第17話 ボーイズサイド(竜也の日常その2)
学校の帰り道に女の子を助け、自宅で介抱したところ、実は私こと、佐藤 竜也を知っている事が判明。友人には冷たい視線を浴びせられ、更に二人きりにされてしまった。
(こ…こうなったら、やってやんよ!)
僕はどうにか彼女と会話して見ることにしました。
「あー、俺、何かした…かな?あ、英語だと何て言うんだ?」
『ふふっ。』
すると、僕の緊張とは裏腹に、彼女は急に笑い出しました。そんな些細な笑顔に僕の心は、まるで弓矢に打ち抜かれたような衝撃が走ります。
『タツヤ、ダイジョブ。私、日本語、話せる、よ』
彼女の一言に、僕はすっかり緊張が解けて、その場に座り込んだ。
「何だよ。日本語解んのか。すげー焦ったぞ。」
『ふふっ。ごめんなさい。皆さんの話に、入れなかった。初めまして。私の名前は、シェリー・ウィリアムズ。』
「あ、日本語に慣れてないのか。それは悪かったなシェリー…さん。じゃあ改めて…。俺の事知ってるのはどうしてかな」
僕の質問に、彼女は少し考えながら辺りをチラチラ見ている。そして、何かを決意したのか、軽く頷く。
『タツヤにだけ、教える、今は。』
シェリーは僕の父さんの写る写真を指差してそう言いました。
『私の心臓。2年前に、
そう聞いて正直驚きました。確かに父さんは2年前に事故で死んでいる。そして、心臓だけが移植用としてどこかへ行ったと聞いていた。
「おいおい…冗談だろ?確かに父さんは、2年前に事故で死んだけど…。」
『本当の話、けれど、移植者の家族、本当は会うのダメ、ルールだから。』
それを聞いた僕は、そんなルール違反をしてまで何故来たのか、苛立ちが抑えられませんでした。
「じゃあなんで会いに来たんだよ!!」
すると彼女はビクッとして、すぐに身を守るような構えをする。少し言い過ぎたかと思って、僕はすぐ自分の気持ちを抑え、冷静になろうと務めました。
『…。信じてもらえないと思うけど…。移植した最初の時、私にはタツヤのパパ、記憶があった…。』
「記憶が…?」
彼女は自分の荷物から一冊のメモ帳を取り出しました。そこから見せたいであろうページをペラペラとめくり始めました。ちなみに当たり前の事だが、全ページ英語で読めません。
『全部英語、だから読めないと思うけど、ここにタツヤの名前…ある。』
彼女が指差すところには、しっかりと『TATSUYA』とローマ字で記されていました。英語を小学3年から始めて、現在で読みくらいはなんとかなると思っていたのに、実際に見る生の英語文字は、自分でも衝撃が走るくらい理解するのに時間が掛かるものでした。自分の英文読解力がまだまだ足りない悔しさと、父さんが死んでから今までを振り返ると、少しイライラしている自分がいました。
「…。ふざけんなよ。いきなり逝っちまってから2年間、母さんは必死で働いて俺達を育ててくれた…。それがいきなり心臓だけ戻って来るとか…まだ信じられない。」
自分でダメと分かっていても、つい込み上げる想いを吐き出してしまう。
『…。ごめん…なさい。』
「シェリーさんが謝ることじゃない…。父さんは…とても優しい人だったから…、きっと俺達家族を心配して、シェリーさんをここに呼んだんだ。むしろ、大変な想いをしてまで、ここに来てくれた事に…こっちが謝りたいくらいだ」
(ああ!もう!冷静になれ俺。彼女は何も悪くないじゃないか。)
彼女の謝罪に、僕はすぐにフォローを入れる。そして自分自身に落ち着くよう言い聞かせた。
僕はそれから冷静を取り戻し、彼女と何度もメモの内容について検証を行った結果。彼女のメモに残された父さんの個人情報は、僕の記憶にある父さんの情報と完全に一致していました。そして最後にこう質問してみました。
「なぁ…今でも記憶は残っているのか?」
彼女は横に首を振りました。
『…。ほとんど…ありません。私自身が、このメモを書いた、記憶がほとんど無いのです。』
「そっか…。でも、ここまで来て、正確な情報があるんだから、本当なんだろうな。」
『信じて、くれますか?』
「…ああ、勿論だ。こんな田舎へわざわざ来てくれたのに、嘘を言っているようには聞こえなかったし…ね。あ…、ずっとしゃべりっぱなしだったな。これ…水分補給必要だろ?」
『あ…。』
僕は彼女に水分補給用のスポーツドリンクを手渡す。彼女は軽くお辞儀をすると、すぐ開封しゆっくりと飲んでいく。そんな姿ですら、僕の心をドキドキさせる。
「あ…どっか食べに…」
と言いかけて、僕は壁に掛かった時計を見ると、これから出掛けるには遅い時間になっていました。
(夏場だから夕方とは言え明るいんだけど、さすがに外食は無理かな…お小遣いもそんなに持ってないし…)
「あ~うち食べるのカップ麺くらいしか無いんだけど、コンビニで買ってこようか?」
彼女にそう提案すると、彼女は辺りを隅々まで見渡しているようでした。
『…見て…いい?』
それは我が家の冷蔵庫でした。
「あ…はい。イエス」
冷蔵庫を開けて中を確認したシェリーは、次にスマホを覗き込み何か操作をしているが、上手くいっていないようでした。
「あ…Wi-Fi…使う?」
シェリーはそれを聞いて2回頷きました。僕は昔父さんから教わっていたWi-Fiの繋ぎ方を、シェリーのスマホで操作し無事に繋がると、やっと目的のアプリが起動したらしく、シェリーは笑顔を見せた。
『センキュー、日本、私のスマホ、Wi-Fi無い、使えない。助けてくれた、お礼に、料理作る。オッケー?』
「お…おう。オッケー…。」
シェリーは冷蔵庫に保管してあった野菜や調味料を取り出すと、スマホを片手に料理を作り始めるのでした。
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