放課後:「おろし売り債務メイト」
天然水:売り上げ 8本
炭酸飲料:売り上げ 28本
スポーツドリンク:売り上げ 43本(売り切れ)
コーヒー:売り上げ 3本
お茶:売り上げ 17本
缶ジュース:売り上げ 21本
その他:売り上げ 12本
総売上本数:132本
金額:10190円
この金額は俺が2日間ずっと自動販売機にこもって稼いだ合計だ。
2日間で1万円超えたのならまぁ上出来、バイトと大差ない。パッと見はそう見えるかもしれない。
しかし、これはあくまで単純な売り上げで、利益の計算にはここからかかった費用を引かなければいけない。
初期費用分:7420円(自動飯場機器代+秋葉原との交通費)
自動販売機廃棄費用:16700円(見積もり)
費用合計:24120円
売上との差額:13930円
つまりは大赤字ってことだ。
「やってられっか、こんなん」
俺は、さっきまで丁寧につけていた帳簿ノートを壁に向かって放り投げ、近くにあった缶をとり、商品名も見ずに缶の口を開けた。
「なーんで、あんなに頑張った結果がマイナスなんだよ。バカやろう」
決して酔ってはいないが、こんな状況だと、飲み干した缶をローテーブルに叩きつけて文句の一つも言いたくなるってもんだ。
元はと言えば、撤去にかかる手間を考えていなかった俺が悪いのだが、それにしても廃棄費用16700円は高すぎるんじゃないか。自動販売機を捨てたい高校生のお財布事情も考慮して欲しいものだ。
しかし、俺の苦悩はここでは終わらない。
「走りたくねえええええええええ」
個人的一人暮らしあるある、独り言増えがち。
今は自分の部屋でゆっくりしている俺だが、深夜になれば、また学校から家まで自動販売機と一緒に1時間走らなければいけない。
何故なら明日は5月30日月曜日、つまり普通に授業がある。
授業中に自動販売機に入るわけにはいけないし、土日と違って教師陣が学校に揃っている状況なら、自販機自体の違和感が気づかれるのも時間の問題だろう。
頭ではわかっている。
でもやりたくないものはしょうがない。
一体誰が1万4千円損するために苦労して1時間走れるのだろうか。
「はぁ、明日学校行きたくねえなぁ……」
そう呟きながら、俺は何本目か分からない缶ジュースを開けた。
なんたって、飲み物だけは腐る程ある。
それからどのくらい時間が経っただろうか。玄関の方からインターホンの音が聞こえてきた。
「ういー、おじゃまー。って彗斗、なんで飲んだくれてんの」
「だぁあ、奈波ぃいい、俺はダメ人間だああああ」
「なーに酔ってんの、ジュースでしょ、それ」
「俺だって、大変なんだよぉ」
「はいはい、あんま飲むと夜ご飯食べれなくなんぞー」
「うう、ごめんよぉお」
そんな俺を見て、奈波は呆れたようにため息を吐くと、空き缶をゴミ袋に集め、ついでにと言わんばかりに、あたりの拭き掃除を始めた。
ついに俺は、部屋の掃除まで他人にやってもらうところまで落ちぶれてしまったのか。
「まるで、ヒモだな……」
テーブルに頭を伏せながら、思わず呟いてしまう。
そんな俺の声が聞こえているのかいないのか、奈波はスマホをこちらに差し出してきた。
「はい、これ見て元気だしなって」
「……何これ、売却済み、88800円?」
その画面には、俺たちがフイギュア転売に使おうとした通販アプリ、フクマが映し出されていた。
「ん、その金額で自販機を買いたい人がいるってさ」
「……え? 売ったってこと? 自動販売機って発送とかどうやってやるの?」
「現地受け取りっていう条件つけたからへーき。今んところ、水曜日の午後7時になりそう。でっかいトラックで来るってよ」
「つまり赤字は……?」
「決済、返済、すなわち喝采、って感じだねー。いえーい」
「いえ、い?」
奈波が控えめに掲げたハイタッチに一応応える。
おお、そうか、つまりこれまでの俺の努力は無駄じゃなかったということか。
よかった、よかった。
「じゃ、奈波。お祝いにパーティーしよう。出前とか頼んで」
「はい、ダメでーす。だってそれ全員分頼んだら、5千も6千するでしょー。もったいない」
「えー、せっかくジュースたくさんあるのに」
「はいはい。出前なんかよりよっぽど美味しいカツ丼作ってあげるから。というわけで、お使いよろっ。卵と豚ロース」
「ええ、今?」
「どうせ夜走るんでしょ? 静音と。ウォーミングアップ、ウォーミングアップ」
「……へーい」
「んじゃ、こっちも用意しとくから。早めにねー」
そう言い残し、そそくさと奈波は隣の部屋へと帰っていった。
「……しょうがない、行くか」
床に転がっている帳簿ノートにほんの少し文字を書き足し、棚に片付けた後にスーパーに向かうことにする。
卒業まで残り、2年と10ヶ月。
借金残高、291万7230円。
果たして本当に間に合うのだろうか。
……今は考えないことにしよう。
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