アーサー王と武蔵野うどん ~ いとをかし、武蔵野邂逅譚!~

中田もな

Ⅰ アーサー王と巨人退治

 時は今から遠い昔、場所はブリテン島・コーンウォールに位置する聖マイケル山。イギリス版「モン・サン・ミッシェル」と言っても過言ではないこの場所に、美しい馬にまたがった騎士が三人、凛と山頂を見つめていた。ともに戦いやすい軽装だが、その容姿はただならぬ気配を纏っている。

「私は今から山頂に登り、悪事を働く巨人を退治する。おまえら二人は、そこで待っていろ」

 最も若々しく、最もあてなる身分の騎士は、山のてっぺんを指差して告げた。彼の指の先には、赤々と燃える火が揺らめいている。七年もの間、子どもたちを火あぶりにし、自らの腹の足しにしてきた、恐ろしい巨人。騎士の名において、決して許すわけにはいかない。

「王さま、くれぐれもお気を付けください。あの巨人は、すでに何人もの王を打ち負かしております」

 騎士の一人が進言すると、高貴な騎士はニヤリと笑う。自信に満ち溢れた彼こそが、かの有名なブリテンの王・アーサーだった。

「心配は無用だ。憎き巨人、必ず打ち倒す!」

 アーサー王は二人の騎士を残し、逞しい馬で一気に山を駆け上った。そして火の燃え上がる山頂まで辿り着くと、立派な槍を振りかざしてこう言った。

「さあ覚悟しろ、大食らいの巨人! いたいけな子どもを殺すことは、この私が許さぬ!」

 巨人は食事の真っ最中であったが、彼の宣戦布告を受けてズンと立ち上がった。強者の証である上等なマントをなびかせ、大股で地面を踏み鳴らす。

 アーサー王はすぐさま巨人に飛び掛かり、大きな腹に槍を突き立てた。巨人も負けじと棍棒を振りかざし、立ち並ぶ木々もろとも王を吹き飛ばす。

「巨人よ、私は負けぬぞ!」

 二人は一進一退の攻防を繰り返し、じりじりと山を下る。やがて王は巨人の下半身を切り付け、巨人は悲痛な怒号を上げた。

「王さま!」

 下を見ると、すでに山のふもと。待ち構えていた二人の騎士が、長い槍を握りしめている。

「罪深い巨人め、最早これまでだ!」

 勝ちを確信したアーサー王は、渾身の一撃を食らわした。鋭利な刃は巨人の腹を突き抜け、後は二人の騎士がとどめを刺す……はずだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る