第16話 ボーイズサイド(竜也の日常その1)

 僕は佐藤 竜也。13歳の中学2年生。都会とはかけ離れた田舎で母親と父方の祖父母の4人で暮らしています。兄弟は6つ上の姉が一人、今は東京の大学に通っています。父は2年前に事故で他界し、一周忌が終わったところでした。


『竜也、今日の国語どうだった?』

「あー、まーまーかな?」

『竜也の「まーまー」は、全然余裕って事じゃねーかよ!』


 今は夏休み前の期末テスト中。友人達と普段通りの日常を送っていました。僕の自宅は閑静な住宅街の一角にある一戸建て。僕の祖父が建てた家で学校にも近く、友人達の溜まり場になる事が多かったです。


『今日も竜也んで勉強会しようぜ?明日、英語だしよ。得意だろ?な?竜也。』

「一応…な。」


 いつもの帰り道、ジリジリと暑い日でした。


『竜也?おい、あれ!』

「あん?どうした。翔」


『おめーん家の近く、誰だ?女の子だよな。』

『なんか、座り込んでないか?』


 よく見ると、後ろ姿ではあるけど、腰までありそうなブロンドヘアーの人が、大きな旅行カバンを抱えるように座り込んでいた。

 僕達は急いで、その人の元へ駆けつける。


『お姉さん、大丈夫ですか?』


 友人がすぐに声を掛けるが応答が無い。


『なあ、竜也たつやん家すぐ近くだろ?俺達も手伝うから運ぼうぜ。』

『ってか、めっちゃ美人じゃね?』


 よく見ると、やはりその人は外国人の女性でした。


「救急車必要かな?」

(と言うか、今は美人だとか関係なくね?)


『熱中症かも…。俺、サッカーで対処法習ってるから急ごう。』

「あ、ああ。今、鍵開ける。」


 翔は手際良く氷をビニール袋に詰めてタオルで巻き、寝かせた彼女の両脇や首元にあてる。


『目覚めたら、ポカリでも飲ませよう。もし、ダメなら救急車な』

「マジすげぇな。翔。勉強はダメだが…。」

『ちょっおま、一言多いっつーの。』


 体を冷やし始めてから、彼女はとても良く眠っている。


『竜也、これマジ重てぇんだけど、何入ってるんだ?』

「そりゃあもう、旅行カバンだから、着替えとかだろ?見るなよ?女の子のなんだから。」

『いや、まず開けられねーって。鍵掛かってるもん』


 僕はもう一度彼女を見る。


『さっきも言ったけど、めっちゃ美人じゃね?』

『スタイルも良いし、いくつだろ?おっぱいでけーな。』


「優斗、おめーおっぱい星人だろ…。」

『竜也もだろ?好きな芸能人、グラビアアイドルの○○だったろう?』

『マジ?竜也、俺も好きだわ。』


 彼女の衣服から、これでもかと言うくらい分かるスタイルの良さに、中二男子のエロトークが止まらない。


「おい、とりま、彼女が目を覚ますまでに勉強やっちまおうぜ?ぼこられても知らねーぞ?」

『分かったよ。竜也。終わったらスマブラな?』

「ったく、翔とやると勝てる気がしないんどけどな。」

『運動とスマブラは、翔が一番だしよ。』


 僕達はまず明日のテストに向けて、勉強会を始める。しかし、一時間も経つ前に全員がダラダラモード。気づけば僕以外の友人達で、スマブラやマリカなどのゲーム大会が始まってしまった。


 そうしてしばらくの時間が過ぎました。


『マジ、そのコンボえげつねぇな。』

『そうか?慣れれば簡単だそ?』

『あーー落ちたーー。』

『なぁ、今日はおばさん居ないんだっけ?』

「あぁ、母さんは午後から仕事だからな。何か食べていくか?」

『いいよ、結局コンビニ弁当だろ?誰、買いに行くんだよ。』

「ジャンケンで負けたやつ、もしくは次の対戦で負けた奴にすっか?」


 その時、隣部屋への襖が開いて、あの女の子が起きて来ました。


『お!竜也、起きたみたいだぞ。』

『お姉さん、起きて平気?』


 目も正にと言える綺麗な色をしているその人は、翔の対処が良かったのか、元気を取り戻したように見えました。


『sorry. We apologize for the inconvenience.』


(うわーすっげーネイティブな英語きたーー)


 思わずそう思いました。


『うお!マジ外人じゃん?やっべ、俺、英語苦手なんだよ。』


 彼女の英語に皆驚き、僕達はスクラムを組んで小声で相談をします。


『おい竜也、おめー英語が得意だったよな。通訳できるか?』

「いやいや、成績と話せるの違うから無理。しょうは?…無理か」

『ってか俺ら皆、中学校レベルだからダメじゃね?』

『翔は英語の成績ダメダメだろ』

『うっせーよ。頑張ってるんだよ。』


 すると、彼女の口から出た言葉は、私にもすぐに分かりました。


『Are you Tatsuya? Tatsuya Sato?』


『え?あ、ハイ。タツヤです。あ、マイネームイズ タツヤ サトウ。』


 僕は咄嗟に英語で対応してみる。


(なんで、僕の事を知ってるんだ?僕は全然知らないぞ?もしかして、父さんの隠し子とか?)


 周りを見ると、友人達の視線が僕に集まっていた。


『え?何?竜也の知り合い?』

「いや、知らないよ。俺は外国行った事ねーし。」


 すぐに対応するも、たまにクラスメイトで近所の幼馴染と仲良くしていた僕は、クラスからもリア充と言われていたため、良い反応がありませんでした。


『ちっくしょー。おめーだけいつもズルいぞ!』


 そのうち、彼女の目から急に涙が出てくるのが見える。


(ちょっ!泣くなよ!あー、どうすればいいんだよ。)


 周囲から更に冷たい視線が感じられます。


『あーあ。泣かせたぞ?竜也。何とかしろよ』

「いや、何とかって言われても、分かんねーよ。」


 すると、翔が急に立ち上がって、僕に片手を上げてくる。


『た…竜也。俺ら帰るわ。彼女、何としろよ?明日、色々聞かせてもらうわ。』

『そうだな、俺ら邪魔そうだしな。』

「ちょっ!お前ら、勉強はどーすんだよ!」

『家でやるわー。』


 友人達はそう言うと、早々に退散していく。


(うわー、薄情者ー。どうすりゃあ良いんだよー。)


 僕は心の中で叫んでいました。

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