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 酸欠でぐったりとした六花を横抱きにして、今度こそしっかりと背中を支えてやりながら。

 吹雪はふと目についたに手を添えて、掌からちょうど零れるくらいの柔い膨らみに噛みついた。

「――いたい!」

 傷付けるつもりはなく、食い千切ってしまわないよう気をつけてはいたが。それでも痛みのあまり飛び上がった六花が、信じられないものでも見るよう、見開いた双眸に吹雪を映す。

「なんで噛んだの!?」

「……なんとなく」

「はぁ!?」


「お前が痛かったと、泣くから」


「なによそれ……」

 熱しやすく冷めやすい六花の怒りが長く続いた例しはない。

 吹雪の人並み外れた美貌を前にすれば、なおのこと。見ているうちに怒るどころではなくなってしまうと常々口にしているとおり、吹雪の無体にいきり立った六花が肩を落として息を吐くまで、それほど時間はかからなかった。


上書きマーキングのつもりってこと?」

 言われてみれば、そうかもしれない。

 そんな自覚もなかった吹雪が曖昧に頷いて、六花に対する気まずさからうっすら視線を外すと。すぐさま伸びてきた女の手が、逸らされた顔の向きを力任せに引き戻した。

「あのバケモノより酷いことを、私にしたい? ここを――」

 吹雪の頬に手を添えたまま、もう一本、白濁とした湯の中から現れた女の嫋やかな手が、体の中心にまっすぐ線を引くよう、豊かに実った胸のあわいを滑り落ちていく。

「無理矢理こじあけて、掴み出した心臓を丸呑みにしたら、次はどこを食べるか舌なめずりしながら物色するの」

 そこまでやっても、まだ足りない。

「あんなのレイプと変わらない。だから、吹雪さんにはできっこない」

 笑いながら吐き捨てた六花は「だって、そうでしょう?」と、剥き出しの胸が二人の間で潰れるのも構わず吹雪に抱きついた。

 その唇が、夜明け前に散々囓りとった肉をやんわりと食む。

「あのバケモノと同じ事をされたって、それを許してしまえるくらい、私は吹雪さんが好きだもの」


 情熱的を通り越していっそ苛烈なまでの告白に、吹雪はむしろ頭が冷えた。




「悪かった。もうしない」

 だからどうか、許してほしい。


 吹雪が謝罪の気持ちを込めて抱き返すと、六花は途端に脱力して。

「当たり前よ」

 どこか拗ねたような口振りで、吹雪を許した。

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