第35話 癒し系な双子ロリと

「ゆみ、んっ、ちゅ、れぉっ、」

「ゆみかちゃん、ふふ、ねぇ、おねえちゃんのベロ、きもちぃ?」


右耳に幼女。

左耳にも幼女。

inドーム状の遊具。


落ち込みがちな保健室登校少女といっぱいストレス発散したりする中ですっかりエモーショナル部門となっているはずの耳が、今は幼女の舌とささやきを受け入れてほぼ性感帯として機能している。


「んっ、おなか、れりゅ、んるっ、ぽかぽかひてっ」

「うふふ♡おねえちゃんもきもちよくなってますよ……♡ゆみかちゃんおねえさんなのに、なにもしらないおねえちゃんにこんなことさせちゃっていいんですか?くすくす♡ほんとはイケナイことなんだって、わたししってるんですよ♡ゆみかちゃんのこと、へんたいろりこんせーはんざいしゃっていうんだよね……♡」


これがASMRかぁ……ユーチューブさんもそりゃあ間違って動画削除したくなりますよね。


「あの、ちょっといったんストップしてもらってもいいでしょうか」

「はふっ、んっ、ちゅ……ふぁい」

「あぅ……ごめんなさい。わたしちょっとだけいいすぎてしまいました」


名残惜し気に数ナメした後離れる右耳の幼女。

そしてへなへなと妖艶の気をしぼませて謝罪する左耳の幼女。


なんだろう、こう、今さっきのってもしかして私が指示して無理やりにやらせてたんだっけって、そんな錯覚さえ覚える。リルカは当然使ってあるとはいえ、これを求めていたりなんかしないのに。

特にいもうとちゃん?どこで培った語彙力なのかな?私もう二度とお母さんたちに顔向けできないよ?いやおねえちゃんも色々と不味いけど。語彙力がない分純然たるヤバさがある。


「えっと、ふたりはいったいどういう意図でこうなったんだっけ……?」


問いかけると、ふたりは顔を見合わせる。

そうしておねえちゃんが代表して答えた。


「ゆみがつかれてるっていうから、つかれをとってあげようっておもって。……ヤだった?」

「いや、えと。ありがとう。疲れは一瞬で吹き飛んだよ。うん」

「やたっ!」


こぶしをきゅっとして笑うおねえちゃん。

かわいい。

無邪気に笑う幼女はそれだけで無条件に癒しだ。


それに、疲れが吹き飛んだのは事実だ。違う意味で。

新たなる心労に見舞われているけど、それもまあ致命的な勘違いのせいであって彼女たちはまったく純真な真心からしてくれているらしいし。


問題は、どうしてその真心があんな奇形になって飛び出してきたのかっていうことだ。


「あのね、お姉さんとても気になるんだけど、疲れをとるには耳を舐めるって、いったい誰に教わったのかな」


まさか彼女たちの周辺に彼女たちの無知に付け込む変態的な性癖の異常者がいるのかもしれない。

そんな危惧から問いかけてみると、おねえちゃんはぱちくりと瞬いていもうとちゃんに視線を向ける。

いもうとちゃんはにこにこ笑った。


「わたしはおねぇちゃんにしてもらうととってもきもちぃです」

「Oh……」


いもうとちゃん、君なんだね……。

っていうかシレっとさせてるよね?

しかもさっきの語彙力からして結構マズいジャンルに足を踏み入れてるよね?

私でさえ生徒会長弄りの一案として思いついたけどお蔵入りにしたのに余裕でぶっちぎってるよね?あながち無知に付け込む変態的な性癖っていうのが間違ってなくてお姉さん心配だよ。


……いやほんと、えっ、ほんとに?


無知な姉(小学生)に双子の妹(小学生)が耳舐めさせてるの?

どう、どういう世界観なの……?まだ二桁も生きてないのにその領域にたどり着いてるの?人生二週目?しかもそれはそれとしてASMR作品楽しんでるよね?結構よからぬ作品がっつり聞いてるよね?ペアレンタルコントロールの必要性を痛感してるよ?


