2回のいつか。

@rrhh230

第1話 まだ知らない

8月2日

 24歳になっても遠足前の小学生のように寝付きが悪かった。でもなぜか目覚めは良かった。朝9時に車2台の9人で向かった先はショッピングモール。そこの食料品売り場で食材を買い、バーベキューをしに行く予定だ。大学時代に仲の良かった男女のグループであり、社会人になって久しぶりに全員が揃う日だった。

 その中には僕が大学1年生の頃から好意を寄せているハルカという女の子もいる。僕を含めみんなからはハルと呼ばれている。久しぶりに会うハルは大学時代に思っていた可愛いと言うよりも美人と言った方がいいかもしれない。ロングだった髪型もショートになっていて、また惚れ直してしまった。たぶん寝つきが悪かったのは大学時代の友達よりも、ハルに会えるのが嬉しくてついウキウキしていたのかもしれない。

 ハルが買い物中に、ショウちゃん!と呼んだ。

 僕の名前は海野翔太(ウミノ ショウタ)。ほとんどの人は僕のことをショウちゃんと呼んでくれる。

 「ねぇ、ショウちゃん!これ見て!まだ生きてるよ!!」

と、指を差した。笑顔と驚いた顔が混じったような表情をしていた。懐かしい感覚がした。いつも無邪気に話しかけてくれていたハルだ。

 もし大学生に戻れたとしてもハルに打ち明けていれただろうか。ハルに彼氏がいた時は僕は彼女がいなくて、僕に彼女がいた時はハルは彼氏がいない。すれ違ってばっかりだった。と、言うより僕はハルのことを諦めていた。憧れの存在でいいと思っていた。

 遠くから声が聞こえた。

「そろそろいいー?もうお会計済ますよー?」

みんなで手分けして車へと運んだ。

 バーベキューができる管理場へ着いたがスタッフからの話があった。

「敷地内全て禁煙となっております。」

喫煙者の僕はがっかりした。バーベキューには酒、酒にはタバコ、タバコにはバーベキュー。方程式が崩れた。あいにく酒はあまり飲めないが、タバコは欠かせられない。

「禁煙なんやねー。残念。」

ハルはタバコを吸わないが吸っている人を渋くてかっこいいと思っている。僕がタバコを始めたきっかけだ。

 この管理場は隣に川が通っている。酔い覚ましに川遊びへとみんなで行った。やっぱりハルにしか目が行かない。別の女の子が僕に話しかけた。

「ショウちゃんまだハルのこと好きでしょー。」

僕が唯一ハルのことで相談をした女の子なので事情を知っている。焦って言い返した。

「そ、そんな事ない。何年前の話だよ。」

「お見通しだよー。目は正直ものだね。でもね、ハルは今同じ会社の人と同棲しているんだよ。付き合ってもう2年経つらしいよ。」

胸が痛くなった。そんなに取り返しのつかない所までいっているのか、と。

「でもまあ、憧れだから…」

 「ショウちゃーん!一緒にアイス買いに行こー!」

何故かハルはやたらと僕に話しかける。

「うん、行こう!」

 そう言えば、2人だけで一緒に歩く事ってあったっけ。あ、思い出した。大学に入ってまだ1ヶ月も経っていない時だ。2人で一緒に帰ったっけな。たぶん、ハルのことを好きになったのはその時だ。途中コンビニに寄って僕はマウントレーニアのノンシュガーを飲んだ。前から好きだった飲み物だ。ハルは僕の真似をして同じものを飲んだ。たしか苦いって顔して文句言ってたっけな。あー、懐かしい。悲しいくらいに懐かしい…。

 また無邪気な顔をしてアイスを選ぶハル。やっぱりまだ好きだ。でももう手遅れなんだと自分に言い聞かす。言い聞かせば言い聞かすほど自分に反発したくなる。

「あ、ショウちゃんの好きなコーヒーおいてるよ!これも買おうよ。一緒に飲もう!」

覚えてくれてたんだね。

「いいよ!買おう!アイスも忘れないでね。」

2人で微笑むこの感じ。ずっと続けばいいのに。

 帰り道、コーヒーを飲みながら歩く僕に不満気にハルは言った。

「ねえ、全部飲んじゃう気?一緒に飲もうって言ったじゃん!」

ん?一緒にって、そう言うこと?そういえばコーヒーは一つしか買ってない。ストローだから口をつけることになるけど嫌じゃないのかな。内心では慌てる僕だが、強がった。

「あー、ごめんごめん。どうぞ!」

「やった!んー、おいしい!」と、躊躇なく飲むハル。あれ、飲めるようになったんだ。でも、もうだめだ。伝えたい。伝えたところでバカにされるよな。大学を出て随分と時間は経ったし。まあいい、あと少しで着く。あと少しだけど、この時間、宝物にしよう。

「ねえショウちゃん。」

「ん、どうした?」

「アイス買ったの忘れてたね。」

「あ」

溶けかけたアイスを急いで食べた。

 「そろそろ片付けだけしてしまおうかー!」と、幹事からの合図がかかった。さすが酒豪達。空き缶の量が凄いことになっている。1人当たり何本の計算だろうか。お酒をあまり飲まない僕は毎回驚かされる。でもやっぱり女の子がいると手際がいいのなんの。あっという間に片付いていく。情けない男たち。何をしていいのか分からず、する事を探していると、

「ちょっと!綺麗にしたところよ!汚さないでよ!」

「ねえ、それ私のバッグ!そんなところに置かないで!」

「なんでそれで机を拭くのよ!それ雑巾よ!」

頭が上がらないと言ったところであろうか。挙げ句の果てにどっか行ってと言われた男たちは悲しそうな顔をして川へと向かった。

 帰りの車で夜ご飯の場所を決めた。まだ飲み足りないらしい。居酒屋へ向かった。思い出話で盛り上がり、大学時代のノリと雰囲気で包まれた。気付けば23:00。もうさすがにお開きだろうと幹事は切り出した。

「またみんなで集まろうね!」

次の約束をし、1人ずつ送ってもらった。

 僕が家に着いたのは日を跨いでいた。夜中の12:00だ。もう、疲れた。シャワーだけ浴びてさっさと寝よう。みんなを起こさないように寝支度を済ませてベッドに入った。

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