クリスマスがきたんだよ
「シャワー浴びたい……」
起き抜けの、開口一番。
暖炉の前でラグの上に起き上がった六花が我慢ならないとばかり呟いて、血塗れのまま乾いて固まってしまった髪を撫でつける。
季節柄のんびり昇った朝日に照らし出される女の姿はお世辞にも身綺麗とは言えない、悲惨なものだが、それ以上に引き裂かれた洋服の胸元から覗く素肌が目に毒で。
六花の体からずり落ちたブランケットを、吹雪は改めて無防備な女の体に巻きつけた。
「汚れるよ」
「今更だな」
どのみち、洗ったくらいではどうにもならないほど血を吸い、それがすっかり乾いてしまっているブランケットは、同じような有様の長椅子やラグとまとめて処分してしまうつもりでいる。
吹雪はブランケットで巻いた六花を抱え、凄惨な事件現場のよう夥しい血痕が残されている広間を後にした。
「どこいくの?」
広間から渡り廊下に抜けたことで、いつも使っているバスルームへ連れて行かれるのではないと気付いた六花が不思議そうな顔をする。
「着けばわかる」
南北で洋館と和館に分かれた屋敷は、東西二本の渡り廊下で繋がれている。
薄暗い廊下を渡り、比較的新しい洋館から電気すら通っていない和館へと移動した吹雪は、屋敷で一番大きな浴場へと六花を連れ込んだ。
「――もしかして、温泉が湧いてるの?」
脱衣所を素通りして坪庭風の洗い場へ出ると、半露天の岩風呂を目にした六花が、素直な期待に声を明るくする。
岩風呂の際に下ろした六花から巻きつけてあったブランケットと、最早服とは呼べない有様の布きれを引き剥がした吹雪は、裸に剥かれた女が寒さで震えだす前に、汚れたままの肢体を白く濁った湯船へ押し込めた。
「もうっ。汚れるって言ってるのに!」
「後始末が一番楽なのがここなんだ。諦めろ」
そんなつもりで連れてきたのではないが、六花があんまり騒ぐので。
吹雪は「掛け流しだからな」ともっともらしい方便で、変なところ
吹雪自身も血染めになった着物を脱ぎ捨て湯に浸かると、湯船の深さに座高の追いついていない女が、よいしょと膝に乗り上げてくる。
「髪を濯いでやるから、しばらく潜ってろ」
「えっ」
その背中を支えるどころか、吹雪は六花の肩を掴んで、気楽に足を伸ばそうとしていた女の体を背中からころん、と膝の上に転がした。
「ちょっ――」
背中から湯に沈められた女の手が――ばしゃんっ――縋るものを求めて藻掻き、湯面を叩く。
「すぐ終わる」
一口飲めば人の寿命が五年は延び、体にかければ古傷が跡形もなく消えてなくなるような正真正銘の霊泉に頭の天辺から爪先までを万遍なく浸け込まれた六花は、暴れ疲れて大人しくなったところを引き上げられる頃には、すっかり生まれ変わったよう濡れた肌を艶めかせていた。
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