「わ、わたしわるいことした……?」


私が難しい顔で考え込んでいると、おねえちゃんが泣きそうな表情になる。

慌てて抱き寄せてぎゅっとして頭をなでる。


「大丈夫だよ大丈夫。うん。おねえちゃんは全くなんにも悪いことしてないよ。あんまり疲れが取れちゃったから、どんなご褒美あげようかなって悩んでたんだよ」

「ほんとぉ?えへへー♪」


うーむかわいい。

かわいいけども。

いったいこの無邪気の裏にどれだけのことを仕込まれているのか……。


戦々恐々といもうとちゃんを見ると、彼女はとぼけたように小首をかしげる。

もしかして彼女自身も分かってないのかも、とか思えたらいいんだけども。

たぶんこれまでのことを踏まえても結構ギルティだろう。うん。


「ねっ、ゆみ、おねがいしてい?」

「あ、うんどうしたの。できることならなんでも聞いたげるよ」


いもうとちゃんと睨み合ってみつめあっていたらるんるんと見上げてくるおねえちゃんにとっさに笑みを向ける。

彼女はそれはもうウキウキと私を見上げていて、そして『おねがい』を告げた。


「あのね、わたしゆみとキスしたいの♪」

「……うん?」

「みくちゃんがね、おかあさんたちいがいのダイスキなひととするトクベツなことだっておしえてくれたの!」

「いもうとちゃーん?」


にこやかな笑みを向けると、いもうとちゃんもまたにこやかに笑いながらおねえちゃんを私から奪い取る。

そしてきょとんとしているおねえちゃんにずいと顔を近づけて、思い切り目を見開いて覗き込む。


「おねぇちゃん。キスはね、ひとりとしかしちゃいけないんだよ?いちばんとくべつじゃないとしちゃいけないの。わかった?」

「そーなの!?」

「そうなの。そうだよね、ゆみかちゃん?」

「ああまあ、うん」


あながち間違ってはいないので頷く。つまり私が大間違い人間であるということになるけど頷く。情操教育。

けれどなにより気になるのは、これまでのリルカを使った触れ合いの中に『キス』が含まれていなかったという認識になっている点だ。

唇が触れあうことをキスと呼んでいないことだけが分かる。

じゃあどこからがキスなのかという点については……いやでも、触れるのをよしておこう。うん。パンドラの箱と分かってて開けないよ。


「そーなんだ……ゆみとキスしたかったなぁ」


つーんと唇を尖らせるおねえちゃんにいもうとちゃんの笑みがにっっっこりと深まる。

ひしひしと感じる棘々しい気配。

これまでおねえちゃんを差し向けている側だったのに。彼女の境界線がいまいち分からなかった。


なにはともあれこれ以上刺激すべきではないだろう。

他のお願いがないかと問いかけようとする私に、けれど彼女が先に口を開く。


「……ゆみって、キス、したことあるの?」

「え?」


もじもじと問いかけてくる彼女になにか嫌な予感がしてくる。

いもうとちゃんから放たれる威圧感に押しつぶされそうだった。


「あのね、なんかね、ゆみがキスしたことあるかもっておもったら、むねがキュッてイタくなったの。ね、ゆみってキスしたことある?」

「あるよ」


答えたのはいもうとちゃんだった。

おねえちゃんを逃さないようにと強く抱きしめながら私を睨む。


「ゆみかちゃんはこうこうせいなんだから、あたりまえだよ。どうせゆみかちゃんなんておんなずきなんだからたくさんのひととキスしたことあるよ」

「うんと……」


言葉が鋭利だけど事実すぎてぐうの音も出ない。

頬をかく私に勝ち誇った様子のいもうとちゃんに、おねえちゃんは首を傾げた。


「キスって、ひとりとしかしちゃいけないんじゃないの?」

「………………ゆみかちゃんはヘンタイだからするの」

「へんたい?」

「変態呼ばわりまできたかぁ……」


いもうとちゃんの苦し紛れの言葉に首をかしげるおねえちゃん。

