第三百六話 アカリエル・ベル城の攻防 その四
≪トルメニコ視点≫
「皇帝陛下、魔道具研究開発施設が破壊されてしまいました」
「そうか」
侍女達に正装に着替えさせていると、次の報告を受けた。
侍女達は慌てふためいているが、予想していたので特に驚く様な事も無い。
着替え終え、余は玉座の間へと向かって行く。
「お前達も城の防衛に当たれ」
「しかし、我等は皇帝陛下をお守りする使命が御座います!」
「構わん、余の守りは玉座で十分だ」
「はっ!」
余は玉座に座り、襲撃者たちを待ち受ける。
玉座には様々な防御機構が備えられていて、代々の皇帝を守護して来た。
しかし、今回はそれも役には立たぬであろう。
元より期待しておらぬ。
余は目を瞑り、襲撃者の来訪を待つ…。
「英雄か…」
世間に知れ渡っていないだけで、過去の英雄は己の研究の為に非道な行いをしていた事が資料に残されていた。
それに比べると、余が行った事は些細な事でしか無い。
帝国が掲げる大陸統一の為に必要な犠牲であり、帝国民の被害を最小限に抑える為に必要な事である。
過去であれば、魔人などと言う不確かな存在に頼る必要はなく、魔導兵器だけで十分大陸統一を行えたであろう。
だが、英雄の生まれ変わりの出現によって戦争が一変した。
戦争は数と数のぶつかり合いでは無く、強力な個の力が勝敗を左右すると証明した。
結果として、余も魔人と言う強力な個の力に頼らざるを得なくなった。
これは余に限った事では無く、統治者であれば誰もが同じ選択をしたに違いない。
過去の英雄は大陸から魔物を排除し、魔物に怯えて過ごす必要が無くなった功績は称えられるべきものに違いない。
しかし、その後の人々がより住みやすい土地を巡り争いを繰り返して来た歴史を振り返れば、本当にそれは正しい行いだったのかと疑問に思う。
魔物の排除に多くの犠牲を支払い、その後も人々を苦しませ続けて来た者を英雄と呼べるのだろうか?
現に今、英雄の生まれ変わりと呼ばれる者の出現により、この大陸は大きな戦いへと導かれた。
ミスクール帝国も再び分断され、争いを繰り返す事になるだろう。
そうならぬよう、余の手で英雄の生まれ変わりの息の根を止めてやりたい所だが…。
城内が騒々しくなって来た。
時期に、ここへと辿り着いて来るであろう。
目を開いて天井を見上げると、英雄が残した魔導兵器タランチュラが敵の侵入を待ち構えているが、期待はしておらぬ。
最後は余が戦わねばならぬだろう。
宝剣を確認し、その時を待つ事にした。
キュロクバーラ王と英雄の生まれ変わりが玉座の間にやって来た。
魔導兵器タランチュラに攻撃させるも、無駄に終わる。
神と言う存在がいるのであれば、英雄の生まれ変わりをこの世に送った事を恨んで仕方が無い。
相打ちになろうとも、英雄の生まれ変わりをこの手で仕留め、神に後悔させてやろう!
≪エルレイ視点≫
「まだ何か残っているなら、早めに出す事を勧めるぜ!」
レオンが皇帝を睨みつけながら言い放っていた。
出来ればもう何も出て来て貰いたくは無いが、皇帝を守るのがあの魔道具だけとは考えにくい。
皇帝が座る玉座の周囲に騎士の姿が無いのが、非常に不自然で不気味に思ってしまう。
見えない壁を抜けると、更に何かの仕掛けが作動するのではないだろうか?
