ふわふわな卵焼き

新井澪

踏切で見つけたその少女は…


彼の名前は早川司はやかわつかさ現在高校3年生である。


もうすぐ2月に入り空気も段々と冷えてくる時期になってきた。中3にとっては私立の受験が終わり次は公立の高校受験に向けての最終確認の時期であり、3月に行われる試験で志望校に行けるか否か決まってくる。彼、司も8月に学校説明会に行き最終的に志望校を2つに決め受かるように勉強している最中である。


なぜ両親の名前がないのか、それは彼と両親の中が非常に悪いからである。



彼が産まれたころや彼が小学生になるまでは愛されていた。というより溺愛されていた。運動も勉強も全て真面目に取り組んでいた

だがしかし、中学と高校頃彼は定期テストでほぼ毎回のテストで赤点を沢山取ってしまい両親に「塾に行くためにどれだけのお金を使ったと思ってるの!!こっちはあんたの為に必死になってお父さんも働いたのに、どうして納得する結果を残さないの!!!!」と言われた。

彼も「そんなの決まってるじゃん!!俺の意見をなにも聞かずに適当に塾とか決めて!!!少しくらいは友達と遊ぶ時間とかを設けるようにしてよ!!!!」などと親に反対した。それがいけなかったのか、

両親は「納得いかないなら出てって!!あんたのやり方で適当にやって!!!!」

「そうだな、一人暮らしすればなにかが分かるだろう高校もここから近くても良いが1人で暮らす所から行けるようにしとけよ。決まったらお金は払っとくから。欲しい物とかは全部自分でやれよ。」と司は両親に家を追い出された。そして、高校3年の受験シーズンの中1人で暮らすための料理や掃除、洗濯を覚え所々に勉強をしながら生活した。先生にも相談しなんとか志望校を決めることが出来た。

しかし、そんな彼でも所詮は中学生。バイトなど時給の高い場所に入れるわけもなくコンビニや小さなスーパーなどを転々とし、週7日の学校終わりから夜の21:00まで。そこからご飯を食べて宿題をやり受験に勉強をして就寝時間は朝の3:00になってしまう。そんな生活を続けた彼は精神的にも追いつめられていた。




◇ ◆ ◇





そして今、彼はカンカンカンと遮断機が降りているのに踏切に入ろうとしている1人の少女を見つけた。助けるのか否かそんな事は無く周りに誰も居ないので「なにやってるんだ?」と思いその少女に近づいた。少女は彼と同じような絶望に満ちた表情をしており、力尽きている様子だった。


そして遠くから電車の光が見えても少女は動かなかった。


「おいおいマジかよ!!」と彼は踏切を潜り抜け少女を抱きかかえ安全な場所に避難させる。途中「キャッ」と可愛い声がしたがそんな状況じゃない。そして、少女を避難させると少女は驚いた顔を彼に見せた。

「うわぁ、可愛い」それが第1印象だった。目鼻立ちは整っており、あまり暗くて見えないが肩まである黒髪は艶々している。先ほどかかえたが、とてもモデルのような体型をしていた。

しかしそんな事を行ってる場合じゃない。


「なにするつもりだったんだ?」と少女に聞く。そうすると彼女は「私には居場所が無いですから。もういる必要が無いので」と小さな声でそれに全身は震え怖じ気づいた様子だった。

「とりあえず家に来るか?その様子だと住む家も無いだろ?」彼がそう聞くと彼女は頷き彼に近寄った。





◇ ◆ ◇



とりあえず彼女をお風呂に入らせご飯を一緒に食べた。ご飯といってもお米と味噌汁と卵焼きであまり豪華ではないが、彼女は「これ、食べて良いんですか?」と驚いた顔をしていた。

「本当は明日の朝に食べる予定だったけど、あまり食べてないなら食べていいよ」

彼女はあまり食べてない様子だったので当然だ。

しかしさっきの表情をされると、とても過酷な環境で過ごしてきたようだ。


ご飯を食べ終わり司が「どうしてあんなことをしてたの?」と聞くと彼女は以外にもすんなりと話してくれた。


「母に追い出されたのです。父は小さい頃に亡くなったので2人暮らしでした。そんな母はテストの点数や成績に関してとても厳しく毎日塾に行ってる日々でした。そんな中、週に2日とかに減らしてくれない?と母に申し出たところ喧嘩になってしまい、最終的には『もういい、出ていきなさい』と言われ追い出されたのです。追い出された私はなにも持っていないのでそこら辺を転々としてそしてもう生きる意味なんて無いんだなと思った私は死のうかなと思ったんです。」

