第二百三十二話 武闘大会本戦 男性部門 その四
≪エルレイ視点≫
「ラルフは良く戦ってくれた!」
「そうね。よくやったと思うわよ」
「うむ、見事な戦いぶりだったぞ!」
「怪我はしていないみたいですし、良かったと思います」
「が、頑張ったと思うのじゃ!」
「お姉ちゃんも、良く戦ってくれたと思うわね」
誰もラルフの戦いを悪く言う者はいなかった。
それは俺達だけではなく、観客達からもラルフの健闘を称える声が聞こえて来る。
一部、賭けに負けた者(左隣の部屋)からは文句が聞こえて来ているが、それは仕方のない事だろう…。
途中から、誰の目にもラルフの敗北が見えていた事だとおもう。
それでも諦めずに、最後まで戦ったラルフを責める者などいる筈もなかった。
「素晴らしい戦いを見せてくれた二人に、盛大な拍手を送りましょう!」
キャセラが舞台に上がり、観客席は盛り上がっていた。
武闘大会でキャセラの人気が凄い事になっているな…。
街中で襲われたりしないかと心配になる程だ。
終わった後、自宅まで警備隊に送らせるようにした方が良いのかも知れないな。
そんな事を考えると、舞台ではキャセラが優勝したデルバートに勝利した感想を聞いている所だった。
「優勝したデルバート選手に、今の気持ちを聞きたいと思います!」
「そうだな…優勝した事は素直に嬉しく思うが、強者が出場していなかった事を残念に思う!」
「強者ですか?優勝したデルバート選手より強い人がいらっしゃるのですか?」
「うむ!儂はその強者と戦うために武闘大会に出場したのじゃ!」
キャセラの問いに大きく頷いたデルバートは貴賓席の方を向いて、俺を見上げて来た!
デルバート、いや、カールハインツとは戦争の時に一騎打ちで戦い俺が勝利した。
だから、もう一度俺と戦いたくて武闘大会に出たと言う事か…。
俺としても武闘大会には出場したかったのだが、アドルフから止められたからな…。
再戦を期待していたカールハインツには申し訳ないが、諦めて帰って貰うしかない。
「領主様!どうかこの儂と戦って下され!」
「えっ!?強者って領主様の事なのですか?」
「うむ!」
カールハインツが俺に戦いを申し込んで来た!
しかし、俺はそれを受ける訳にはいかないだよな…。
俺としては、カールハインツと戦いたいと思っているが、ここにいないアドルフが怒る姿が目に浮かぶ…。
アドルフの言う通り、カールハインツと戦って負けてしまった場合、俺の面目は地に落ちるだろう。
そのリスクを背負ってまで戦いたいとは思わない。
闘技場を作り、武闘大会を開催した事で、俺の領主としての名声は高まった事だろう。
その名声は俺が作り上げたのでは無く、様々な人に支えられて作られたのだと言う事を理解している。
だからこそ、その名声を落とす様な真似は出来ない。
領主として、しっかりと断らなければならないな!
「エルレイ、どうするの?」
「戦わないよ」
「そう…」
ルリアが問いただして来たので素直に答えたのだが、それ以上追及して来なかった事には驚いた。
ルリアなら俺に戦えと言って来るとか思っていたのだが、ルリアも俺と同じ結論に至ったと言う事なのだろう。
ルリアも大人になって来たのだなと嬉しくなり、頭を撫でてやりたくなるな…。
闘技場内にいる人達から注目を受けるので今は出来ないが、帰ったら頭を撫でてやろうと思う。
俺はカールハインツに戦わないと答えるために立ち上がった!
「アリクレット!」
丁度その時、貴賓席の後ろの扉が勢いよく開け放たれ、イクセル第二王子が俺の傍まで駆け寄って来た…。
「アリクレットはあの者と戦うのだよな!」
「い、いえ、戦いませんが…」
「何だと!」
イクセル第二王子は俺を戦わせたいみたいだな…。
恐らく、面白そうだからとかそう言う理由だろうが…。
イクセル第二王子が何と言おうと、戦う訳にはいかない。
どうやってイクセル第二王子を説得しようかと考えていると、ラノフェリア公爵までやって来た…。
「エルレイ君、戦うしかあるまい」
「えっ…」
まさか、ラノフェリア公爵まで俺に戦いを勧めるとは思っても見なかった…。
「観客席から聞こえて来るであろう。皆がエルレイ君の戦いを期待しておる」
確かに観客席の方からは、領主様コールが聞こえて来ている…。
ここで俺が戦わないと言えば、皆から失望される事は間違いない。
でも、負けた時は更に失望されるのではないだろうか?
