第16話 王位争い
そうしているうちにパーティーは終盤へと近づいて来た。俺は公爵と一足早く会場を後にした。パーティー後に他の貴族から話し掛けられるのは明白だったからだ。俺はそのまま公爵邸へと向かった。
俺とブリュッケン公爵が公爵邸に戻ると、1人、高そうな身分の青年が待っていた。俺は自然と片膝をついて下を向く。青年は口を開く。
「礼はいらん。」
「アーク、この方が第三王子のレイヴン王子だ。」
「初めてお目にかかります。私はルードルス家当主、ルードルス・アークノイドです。」
「堅苦しい挨拶はいらん。ルードルス卿の活躍は叔父上から聞いている。こらからもよろしく頼むぞ」
公爵に聞いたところ、王子は新年パーティーに参加できないから各派閥の二次会で合流するらしい。
貴族派が離反した王国には今は国王派しかいないが、それでも水面下で次の王位を争って派閥争いが起こっている。
第一王子のカース王子派のケルン公爵派
第三王子のレイヴン王子派のブリュッケン公爵派、
第四王子のフェイ王子派のサンドルフ侯爵派
の3つに加え、未だ静観をしている中立派の4つに分かれている。
ちなみに第二王子は体が弱いから王位を辞退して今は古代文明の研究をしていて第五王子は第一騎士団の騎士団長になるのが夢らしく毎日剣の稽古をしている。残る第六王子は歳が離れており大した後ろ盾もいないので候補から外れている。
レーベック商会や俺の従者に調べさせた情報によると第一王子のカース王子は短気で好戦的な性格で国土拡大を目標にして第四王子のフェイ王子はサンドルフ侯爵の傀儡らしい。ウチの第三王子のレイヴン王子は文武ともに優秀で信頼も厚い。
第一王子派には2公爵家と3侯爵家
第三王子派には1公爵家と2侯爵家
第四王子派には3侯爵家と1辺境伯家
中立派には1公爵家と2侯爵家、3辺境伯家
辺境伯家はかなり権限を与えられていて、独立性が強く、過去の王位争いにおいても静観したままの場合が殆どだ。なぜなら常に他国と戦争状態の辺境伯家は圧倒的な武力があるので静観したからといって冷遇されたりしないからだ。辺境伯家の取り込みが難しいので中立派を取り込むかこちらの派閥が大きくなるしか方法が無い。ブリュッケン公爵派は最大派閥のケルン公爵派と比べてかなり遅れを取っているのでここから巻き返すには相当頑張らないといけない。だが、国王の退位まで後10年はかかると予想されているのでまだこちらにも勝機は十分ある。
しばらくすると続々とブリュッケン公爵派の貴族が集まり二次会的なものが始まった。初参加の俺がいるから自己紹介から行われた。こちらの主な貴族は、公爵の他に、バードル侯爵、リュベルト侯爵、プリューガ侯爵、ドラグレン伯爵、レイモンド伯爵だ。他にも伯爵以下の貴族は多いが、影響力の強い貴族はこの五家だ。この中でプリューガ侯爵だけは領地を持たない法衣貴族で内務大臣の位についている。
その後、王子が今年の方針や抱負などを述べて軽く談笑しながら食事をして解散となった。
俺は王都に家などないため公爵邸に泊まっているので最後まで残っていたら、王子から奥の部屋に誘われて二人だけになった。
「今日はどうだった」
「緊張してばかりでした」
「そうか。単刀直入に聞く。公爵との繋がりがなかったらどの王子を選んでた?正直に教えてくれ」
「公爵様の寄子となる前から王子達のことは噂に聞いていました。短気で暴君に近い、 カース王子は論外としてレイヴン王子とフェイ王子のどちらかでした。でも民を大切にするレイヴン王子は私の考えに近いので間違いなくレイヴン王子を選んでました。」
「俺の考えに近いとは?」
「私は国とは民で出来ていると思っています。どんなに優れた王でも民が1人もいなければ、食べることも国を守ることもできません。
貴族とは偉いから民を治めるのではなく、民を正しく治める能力を持つからこそ偉いのです。民の幸せのためならどんな犠牲も払う覚悟が無い人間には国王は務まりません。」
「そうか。俺はただ民に優しくするべきだと考えていたがそれが正しい王の姿なのかもしれないな。」
王子はグラスに残ったワインを飲み干し口を開いた。
「俺は産まれた時から王子として扱われ、今さっきも周りを40を過ぎたおっさん達に囲まれてろくに友達などいたことはない。ルードルス卿、俺の初めての友達になってくれないか」
「でも俺は田舎の子爵、王子は王族ですよ。」
「関係ない。友達になってくれ。同年代とは話したことがほとんどないのだ。
「わかりました。でも私はまだ10歳ですよ」
王子が飲みかけていたワインを吹いた。
「本当か?」
まあ、驚くのも無理はない。俺も自分が20歳くらいに見えるのは自覚している。
「もう一度言ったから関係ない。今から俺のことは2人きりの時はレイヴンと呼んで敬語を使わないように。」
「わかったよレイヴン。俺のことはアークと呼んでくれ。」
そうして俺も異世界初めての友達ができた。
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