彼女からのプレゼント

バブみ道日丿宮組

お題:今度のプレゼント 制限時間:15分

彼女からのプレゼント

「おはよう」

 朝早くに通学すると、彼女に声をかけられた。

「ねぇ知ってる? 私妊娠したんだ」

 なんて返せばいいのかわからなかった。おめでとうなのか、ご愁傷さまなのか。あるいは……?

「誰の子だと思う? なんと、なんとあなただよ」

 彼女とそういう行為をした覚えがまるでない。

 自分自身でやることはあっても、他人の手に触れられるということは決してなかった。

 これからもおそらくないはず……なのに、

「ありえないって顔してるね? なら、これ見なよ」

 手渡されたのは診断書。

 そこには確かに妊娠したという情報が書かれてた。彼女は妊娠してるようだ。

 だが、僕が親であるという情報はどこにもない。

「ふふ、困った?」

 そりゃぁ困る。

 高校生になった瞬間にパパになるなんて、地獄のようだ。

「大切に育てるからさ、結婚しようよ?」

 どうしてそうなるのか。

「だって、あなたの子どもだよ? いや……私たちの子どもなんだよ。だったら、親はくっつかなきゃ子どもに悪いでしょ」

 だから、その行為をした記憶がない。

「試験管ベビーって知ってる?」

 ぞくりとした。

「子どもを作るのにセックスなんて必要ないんだよ」

 満面の笑みだった。恐怖した。冷や汗がどばどばとでてくる。

 試験管ベビーだったとしても、僕は精子を提供した覚えがない。

「覚えてないの?」

 わからない。彼女が何を思い浮かべてるのか見当がつかない。

「夢の中でとても気持ちよくなる時なかった?」

 震えがした。

「私何回もあなたの部屋に忍び込んで、ちゅっちゅって吸ってたんだ。寝てるのにたくさん出たんだ。ちゃんと保存もしてるよ。あなたの味好きだもの」

 呼吸が激しくなった。

「一番新しいのは一昨日のかなぁ」

 どうやって、部屋に入り込んだ?

「不思議がってるね? 親御さんに合鍵もらってるんだよね」

 彼女はポケットに手を突っ込むと、鍵を取り出した。

 もちろん、僕にはそれがどこの鍵なのかはわからないが、彼女がいってることが正しいのであれば、僕の家の鍵になるだろう。

「一人暮らしっていいよね。誰にも秘密を知られずに過ごすことができるんだから」

 診断書はあげるよと、彼女が笑う。気の利いたプレゼントということらしい……。

 冗談じゃない。

「私の家のこと知ってるよね?」

 わかってる。

 だからこそ、たちが悪い。

 僕がなにかしようとしても妨害されるだろう。それが権力者というものだ。

 ただ……そんな存在の娘がよくわからない男との子どもが生まれるとなれば、慌てるはずだ。

「気になる? 大丈夫。パパたちはできの良いお姉ちゃんしか見てないから。それでも、お金を出したり、お願いごとを聞いてもらったりは出来てるから、良い親だとは思う」

 娘の暴走を止められない親が、本当に良い親だというのか。

「そうそう。一緒の家で暮らすために、引っ越し業者とか頼んでおいたから」

 心底彼女は楽しそうだった。対して僕は、うつむくしかない。

 ーー逃げられない。

 逃げることのできない手錠を僕はプレゼントされたのだった。

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