「アリクレット!お前の活躍を耳にする事は多かったが、実際に見た者は少ないはず!
お前の実力を示すにはいい機会ではないのか?」
「そう…ですね…」
ラノフェリア公爵とイクセル第二王子に言われては、戦わない訳にはいかなくなった。
後でアドルフに怒られる事になるが、ラノフェリア公爵に言われて仕方なくと言い訳は出来るな…。
「分かりました。戦って来ます!」
「うむ、頑張るのだぞ!」
「アリクレット、負けは許さぬからな!」
「エルレイ、叩きのめして来なさい!」
「エルレイさん、無理はしないで下さい…」
「エルレイ、お姉ちゃんに良い所見せてよね!」
「エル、期待しておるぞ!」
「エ、エルレイ、が、頑張るのじゃ!」
皆に励まされた後、俺は飛行魔法で浮かび上がってカールハインツのいる舞台へと下り立った!
「デルバートの勝負を受けよう!
ただし、今回だけだ!
次回から僕が戦う事は無い!
悔いが残らぬよう全力でかかって来るといい!」
「領主様、ありがとうございます」
カールハインツは頭を下げ感謝を示してくれた。
一方、この場にいたキャセラとラルフは、俺が来た事に驚愕し固まっていた…。
ラルフは良いが、キャセラには仕事をして貰わなくてはならない。
俺はキャセラの前に行って、状況を観客に説明する様に促した。
「み、皆さん!突然の事ですが、領主様と優勝したデルバート選手が戦う事になりました!
領主様の実力は未知数ですが、きっと素晴らしい戦いを披露してくれるに違いありません!
皆さんで領主様の戦いを見守り、応援して差し上げましょう!」
キャセラが俺の紹介をしてくれている間に、舞台の上にいるラルフの所に向かって行った。
「大丈夫か?」
「はい、エルレイ様…それより、勝てなくて申し訳ございませんでした…」
ラルフは負けた事で酷く落ち込んでいるな。
俺はラルフに治癒魔法を掛けつつ、元気づけようと言葉を掛ける事にした。
「ラルフの戦いは見事だったし、誇っていいぞ!
皆もラルフの事を称賛していたからな。
ほら、顔を上げて胸を張れ!」
「はい!」
ラルフは顔を上げて笑顔を浮かべてくれた。
ラルフ自身としても、全力を出し切って戦ったので満足はしているのだろう。
「ラルフ、その剣を貸してくれ」
「エルレイ様には少し大きいような気がしますけど?」
「大丈夫だ!」
ラルフの使っていた剣は俺が使うには少々長いが、長剣だと思えば使えない事もない。
それに、カールハインツと戦うのであれば、その方が戦いやすいだろうからな。
ラルフから剣を受け取り、ラルフに少し離れる様に言った。
素振りをし、剣の感触を確かめる。
武闘大会の準備で剣の訓練をする時間は少なかったが、ルリアと何度か訓練をしていたし、衰えてはいないな。
「キャセラ、僕の準備は整った。いつでも初めていいぞ!」
「は、はい…領主様、防具は必要無いのでしょうか?」
「必要無い!」
「そうじゃな!」
俺に合わせてか、カールハインツも兜と革の防具を脱ぎ捨てた。
「皆さん、お待たせしました!
これより、領主様対デルバート選手の戦いを始めます!」
観客席から盛大な歓声が巻き起こって来た!
しかし、俺とカールハインツはその歓声が聞こえないほど集中して対峙している。
お互い剣を構え、相手の目を見て斬り掛かる機会をうかがう…。
俺の負けは許されない!
一瞬の油断をする事無く、勝利を掴まなければならない!
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