客観視してみると不思議なことに否定できないけど肯定もできず、私は苦笑するしかない。


「へんたいってなに?」

「へんたいっていうのは、たくさんのひととキスとか、てをつないだり、だっこしたりしてにやにやするひとなの」

「にやにや……ゆみしてた!」


ぐふぅ。

無邪気な笑みが突き刺さる。

にやにや……している自覚があるから何とも言えない。


撃沈する私から、けれどおねえちゃんの矛先はいもうとちゃんに向く。


「でもみくちゃんもしてるよ?ゆみとおんなじかおー」

「なんっ、ゆみかちゃんとおな、じ……?」


そこなんだね、ショックを受けるところ。

もしかしていもうとちゃんって私のこと嫌いなんだろうか。


そんな疑問がふつふつと湧き上がってくる中、おねえちゃんはさらに突き進んでいく。


「わたしもみくちゃんとしてるとにやにやしちゃうし、ゆみといっしょにいてもにやにやしちゃうから……わたしもへんたいなのかな」


ショックを受けて緩んだいもうとちゃんの拘束を、おねえちゃんがするっと抜け出す。

ぱふ、と抱き着いてきて、見上げる彼女の視線と見つめあう。

頬を赤らめてもじもじしながら、彼女は私に問いかける。


「へんたいどうしなら、キス、できる……?」


この期に及んで私に判断をゆだねてくるおねえちゃん。

言うまでもなくここはノーを突きつけるべきだ。

そしてそこに躊躇いはなかった。意外なことに事実だ。

なにせ相手は幼い。

どんな感情がそこにあれ、社会的な視点というものを有さない彼女にそうすることは無知に付け込むことになる。たとえ私が真剣に彼女との将来を考えていたとしてもしてはいけない鬼畜の所業を、どうしてJSリフレにやってきただけの私がしでかせるだろう。

それくらいの分別はある。あるったらある。


だから私は口を開こうとして―――


「だめぇッ!」


いもうとちゃんの口が、私の口を塞いだ。

甘酸っぱくとろりとした蜜がちゅるりと流れ込んでくる。

彼女の口腔は火傷するほどに熱くて、訳も分からないのにその熱が頬に伝播した。

一切反応できないままに彼女が言うところの『キス』―――すなわち舌でのふれあいまで披露されて、それからいもうとちゃんは思い切り口を離した。


「わ、わたしがしてあげるからおねぇちゃんにはてをださないでッ!」

「えっ。待って勘違いしてる。私は、」

「ズルい!」


まるでほんとに私がクズなロリコンであるかのようないもうとちゃんの言葉を否定しようとして、その前にいもうとちゃんはおねえちゃんに押し倒される。


「ズルい!わたしがしようとしてたのに!」

「おねぇちゃんはだめなのッ!わたしとっ、わたしとしかしちゃいけないのッ!ゆみかちゃんなんかとしちゃやだぁ!」

「なんでそんなことゆーの!みくちゃんだってゆみのことスキでしょ?」

「きらいだもんっ!おねぇちゃんよこどりするひとなんてだいっきらい!」

「よこどりってなに!わたしがゆみとキスするのがよこどりなの?みくちゃんおかしいこといってる!」

「いってないもん!」

「いってる!」

「いってないもんッッッ!わ、わたしよりゆみかちゃんスキになったんでしょッ!おねぇちゃんのいちばんとくべつはわたしなのにッ!」

「なってないよ!みくちゃんはいちばんとくべつよ!」

「でもキスしたらなっちゃうもん!おねぇちゃんとられちゃうのやだぁッ!」

「もぉー!」


はみゅ。

おねえちゃんがいもうとちゃんと唇を重ねる。


「んぐ、む、じゅっ、ちゅ」

「ぉふ、んふっ、ぷっ、ぢゅぅっ」


相当な勢いで口腔を貪り合う双子幼女とそれを傍から見る女子高生の図。

なんだろう。AVでも見ないくらいの勢い。獣感が凄い。捕食シーンを見ているくらいの気分。見た目が少女だからまだ耐え……耐え、て、ないな、うん。心でモザイク処理しておこう。直視するとキスの定義が破壊されそう。


