ルードルス家躍進編
第23話 5年後
とある城の会議室で8人が密会をしていた。
「では次の戦争からは本腰を入れるという事でよろしく頼む。」
ブリュッケン公爵がそう言うと他の7人が静かに頷く。7人とは第三王子派の伯爵以上の5人に加えてブリュッケン公爵の次期当主である公爵息子のサイフォン、そして俺、アークノイド・ルードルスだ。
ソフィアとの初デートから既に5年が経っていた。ルードルス家は未だ子爵家のままだった。理由は簡単で伯爵以上に叙爵できるのは国王陛下だけで更に叙爵には大きな功が必要になるからだ。具体的には戦功や莫大な献金、希少な献上品だ。我がルードルス家はそういった伯爵になれる程の功はあげていない。
この5年の間に3回のマルクス帝国への大侵攻が行われたがルードルス家は最低限の兵士しか出していない。もちろん俺も行っていない。理由は単純に練兵が間に合っていないのだ。俺は子爵ながらも5年前のラパス王国侵攻で伯爵規模の土地を得た。ちょっと前までは村一つ分の領地だったルードルス家にとっては急激過ぎる成長で兵士の人数が足りなかった。だからブリュッケン公爵に頼んで少なくとも五ヶ年計画が終わるまではバトルホースに乗る天雷騎士団や圧倒的なパワーで敵を潰す金剛戦士団などのウチの主要戦力は派遣しない事になった。
ではなぜそんなルードルス家が派閥の重鎮達の会議に出席しているのか?それはルードルス家が派閥内で子爵以上の影響力をもたらしているからに他ならない。ただでさえ伯爵規模の領地を有しているうえ、軍事面は派閥内でも中心的な存在だ。戦争に行かなくても積極的に派閥内での合同軍事演習でその存在感を出す事に成功していた。
元々2万人以上いた兵士の中から4分の1以下の五千人に減らす必要があったため脱落者が出るように訓練は厳し過ぎる内容だった。1週間、魔の森でサバイバルや10時間以上ひたすら走り続けるなど常人には不可能な内容をやらせた。もちろん、俺は命令するだけでやっていない。というかできる訳がない。自分で考えてなんだか俺なら必ずリタイヤするだろう。そんな厳しい訓練を耐え抜いた天雷騎士団300、金剛戦士団3,000、歩兵部隊2,000に加えて法部隊1,000の計6,300人の正式に領軍として所属している。魔法部隊は俺の現代知識講座のおかげもあってか30人ほどが上級魔法を扱えるようになっている。
ラパス王国との国境には永遠に続くかのように思える城壁が聳え立つ。元ラパス王国軍の奴隷や他の貴族から買い取った犯罪者を馬車馬のように働かせて急ピッチで作らせてた。
労基が有れば一発でアウトな超ブラック職場だった。俺の倫理観もついに麻痺してきたなと実感する程だ。
更に内政面でも無難に、いやむしろかなり上手くいっている。兵士達の狩った魔物の素材をそのまま売るのではなく職人を誘致して加工して売るようにした。ちょっとした手間で前世なら誰もが答えそうな教科書通りの政策っぽいがこれがかなりの利益に繋がった。
教科書バンザイ。
話を戻そう。俺達、ルードルス家は5年の潜伏期間を経てついにマルクス帝国侵攻に本格的に参加する事が決まった。理由は国王陛下の容態が優れず王位交代が近いと予想させるからだ。5年前、王の退位は少なくとも15年後になるだろうという予想の下、功を焦る必要がないためウチの派遣戦力ダウンが認められた。しかし、王の退位が早まった事で予定が大幅に狂った。はっきり言ってかなりマズイ状況だ。
この5年は各派閥が互いに牽制し合っていたため王位争いがは膠着状態となっていた。マルクス帝国への侵攻もそれなりの人数を各派閥が出したが、あくまでそれなりだ。だからマルクス帝国全体の20%くらいの領地しかし奪還できていない。
ウチの派閥の作戦は残りの5年で3回はあるであろうマルクス帝国への侵略で一気に功をあげて勢力拡大するつもりであった。しかしおそらく国王の体調的に次の侵攻が最後になるかもしれなくなったのだ。つまり、次の侵攻で特大の戦功が必要になったというわけだ。
会議がお開きになると俺は最後まで残っていた内務大臣のプリューガ侯爵に話しかける。
「そこまで陛下の容態は悪いのですか?」
「今は元気なご様子だが先が短いのは確かだ。」
「陛下は誰を推しているのですか?」
「はっきりとは言っていないがおそらく傀儡となっているフェイ王子以外ならどちらの王子でもいいという感じだ。」
「となるとやはり大本命はカース王子ですか」
「おそらくは。しかしここでアーク殿が手柄をたてて伯爵になれば中立派も少しは取り込めるだろう。」
「簡単に言わないでください。」
「みな、期待していますよ」
プリューガ侯爵はそう最後に言い残して会議室を後にした。俺は後ろに控えていた筆頭従者長のレオポルドに尋ねる。
「正直、今回の侵攻はどうなると思う?」
「おそらく以前よりかは遥かにいい戦果が得られるでしょう。それだけ今回の諸侯のやる気は高いです。しかし、どれほどの戦果が得られるかは全く予想もつきません。」
「やっぱりそうだよなぁ。」
俺は少し今後の展開をぼんやりと考えながらしばらく天井を見つめた。マルクス帝国のどの辺まで侵攻できるのか?しかし、結局のところ戦はやってみないと分からないという結論に至り考えるのをやめて会議室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます