第11話 模擬戦

シリウスにお詫びをもらってから1週間後、騎士団本部に来ていた。今日は騎士団員達と模擬戦をする予定だ。

 いつもと違うのは、レティシアが見学していることだ。


「女性も思ったよりいるのね。素敵だわ。甲冑のデザインが凛々しくていいわ。全身を隠してしまうから、ディアが見つけにくいわね。」

 しかし、レティシアはリーディアを見つける。


「あっ、すぐわかっちゃった。やっぱりスタイルがいいと、区別つきやすいわね。顔が隠れてても、わかるわ。あの甲冑は特注かしら」  

 レティシアは関心する。


リーディアはレティシアの側に来た。

「さっきから、何をひとりごと言ってるの?今日の模擬戦は他国との戦いを想定してだから、甲冑姿なんだけど、シアにしたら、あまりおもしろいものじゃないかもね」 


「そんなことないわ!ディアの甲冑姿素敵よ!甲冑でそのボディラインが出せるなんて、すごいわ。ディアの魅力を上げるために甲冑の境に、飾りをつけたいくらいだわ!」

レティシアは、見学席から身を乗り出してくる。


「はい、はい、身を乗り出すと危ないわよ。それにシアの本当の目的は私じゃないでしょ。お兄様ならまだ、執務室よ」


「そうだった。あまりに素敵だから忘れるとこだったわ!じゃあちょっと行ってくるわね」

 レティシアは本来の目的のために兄の元へ向かっていった。

 


「団長はまだいないが、個人戦を始めよう。」

副団長が集合をかける。


「今日の模擬戦は他国との戦いを想定したものになる。全身を守る甲冑には慣れておいてもらわなくてはならない。着けていない時とは勝手が違ってくるから、実際に戦いながら、感覚をしっかり身に付けるようにね。身体強化も許可する。魔力配分を考えて行うように。個人が終われば、全体での模擬をおこなう予定だ。今日は、個人では団長の妹君も参加する。よい動きをするので参考にするようにね」

 リーディアは一礼する。


「では3組ずつ始めよう!」

 副団長の掛け声で、あらかじめ決めてあった者がわかれ訓練を開始しはじめた。

 剣のぶつかり合う音、甲冑の動く音が響く。


 副団長のエイダンがリーディアに話しかけて来た。

「今日はごめんね。リーディア嬢の動きを模範にしたくてよびつけてしまって」


「構いませんよ。甲冑はなかなか着る機会がなくて、感覚を忘れないためにも呼んでいただけて嬉しいですから」


「ならぜひ、僕の相手をお願いするよ」

 副団長は楽しそうだ。副団長のエイダンは赤い髪が印象的で、人柄は柔らかい。しかし、戦いになれば、普段の温厚さは影をひそめる。リーディアは、騎士団で1番厄介なのは、この男だと思っている。

 

「エイダン様が相手では、本気を出さないと怪我をしますね。」


「リーディア嬢に、僕が怪我をさせるわけがないでしょ。もし、怪我を負わせたら、もちろん責任とるからね」


 エイダンはにっこり笑うが、リーディアはエイダンの毎回の、このやりとりが嫌いだ。口では怪我をさせる気はないというが、戦いになると、本気で怪我を狙ってくるから、リーディアも毎回全力で回避する。

 大抵は兄がいるため、今までは勝敗がつく前に終わりがくる。しかし、今日は兄はまだやってくる気配はない。


エイダンと話しながら、個人戦は最後の組になっていた。副団長エイダンと、リーディアの個人戦の番になった。


 相変わらず、エイダンはリーディアの隙を狙い攻撃を仕掛けてくる。力技では身体強化をしても、エイダンには敵わないため、リーディアは攻撃を受け流し、攻撃にでてきた相手の体勢を崩そうと狙う。


 しかし、さすがは副団長、なかなか崩れはしない。すぐに大勢を整え、また隙を狙ってくる。甲冑を纏っていても普段とかわらない動きをみせる。

 

 身体強化がなければ、甲冑でこの動きは体力、スピードともに難しい。魔力操作にも長けているということだ。

 

