未熟
@Saki_
第1話
未熟。
幾度となくこの言葉を思い浮かべてきた。
それは、私に最も当てはまる言葉である。
わたしは掌に目を落とす。
「ーーちゃん、どうしたのぉ?」
猫なで声で客が私の名を呼ぶ。私はハッとして急いで笑顔を顔に貼り付けた。
「えへへ、なんでもないですよぉ」
シルクの生地でできたキャミソールを直しながら客と向き合う。
私は身体を売って日銭を稼いでいた。
この客は終わったあと5000円もチップとしてくれる。乱暴でがさつで、いつも身体はぼろぼろになるけれどもお金が貰えるならばいい。
笑顔を貼り付け、時々感じているような表情と声を演技してただひたすらに客が満足する時を待つ。
長い長い120分を経てようやく対価を得た時、嬉しさと虚しさを同時に感じる。
自分が現に誰かに必要とされている嬉しさと、自分はお金で買えてしまう程度のちっぽけな存在だという虚しさ。
私はそんな中よく自分の掌を見つめてこう思う。
日が経てばこの考え方もいずれ変わるのだろうか。
どこかで見た自信の満ち溢れた男優のように振る舞うことができるのだろうか。
それとも、こんなことを考えているからこそここでずっと塞ぎ込んでいるのだろうか。
いずれにせよ、私はまだ未熟である。
じっと掌を見つめ己の未熟を噛み締める。
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