第194話 嫉妬狂いの生徒会長と逆光で(3)
言い争うような声がする。
聞き覚えのある声だ。
人数は……ふたり、うん、ふたり。
どちらも大好きで、だから、そんな風に言い争いをしてほしくないと、そう思った。
思うままに、私は声を上げた。
そうしたら、気が付いたその人たちが優しく抱きしめてくれる。
その感触で、分かる。
先輩と、シトギ先輩だ。
だから私はただただ安堵して、またもう一度、目を閉じた……―――
―――……ぅ
「ぁ、……」
「ユミカ?」
「島波、さん?」
目を開くと、私を見下ろすふたりがいた。
先輩とシトギ先輩。
どうしてここに、と言いそうになって、そもそもここはどこだろうと疑問が湧く。
ベッドの上だっていうのはわかるけど、匂いと感触がいつもと違う……いや、まあ、匂いはこのふたりがいるからかもしれないんだ、け、ど、……?
「え」
あれ―――なんで、服を着ていないんだ……?
私もだし、ふたりもだし。
なんか、裸で、ベッドの上で、わりとみっちゃくし、て……
「ひわぁああ!?」
なっ、はっ!?
「せ、セックスですか!?」
「さすがに寝ている相手を初めての相手にはしないよ」
「そういう不健全なことは言わないでください。……照れてしまいます」
……
人に毒盛っといて健全とか言うのか、とか。
いろいろ言いたいことはあったけど、たぶん何も失っていないっぽいのでとりあえずいったん安堵しておく。
まあ、好きな人の裸に囲まれているとかいう色々ヤバい状況に変わりはないわけなんだけど……
「えっと、いろいろと説明してもらっちゃってもいい、ですか?」
「もちろん」
「といっても、そう大したことは起きていませんが」
そういってふたりが説明してくれることには、どうやらここはラブホテルらしい。
ラブホテルらしい。
……ま、まだ耐えてる。なんだったら常連(?)だし。
なんかそこよりちょっとお高いところらしいけど。
ら、ラブホ女子会だょ……?
で。
意識がもうろうとする私をシトギ先輩がここに連れ込もうとしているのを偶然先輩が見つけて、強引に乱入して、なにがあったのかを問い詰めていたとか。
そうしたら私は一度目を覚ましたらしくて、かと思えばまた意識を失って。
そのときめちゃくちゃ体温が低くて脂汗をかいていたからと、身を寄せ合って温めてくれていたそうだ。
体温ってあったかいからね……
ちなみに。
「なにを勘違いしているのかは知りませんが、
と、シトギ先輩はそう言った。
先輩もまたうなずいていて、どうやらそれは本当らしい。
じゃあなんであんなことになったのかと怖がる私に、シトギ先輩は「恐らくですが……」と予測を教えてくれた。
「迷走神経反射というものがあります。採血の注射をしたときにめまいがしたりする方がいる、というのは聞いたことがありませんか?」
「ありますあります」
「あれは血管迷走反射というものですが、血管以外にも外傷や恐怖などの要因で急激に血圧が低下する場合があるのです。おそらくはそれでしょう」
なるほど。
と、納得はするけども。
あの、他人事みたいに『それでしょう』、じゃないんですけど……?
それってつまりあなたのリルカスラッシュとかが原因なんじゃ……?
しかもあの反応からして織り込み済みっていうか……
そう思っていたら、彼女はしょんぼりと見る間に沈む。
「申し訳ありませんでした……軽率なことをして、あなたを危険にさらしました……」
「あ、えっと」
ふいに素直に謝罪されて、なんて反応すればいいかわからなくなる。
正直そんな謝られるようなことかといえば……そうでもないように、感じるし。
この人は本当に私を殺したいくらいに愛してくれているんだって、ほんのちょっと嬉しかったし……
「そういう顔をするからキミは誰にでもいいようにされてしまうんだよ」
「い、いやぁ」
じっとりとあきれたような視線を向けてくる先輩から目をそらす。
ここ最近は、毎晩ひっそりと会ってはのんびりとお話したりしていたから、なんだかいつもより苦言が痛い。
「えと、シトギ先輩。私、怒ってませんから。それにやっぱり、あなたを求めたのは私ですし」
私がそう言うと、シトギ先輩は顔を上げる。
じぃ、と見つめる視線はひどく無垢で。
「―――嘘は言っていないのですよ、けれど」
「ぅ」
「
「悪いけれどキミのそれは目障りだ」
私がなにかを言うより前に先輩が割り込む。
冷ややかな視線が向き合って、呼吸できない真空の中を稲妻が爆ぜた。
「ユミカには『結論』とやらを出してもらわないといけない。それがどういうものになるとしても、キミみたいな毒物を含ませるわけにはいかないんだよ」
「
睨み合うふたりの先輩。
あまりにも剣呑な空気感に肌の内側が冷えるような心地がある。
だけどふたりは同時に笑った。
「ボクと同じ生き物だ。吐き気がするよ」
「どうりで、ええ、あなたは最初から嫌いでしたよ」
そうしてふたりは私を見て、肌を重ねるように顔が迫る。
天井の明かりに目がくらんで、ふたりが笑っていることしか分からない。
「キミも災難なものだね」
「結論、というのは、
ああ。
このふたりは一緒にいるべきじゃないんだなぁ……
そういえばなんだかすごい口論をしていたような気もするし。
致命的にウマが合わないのに、あまりにも似た者同士なのだ。
そんな感じがする。
どんな会話を経たら、こんな感じの敵対(?)関係になるのやら。
……ところで。
なにか、おかしい。
シトギ先輩は連続で私を買っていたから、まだ効果が続いている気がするんだけど、でもなんだろう、それだけじゃない……?
―――ふと。
向こうにあるテーブルの上に、カードと先輩のスマホが転がっているのが見えた。
「待ってるからね、ユミカ」
「では、
もしかして、だけど。
私に拒む気持ちがなかったら、寝てる間でもできる、のか……?
「どうしたんだい、ユミカ。」
「なにか、気になることでもありましたか?」
……どうしてふたりともリルカについて触れないんだ。
それなのに肌の密着度が増すのはなぜ……
えっと。
「ま、待ってくれるんです、よね?」
にっこりと。
相変わらず、笑ってるっていうことだけはわかるんだよねぇ……
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