彼女は全部喋り終わると彼の反応を伺った。

「なるほどな俺と似ているな。ていうか全く同じだ。違うところといえば俺は追い出されたが1人暮らしをしろみたいな感じだからよっぽどそっちの方が可愛そうに見えてくるよ。そういえば聞いてなかったけど名前は?俺は早川司はやかわつかさ高校3年生だ」

「私は早川瞳はやかわひとみです。私も高校3年生です。良ければ一緒に住んでもいいですか?」

「それは別に構わないよ」




そうして彼女と一緒に過ごしす事にした。

一緒に彼女と過ごしていくうちに彼女の手際の良さが見えてきた。朝起きると朝食が出来て、学校に行くために制服に着替えるとアイロンがかかっていた。そして帰ってくると夕食を作り一緒に食べる。彼女も学校に行ってるので必然的に帰ってから作ることになるのだがら、味はどれも良く時間も掛からず料理が出来る。彼女ばっかりやるのも大変なので司も一緒に作ろうとするが彼女が「いえ居候させてもらってるので私が作ります。なので司さんは待っててください。」といつも断ってる。





そんな生活が続いた中、司が家に帰ると彼女が倒れていた。


「おい!瞳どうした!!!何があったんだ!!!」と大きく彼女の名前を叫ぶが反応が無い。彼は一旦落ち着くために深呼吸をして、救急車を呼んだ。その10分後救急車が到着し彼女が運ばれた。


原因は過労。毎日学校に行きそして司の為にご飯を作り、そして食材を買うためにスーパーに行き、さらには夜には宿題と受験勉強、そんな生活をしている彼女が倒れないはずがないと思っていた司は後悔していた。


「瞳のやつ、無理していたのか。なんで俺が気づいてあげなかったんだ!!!!1ヶ月以上一緒に居たのに!!瞳の性格も分かってたはずなのに!!!俺が、俺が、瞳に甘えてた……………。なんで俺はそんな事をしたんだ!!!!!!!!!」司は自分のしたことを後悔していた事を病室で叫んでいた。



「そ、そんな事ないですよ。」と瞳が言う。

「私の方が司さんに甘えていたんですよ。朝起きてきたら『おはよう』って優しく、そしてご飯を食べると『美味しいよ』とそんな会話でどれだけ私が救われたか、本当に司さんには感謝しかないです。司さん、来てください。」と瞳が俺を招く。

「ん?どうした?」俺は瞳のところに近寄ると急に抱きつかれた。


「ちょっ、瞳!?どうした、いきなり?」と司がパニクっていると

「本当に私はどれだけ救われたのか、貴方と出会って一緒に住んでご飯を食べて、そして勉強をして、前の家では考えられない生活でした。」

「それは俺も一緒だ、前でも瞳が来る前の家では帰ったら直ぐに勉強そして直ぐに寝る。そして朝早く起きて学校、そんな生活だった。だけど、瞳が来てから全てが変わった。何もかも。朝と夜を一緒に食べてくれる人、他愛の無い会話を交わせる人、本当に瞳には感謝しかない。」司は言い終わると、彼女の手をほどき彼女を抱き締めた。

「え?!」と彼女は驚いていたが

「これからもよろしくな」と司が言うと、「よろしくお願いします」と今までにない笑顔を見せてくれた。





そんまま司と瞳は抱き合った。







その2週間後、瞳が退院した。

表情は前よりも明るくなっていた。



その翌日、司と瞳は朝食を2人で準備していた。司が退院時瞳に「俺にも料理作るの手伝わせてな」と提案したからだ。


「やっぱりこの雰囲気落ち着きますね」と瞳が言う。

「そりゃあ、1ヶ月間一緒に住んでるからな」

「まだまだ司さんには感謝しきれてないです。それでは食べましょう」 と司と一緒に食べる。




いや俺も瞳がいないと、ちゃんとした生活を送れなかったかもな。本来だったらこの世にいないはずだし。と司は心の中で思った。


「よし食べるか」と箸をとる。







テーブルには瞳と初めて会った時に振る舞った料理があった。


白いお米に、煮干しの香りがする味噌汁、そしてふわふわの卵焼き、どれも司が作るより上手く味付けもしっかりされていた。


ふと瞳を見ると、彼女は幸せそうに食べていた。

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