしてしまったことがある。
それがきっかけか分からないけど話すことも少なくなり、今では他愛もない会話や挨拶程度になってしまっていて正直困っている。
一年が経った今では母は若いながらもパートの中では偉い立場になったこともあり、金銭的に少し余裕が出てきたためバイトを少なくした。
ーーーーだからこそ、困るのだ。
家で過ごす時間が増えた分暇な時間が増えるわけで、話し相手が欲しくなるのも時間の問題で。でも何を話せば分からないのが今の現状で。
「う〜ん、課題も家で全部終わらせちまったし……漫画読みたいけど翔には『部屋に勝手に入るな』って言われちまうし……出かけても浪費しちまうし……」
おまけに翔の部屋にあるゲームや漫画も気軽に持ち出せなくなるしで退屈のピークが来ていた。
「……翔が帰ってくる前にちゃんと返せばバレないよな?」
俺は翔の破ることに罪悪感を感じながらも翔の部屋のドアを開ける。
久々に翔の部屋に入ったが以前入った時の記憶のままで特に変わった変化はない……だが、
ひとつだけドン、と机の横に比較的大きめな箱のようなものが置かれていた。その箱は至る箇所が光っており色がランダムに変わっていた。他にも机の上に薄型テレビのようなものもあったが今は大きな箱のほうが気になっていた。
「なんだこれ……コードがいっぱいあるな。なんかの機械なのか?」
まじまじと近づいてよく見ようとした…その時、
「ただいまー」
「っ!!」
翔がいつもより早く帰ってきたのだ。
いつもなら今日より二時間ほど後に帰ってくるのに……そう慌てながらも静かに扉を開けたままだった翔の部屋を出る。
つもりだった。
ビンッ
機械に接続されていたコードが足に引っかかり、足がもつれそのままドアを通り抜け壁に激突する。
「あだぁっ!!」
「っ!??兄ちゃん!?ただいま…ってなにしてんの?」
トントンと階段を登る音が聞こえてきて、陸は内心焦りながらも音を立てずに扉を閉めてそのまま自分の部屋の前に立って鼻をさする。
「いやぁ……ちょうど部屋を出ようとした時に足が滑ってぶつかったんだ〜あはは、はは〜」
「ださっ。気をつけなよ……」
ため息をつきながら陸の横を通っていく翔。
(よかった…なんとかばれなかった)
安心して茶でも飲みにいくか、と階段を降りようとした瞬間。翔の部屋から「わぁー!」と驚いたような声が聞こえた。
びくりと肩を揺らし、緊張な面持ちで翔の部屋の扉を開ける。部屋を覗くと先程の箱の前でリュックをぼとりと落として固まっていた。
「翔?どうした?」
「ゲーミングPCのコードが……抜けてる……なんで……学校行く時カバンが変に引っかかったとか?うわぁ最悪だ……」
「……げーみんぐぱそこん?」
緊張していたのに、初めて聞く言葉にぽかんとしてしまう。
「ノートパソコンより性能が良いパソコンのこと。ヒートとかしにくいんだよ、兄ちゃん意外とそういうの疎いよね……ってそうじゃなくて!あぁぁぁ電源つけたままだったのに……データとか飛んでないよね!?」
翔は箱に付いているボタンを押してから素早く椅子に座り、テレビの電源をつけ始める。そしてしばらくしてから陸でも見たことがあるパソコンのデスクトップ画面が映し出される。
「よ、よかった……なんもデータとか消えてなかったぁ……」
安心した翔は椅子の背もたれにもたれ掛かる。
「そのでかい箱はパソコンなのか?」
「うん、これがパソコンの本体でこっちはモニター……って部屋に入るなって言っただろ!?早く出て出てっ!」
翔はぐいぐいと陸の背中を押して部屋から出そうとする。
「あ、もしかしてそれが部屋に入られたくない理由か?」
「は?」
ぴたりと翔が背中を押すのを止めた。
「いや、前勝手に部屋に入るなーって言ってただろ?それってこのパソコン買ったからかなーって。でかいもの買ったりするとなんか母さんに見せられるの気まずいじゃん?俺も前CDラック買って部屋に置いてたらびっくりされてさー……あ、一時期翔が通販多かったのってこれ?」
陸はコードが抜けた原因が自分だとバレない様に大学受験時の時よりもフルで頭を働かせて、爆速に脳内処理と口を動かすことだけに特化したロボットのようになってしまっていた。
翔は一人でベラベラと話が止まらない兄の姿をしばらく固まって見ていたが翔はぽそぽそと呟いた。
「別にそれだけじゃないけど……とりあえず『のえる』のデータ消えてなくてよかったぁ……まぁほら部屋出て!母さんには内緒ね!」
「はいはい…見つかっても俺からなーんも言いませんよ〜」
部屋を出た瞬間バタンと扉が閉められた。
「……『のえる』?」
かすかに聞こえた人名のような単語だけを疑問に思う兄を放置して。
弟がバ美肉で活動しているから俺もする 椎那 @shiina1226
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