第10話 つらいはずなのに
昇降口でうずくまっている私の頭に何か置かれる。かなり重量がある。それは私の頭を乱暴に撫でる。いつもの倍の時間をかけてセットした前髪は崩れ、髪はボサボサ。
「帰んぞ。」
何も聞こうとしてこない桜太の優しさが今日はいやに染みる。渡すはずだったお菓子は私の涙でぐしょぐしょだった。桜太はそれを私の手の中から抜きとると
「余ってるなら食っていいか。」
ぱっと言われた言葉にうつむいて返す。
「やだ、私のだもん。食べるっ。」
「俺もヤダ。お前が泣いてんのは。だからもらうぞ。」
あげたマフィンと同様に一口でほおばった桜太。
「ハムスターじゃん。」
桜太のよりも谷野くんのはいくらか大きい。口いっぱいに詰め込んだせいでしゃべれない桜太をみて私はついに笑い出した。そんな私につられて桜太も笑い出す。
「っちょ。きたない。ちゃんと食べて。」
初めて二人並んで家路へとついた。
家に帰っても頭の中は桜太のことだけでいっぱいになった。谷野くんに渡せず、振られたはずなのに桜太の優しさで胸がいっぱいになる。
私は桜太のことをどうおもっているのだろう。
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