第22話 夜中は静かに寝るのです。

「(※英)夜中?私はずっと寝てるわよ?」


 その事を聞かされたのは、私が日本から帰国して2週間が過ぎた頃です。

 姉が深夜、トイレに起きた時に、鼻歌を歌いながら起きている私を見た。と言うのです。


『(※英)そんなわけないわ。だって私見たのよ。』


 その日のうちに、私は竜也に相談してみました。


『僕は分からないな。けど、心当たりがあるなら例のメモ。僕の父さんじゃない?シェリーが寝てる時だけ出て来るなら、ノートに質問を書いてみたら、返事が来るかも』


 竜也のメッセージを見て、私は早速新しいノートを机上に出して、英語と日本語で《パパさんへ》と書いて、中に早速質問を書きました。


(んー。まずは簡単な質問からでいいよね)


 私が書いた質問は3つ。書いた人物が誰であるか。何をしているのか。英語は理解できるか。それぞれつたない日本語で書いてみました。


 質問の答えが返ってきたのは、それから2日後の事でした。


(毎日出てくるわけではないのね。)


 早速返事を見てみると、そこには自分が竜也の父である事、寝れないので寝れるまで起きている事、英語は私と知識を共有しているので、理解している。と英語で書かれていました。


(やっぱり竜也パパなのね。)


 もし、この事が身内に知れたら、悪魔でも乗り移ったのではないかと、心配される事でしょう。


 そんなやり取りは1週間続きました。そして、その事を竜也に話して聞かせました。(ちなみにLINE電話です。)


『んー。多分、それは父さんじゃないかも…。』


「え…?」


『父さんは英語話せないし、例えシェリーと一緒になったからといっても、話せるようにはならないと思う。』


「じゃあ…。じゃあ…あのやり取りは何なの?」


 私の問いかけに、竜也は既に何かを調べていたのか、すぐに答えてくれました。


『多分、寂しいのか、不安なのか、だと思います。僕達、すぐに会えないし、だからストレスって言うのかな。自分でも起きていた事すら忘れて…』


「…。」


 不安が無いと言えば嘘になります。姉から色々言われて、結局何も解決できず、その後も何も相談出来ていなかったのが、強烈なストレスになって、勝手に自作自演してのかもしれない。

 竜也は笑顔で私に言い聞かせる。


『僕が君に言える事はただ1つ。約束は必ず守る。いい?必ずだ。不安な事があれば必ず電話しよう。お互いの声を聞けば、不安なんて消えるさ。』


「竜也…Thank you!」


 竜也の言葉に勇気が出た私は、ようやく両親に気持ちを話す事にしました。私の話しを聞いた両親は、複雑な顔をしていました。


『(※英)…。シェリー、本気なの?』

『(※英)そうさ、学校なら地元で十分じゃあないか。わざわざ日本を選ばなくても…。』


「(※英)パパ!ママ!私…本気です!だから、パパも教えて欲しいの。私の手術、いくら掛かったの?隠さずに話して。私も手助けがしたいの。少しでも楽になったら、行っても良いでしょう?」


『(※英)シェリー。それは君が気にする事では無い…。私達はどんな困難があっても、子供達の味方だからだ。』

『(※英)けど貴方。シェリーがここまで強い気持ちで、私達に何かを伝えた事なんて無かったわ。それも我儘ではなく、自分の将来を見据えた決断よ。』


 パパはママの言葉にしばらくの沈黙の後、ようやく何かを決断したように私の顔を見ました。


『(※英)すぐには無理だ。だが、シェリーが本当に家族の事を想っているのなら、その気持ちをパパは大事にしたい。向こうでもシェリーの体をケアできる環境を整えなければならない。それだけは分かって欲しい。』

「(※英)はい。ありがとう…パパ。」


 私は両親と交互にハグをして、その日は笑顔で夕飯を食べました。その夜から、私が夜中に不審な行動をとる事が無くなったそうです。


(やっぱり、色々な事が重なり過ぎて、ストレスになっていたのかな)


 原因を理解した私は、途中まで書き綴っていたノートの、未記入ページ以外を全て破って捨てました。


(もしかすると、最初のメモも…?でも私の記憶にもない内容まで書かれていたし…。ん~謎?)


 それからの私は、学業を疎かにしない程度にYouTuberとしての活動も続けました。全ては順風満帆にいっていると思った矢先、私は病院に入院してしまいました。

 始めは風邪だと思って病院を受診しましたが、気づけば肺炎を併発、高熱に苦しむ入院生活となってしまいました。そう、私は新型コロナウィルスに感染していたのです。幸いな事に、免疫抑制剤を飲んでいたため、早くにワクチンを摂取できていたので、大事には至りませんでしたが、父は私の体を心配し、日本行きは延期となってしまいました。


(はぁ…はぁ…苦しい…。息をする度に胸が痛い…。)


 入院中は常に酸素マスクを付けたまま。意識があると常に息苦しさが続きました。


(竜也…心配してるかな…。)


 スマホは自宅に置きっぱなし。毎日1通以上はやりとりしていた竜也とのLINEも、入院前日を最後に途切れたままです。世界中どこにいても、病気の流行はニュースになっているはずなので、私の音信不通はコロナのせいだと思ってくれると良いのですが…。


 

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