怖がっていても仕方がないし、皇帝もただ黙ってこちらを見ているだけだ。
「エルレイ、行くわよ!」
「分かった」
俺とルリアが前に出て、ルリアは魔剣エリザベートで見えない壁の破壊を試みようとした。
「その必要はない」
皇帝が俺達に声をかけながら玉座から立ち上がり、右手をスッと横に振ると、見え無い障壁が消え去ったみたいだ。
何故皇帝が障壁を解除したのかは不明だが、好機には違いない。
俺は皇帝に向けて前に進もうとしたら、レオンに肩を掴まれた。
「俺の役目だ!」
「そうですね。ルリア、下がっていよう」
「レオン様、頑張って下さいませ」
レオンは大きく頷いて皇帝の前に立ち、皇帝は一段高い玉座から軽やかに飛び降りて来た。
レオンは剣の達人だが、皇帝も剣の腕に自信があるのだろう。
右手には豪華に飾り付けられた剣が握られており、皇帝は左手で宝石の散りばめられた鞘を抜いて後ろに放り投げた。
某剣士なら、ここで敗れたりと言うのだろうが、レオンは堂々と皇帝を待ち構えるのみ。
「余は、後ろの英雄の生まれ変わりと戦いたかったのだがな」
「俺を倒した後なら、好きなだけ戦うといいぜ!」
「そうさせて貰おう」
皇帝は剣を構えて、ゆっくりとレオンとの間合いを詰める。
キンッ!
そしてレオンの間合いに入った時、両者の剣がぶつかり合った!
「へぇ、今のを受け止めるとは、なかなかやるな!」
「この程度の事など誰でも出来よう」
皇帝は平然とした表情で、レオンの刀を押し返した。
レオンの抜刀術を受け止めるのは、誰にでも出来る事では無いと思う…。
皇帝もかなり鍛えているみたいだ。
父も剣の腕を鍛えていたし、上に立つ者は剣の腕も鍛えていないといけないのだろうか?
でも、ソートマス王国の国王は剣の腕が優れている様には見えないな。
二人が特別だと言う事だろう…。
「なかなかやるわね!」
「そうだな…」
レオンと皇帝は、双方が一歩も引かない攻防を繰り返していた。
俺とルリアでは、レオンには歯が全く立たないのに…。
そう言えば先程皇帝は、俺と戦いたいと言っていたな。
俺が皇帝と戦えば、魔法抜きだと確実に負ける。
これは試合では無いので当然魔法は使わせて貰うが、魔法を使って戦えばレオンから冷たい視線を貰いそうだ。
勝てば何でもいいのだろうが、相手が正々堂々と戦っていれば、俺もそれを正面から受けたいとは思う。
しかし、俺は死にたくは無いので、結局は魔法に頼ってしまうのだろうな…。
無駄な事は考えずに、レオンと皇帝の戦いを見届けよう。
戦いは徐々にレオンが押していて、皇帝はレオンの激しい攻撃をうけて、少しずつ後退して行っている。
もう少し下がれば、皇帝は一段高い玉座の壁で逃げ場が無くなる。
そう思った所で、レオンが急に皇帝との間合いを離して後ろに下がった。
「気が付いたか」
「あからさまに下がれば、何かあると思うのが当然だぜ」
「ふんっ、演技が足りなかったか。まぁ良い」
皇帝は下がるのを止め、前へと出て来た。
「小細工は無しにしよう」
「俺もそうするぜ!」
レオンと皇帝は再び対峙し、皇帝は剣を正面に構え、レオンは腰を低くし抜刀術の構えを取った。
お互い、じりじりと間合いを詰めていく。
あと半歩ほどで、レオンの間合いに入る…。
そう思った所で、レオンと皇帝が一気に前に出た!
「秘技、瞬雷!」
レオンと皇帝は交差し、お互いが背中を向き合わせた状態で止まった。
「ぐはっ!」
膝を付き、血を流しているのは皇帝の方だった。
レオンは皇帝の前へとゆっくりと歩んで行った。
「最後に何か言い残す事はあるか?」
レオンは止めを刺す前に、皇帝の言葉を聞く事にしたようだ。
「貴様には無いが、英雄の生まれ変わりにはある!」
「エルレイ、お前に言いたい事があるそうだぜ!」
レオンに呼ばれ、俺達も皇帝の前へと立った。
皇帝は斬られた腹部から血を流しているが、レオンが手加減したのか重症ではなさそうだ。
皇帝は苦痛に表情を歪めながら、俺に話しかけて来た。
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