第121話 お祭り騒ぎな彼女たちと(7)

学校祭第一日程である体育祭が、ガチ勢なスポーツ娘の煩悩おっぱいの力でねじ伏せられて終わった翌日。

つまり文化祭パートになった初日。


一年生がクラス展示、二年生が模擬店てきな出し物、三年生が演劇という風に学年ごとにやることが決まっている。

演劇は二日目の午後からだから、初日は一年生と二年生が主役みたいなものだ。

もう卒業も近い三年生はめいっぱい羽を伸ばせて、展示しとくだけの一年生も文化祭という空気をたくさん知ることができる―――それが今日という日だ。


私のクラスは、ホストクラブとキャバクラを足してカルピスで薄めたみたいな出し物をする。

食品衛生的に飲み物さえ出せないから、基本的には執事かメイドの格好をしたクラスメイトが間仕切りのある個室で楽しくおしゃべりをするっていうだけの空間だ。お話に自信がないとか、ちょっと風紀的に気が進まないっていう人は普通に制服でタイムキーパーとか受付をやってもらう。


とはいえ私は二日目のキャストだから、今日は好きに歩き回れる。

明日接客をさせられると思うとちょっぴり億劫だけど仕方がない。


残念ながらアイは今日は執事役で頑張っているので、ひとりで祭りに繰り出すことにした。


で。


こういうときは先輩とかが一緒に回ってくれそうだなあとか思って教室を出ると。

そこには、先輩は先輩でも私の想像だにしなかった人―――つまり、生徒会長さんが待っていた。


「あら島波さん。奇遇ですね」

「ウチのクラスの前で会うなんて本当に奇遇ですね」

「ええまったく。こんなところに島波さんがいらっしゃるだなんて思いませんでした」


私たちは笑みを交わして、周囲の視線を無視してとりあえず歩き出す。

さてどこへ行こうか、なんていう話題よりも気になることがあって、私はちらりと彼女を横目に見てみる。

すると彼女はすぐに気が付いて、わずかに小首をかしげるしぐさで問いかけてくる。


「いいんですか? 普段の感じじゃなくて」

「いけませんか?」

「シトギ先輩がいいなら私は別に構いませんけど」

「でしたら。ええ。構いません」

「そう、ですか」


普段学校での彼女は、私相手にもこんな風に気やすい感じじゃない。あんな冗談を言うなんてもってのほかだ。学校での彼女のイメージを、まるで守るみたいに凛としている。

いったいどういう心変わりなんだろうとぼんやり思っていると、彼女はそっと肩を寄せてきた。


「こんな風に良き人と学校祭を楽しむというのに、実は少しだけ憧れていたのですよ」


こんな風に、というのは。

それは私を『良き人』として言ってくれているのか、それともまだ見ぬ『良き人』とこんな風にしてみたいとそういう意味なのか……


「私でいいんですか?」

「ふふ。少なくとも、悪い気分ではありません」

「そうですか」


まあ今はそれで満足しておくとしよう。

そう思って笑う私に彼女もまた笑う。


「先輩もそういうの憧れるんですね」

「ええ。素敵な殿方とお付き合いしてみたいと、そう思ったりもしましたよ」

「殿方、ですか」

「そうですね。父と母を見て育ちましたから。もっとも、どうやらわたくしの恋愛対象は女性らしいと最近分かりましたが」

「へぁ」


サラっと言うわりには随分ととんでもない発言じゃないだろうかこれ。

最近って。

そうなったら当然、どうして? と問いかけたくなってしまうわけで。

だけどさすがにこれは、冗談っていうか、からかいみたいなものだろう。


幼少期にお母さんを大好きすぎてお父さんの飲み物に醤油を垂らした人が今更同性愛ないし両性愛を自覚するとか。

まさか先輩に限ってそんな、ねえ。

先輩なら、小学生くらいにはすでに自分と対話して性自認とか終えてそうじゃないか。


そう思ってまじまじと見つめてみても、彼女はなんとも答えずにこにこしている。

たずねたらあっさりネタばらしをしてくれそうだけど……


「……どこに行きましょっか」

「じつはわたくし、文化祭の出し物を全制覇してみたいのです。一階から攻めましょう」


結局なにも聞けずに日和る私に彼女は笑ってそう言った。

私は彼女に手を引かれるまま、一階の一年生クラスから文化祭を堪能することにするのだった。

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