第21話
それからは何事もなく時間は過ぎて行った。
それでもきた時のような元気はなく、夜の10時を過ぎると早々に部屋の電気をけしていた。
隣の布団で目を閉じる穂香の呼吸音を聞きながら、自分も目を閉じる。
真っ暗になると自然と心が重たくなっていくのを感じ、あたしは腕を伸ばして穂香の手を握りしめた。
「どうしたの?」
そう聞きながらあたしの手を握り返す穂香。
「こうしてたら、安心するから」
そう答えると穂香は微かに笑い声を立てた。
「そうだね」
静かな暗闇の中に2人の声だけがやけに大きく聞こえて来る。
こうして穂香と会話をして温もりを感じている間に、あたしは自然と眠りに落ちていたのだった。
それは何時頃だっただろうか?
2人ともすっかり眠ってしまっていたので正確な時間は全くわからなかった。
暗闇の中、静寂を切り裂くように突如電話が鳴り始めた。
その大きな音に驚き、あたしと穂香は同時に目を覚ましていた。
「なに……?」
穂香が上半身を起こして部屋の中を見回している。
「どっちかのスマホが鳴ってるみたい」
あたしはそう返事をしたけれど、寝る前にどちらのスマホもマナーモードに切り替えていたことを思い出して眉を寄せた。
この、けたたましく鳴り続けている音は一体どこからきこえてくるんだろう?
仕方なく電気を付けて確認してみると、穂香の枕元に3台のスマホが置かれていることに気が付いて「ヒッ!」と、息を飲んだ。
それは見間違うことなく、眠る前にゴミ袋にいれたあのスマホだったのだ。
「これが鳴ってるみたいだね」
まだ寝ぼけているのか、穂香はその中の1台を手にして電話に出ようとした。
あたしは咄嗟にそれを奪い取り、阻止した。
「なにしてるの、そのスマホ使ってないやつだよ!?」
あたしの言葉に穂香は完全に覚醒し、同時に瞬きを繰り返した。
「え……?」
「ほら見て!」
あたしは鳴り続けているスマホを穂香の眼前にかざす。
それを確認した穂香はサッと青ざめた。
「なんで戻って来てるの!?」
悲鳴のような声を上げる穂香。
その時、うるさいほど鳴り響いていたスマホがピタリと止まった。
恐る恐る画面を確認してみると、真っ暗でなにも映し出していない。
試に電源を入れてみようとしても、充電がされていないため電源は入らなかった。
「なんかおかしいよこれ」
あたしはスマホを並べて置き、震える声で言った。
「なんで? なんでここにあるの?」
穂香は半分パニック状態で目に涙を浮かべている。
「ゴミ袋を確認しに行ってみようか」
ふと思い立ってあたしは言った。
「え?」
「あたしたち、ちゃんとゴミ袋に入れて出して来たよね?」
「う、うん」
それなら、どうしてスマホが3台ともここにあるのか。
とにかく確認してみないと気が済まなかった。
あたしは穂香と一緒にパジャマ姿のまま部屋を出た。
足音を立てないよう、ゆっくりと玄関へ向かう。
さっきの大音量で家族の誰も起きてきていないことが妙に感じられた。
まるで、あたしと穂香の2人だけがこの家にいるような感覚だ。
あたしは下駄箱の上に置いてある懐中電灯を手に取り、外へ出た。
夜のムッとした暑さが体に絡み付いてくる。
昼間蓄積された熱がそこにとどまり、空気全体が淀んでいるように感じられた。
懐中電灯の光で暗闇を引き裂きながら2人でゴミ収集所へと急いだ。
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