 甲冑の繋ぎめを狙ったり、打撃で背を地面につけさせようとするが、決着はつかない。リーディアは魔力配分を変えるか悩む。エイダンはまだ、体力、魔力は問題なさそうだ。闘志が変わらず、それらが見て取れる。エイダンの目が常にリーディアを狙っている。

 

 きらりと、何かが光った。リーディアの視野に長い銀髪が映り込む。魔導師団長シリウスが部下たちを連れ、廊下を歩いてくる。

 リーディアの視野にシリウスが映り、ほんの少し隙ができてしまった。エイダンは、リーディアに詰め寄る。

 

 やはりエイダンは、リーディアへの攻撃を寸前で止めるような事はしようとしなかった。

 

 今回兄はまだ姿を見せていない。この場で副団長を止められる者はいない。

 


 避けきれないと、ディアは息を呑んだが、剣先がディアに触れる寸前、強い冷気が吹き抜けた。気づけばエイダンは、膝をついている。


 冷気が漂い白いローブがはためく。エイダンに膝をつかせたのはシリウスの放った魔法のようだ。


「まったく、騎士団は模擬戦だからと、血の気が多い。無駄に血を流そうとするな。野蛮すぎる。」


 シリウスが近づき、あたりをみまわす。


「あいつはいないのか、仮にも副団長ともあろう者が部下に本当に怪我をおわせる攻撃を仕掛けるなんて、品性を疑うぞ。エミリオ!!仮にもお前の兄だろう。何とかしておけ」

 シリウスは、後ろに控えていた、魔導師副団長に指示をだす。


「まったくです。申し訳ありません。」

 姿を表したのはエイダンに似た容姿だが、髪の色素はエイダンより薄い赤色をしている。顔はにているが、性格はどうやら、エイダンのように二面性があるわけでは無さそうだ。


 シリウスはあたりを見渡し、ジルベルトを探しているようだ。


「お怪我は大丈夫でしたか?兄があれほど、部下に容赦ないとは…」

 魔導師副団長のエミリオが声をかけてきた。


「おや?・・・あなたでしたか。なるほど。毎回、兄が危険な行為をしていると伺っております。重ね重ねご迷惑をかけて申し訳ありません。」

 エミリオとは初対面ではないが、あまり話をした事はない。たまにエイダンといるのを見かけるくらいだ。挨拶を交わす程度で、実際に話をしたことは無いに等しい。


「いえ、模擬戦をしていただけですし、隙をみせてしまったこちらも非がありますので」


「ですが、兄はやり過ぎです。お怪我がなくて何よりです。怪我をすれば、捕まってしまいますから、相手をしない事をおすすめします」

 エミリオは、とても親切だ。双子で善悪が分かれてしまったのだろうか。


「おい!いきなり魔法を横からだなんてッ、ふがッ」

 復活したエイダンが立ち上がり、話しだすが、一瞬でエミリオが、魔法をかけ倒れた。


「ふふっすみません。うるさくなると思ったので眠らせちゃいました。」

 前言撤回だ。どうやら、ちゃんと双子の二面性だったようだ。可愛らしい仕草をしても、やることは容赦ない。


 そこへ、やっと兄のジルベルトがやってきた。レティシアはシリウスがいる事に気づいたが、理由があって騎士団にいるため、姿は隠さないようだ。


「シア、何故こんな野蛮で品がない場所にいるんだ。それに、何故そいつと一緒にいる」

 シリウスはすぐにレティシアに詰め寄る。


「あら、お兄様も見学?私はディアの個人戦を見学にきて、団長を呼びに行っていただけよ」

 レティシアはつらつらと、考えていた嘘を話す。


「ん?リーディア嬢?彼女がこんなとこにいるわけがないだろう」

 シリウスは、妹の発言に怪訝な顔をした。


 リーディアは甲冑を外し、シリウスに挨拶する。

「シアの言うことは、本当ですよ。シアを招いてしまったこと、お詫びいたします。申し訳ありません。それと、先程はありがとうございました。」


 シリウスは甲冑を外したリーディアをみて、眉をひそめるのだった。シリウスは、何も言わずにレティシアを連れて行ってしまった。


 リーディアも兄に断りを入れてその場を後にした。

彼が何も言わず去ったことで、リーディアは自分の姿に幻滅してしまったのだろうと落ち込んだのだった。

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