「んぶっ、ぁぷっ、はっ、はふっ、ふっ」


やがて口を離したおねえちゃんは、口周りをべたべたにしながらもいもうとちゃんを見下ろす。


「ぁ……ぅ……おねぇ、ちゃん……♡♡♡」


いもうとちゃんはたぶん半分くらい意識を失っていて、全身がピンク色になってぴくぴく震えていた。

さすがに見かねたおねえちゃんがゆっさゆっさとゆさぶるとなんとか蘇生して、けれどとろとろにとろけた視線でおねえちゃんを見上げる。


「みくちゃん、わたし、みくちゃんのおねえちゃんだから、みくちゃんとずっといっしょだよ」

「……ほんと?」

「うんっ。ゆみとキスしたら、そのぶんいっぱいみくちゃんにもキスしたげる。みくちゃんも、ほんとはゆみのことスキでしょ?キスしたいでしょ?」

「うん……」

「じゃああやまろう?キライなんていったらゆみかなしいよ?ひとをかなしませちゃったら、ごめんなさいだよ」

「うん……」


そんなやりとりを経て、双子ちゃんは私の隣に侍る。

じぃと左右から見上げられて異様な汗をかく私に、いもうとちゃんがぺこりと頭を下げる。


「ゆみかちゃん、きらいなんていってごめんなさい」

「そんな。大丈夫だよ。気にしてないから」

「ゆみありがとぉ。えへへー。やさしくてスキ」


そう言ってぐいっと近づいてくるおねえちゃんの唇を手の平で受け止める。

ぱちくりまたたく彼女に、私はできる限り無害な笑みを浮かべた。


「あのね、そういうことは、ふたりみたいに小さな子はまだやっちゃいけないんだよ。少なくとも私みたいな他人にはね」

「ゆみ、わたしとキスしてくれないの?」


うるうると涙目で迫られる。

うっ、と言葉に詰まる私の耳元に、生ぬるい吐息が触れる。


「ゆみかちゃん、ヘンタイさんだからおねぇちゃんとキスしちゃいますよね♡」

「ちょ、と?」

「うふふ♡わたしとシちゃったのに、どぉしていやがるんですかぁ♡」

「ゆみわたしのことキライなんだ……」

「ちがっ、違うよ?大好きだけどそうじゃなくてね?」


懸命に言葉を探す私の服をぎゅっと引っ張って彼女はおねだりする。


「じゃあして?ねぇゆみ、キスして?ね?おねがい。いいでしょ?」

「がまんしないでいぃんですよぉ♡へんたいろりこんのゆみかちゃんのだいこうぶつ♡なぁんにもしらないちいさなおんなのこが♡キス♡おねだりしてるんですからぁ♡」

「本格的に私を性犯罪者に仕立て上げようとしてない?目障りな人間をあわよくば投獄しようとしてない?」

「うふふ♡まさかぁ♡」


ちゅ、とやわらかな熱が耳に触れる。

ぞわっと背筋が震えたとたんおねえちゃんの顔が近づいて、目前で止まる。


「わたし、ほんとぉにゆみかちゃんのことすきですよ♡わたしたちがなかよし・・・・でもヘンなめでみないでくれますから……♡」

「ねえゆみぃ……ゆみから、して?なんでもしてくれるって、やくそくぅ……」


―――ここで私の記憶は途切れている。


ばいばいと手を振って去っていく彼女たちに振り返しながら。

胸の奥にはそこはかとない喪失感と、そして溢れんばかりの満足感があった。

それだけが、私に残る確かな記憶だった。

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