第6話 嫌いなのになんで!
その日は朝から悪寒がした。頭が痛いとか風邪の症状があるわけでもなかったから学校へは行ったけれど。
だからだと思う、運動の得意な私がマラソンで躓いて桜太の肩を借りる羽目になったのは。最初のうちは足を捻っても走っていた。足から全身にかけてズキズキと伝わる痛みを無視して歯を食いしばる。負けん気の強い私は隠し通せていると思っていた。誰も私の異変には気づかなかったし。しかしたった一人気づいたヤツがいた。
「おい、足痛いなら棄権しろ。先生に言って休め。」
ぶっきらぼうな口調で、桜太が命令してくる。上から目線な言い方に怒りよりも驚きが勝った。今まで誰一人として気づかなかったのに。そんな風に目をぱちくりさせながら桜太を見上げると、いきなり体が宙に浮いた。
「ちょっとつかまってろ。走るから。」
そういうと桜太は自分のハチマキで私の視界を奪う。すっぽりと桜太の腕に収まった私は顔を赤く染め、揺られる。桜太の息遣いが耳元に響く。男らしい筋肉質な腕は頼もしかった。
天敵にお姫様抱っこで運ばれてるなんて考えたくもなかった。なのに、鼓動はおさまってくれない。谷野くんといるときよりも早く、大きく音を響かせる。せめて桜太には悟られるまいと深呼吸を繰り返す。
「おい、体調わるいのか。」
心配して桜太が顔をグイっ近づけてくる。見えないからわからないがきっとその距離はもう目と鼻の先だろう。ブンブンと大げさに首を振る私をみると安心したのかペースを上げた。そのまま1位でゴールすると保健室まで桜太は止まらなかった。
「先生、大橋咲彩足やったみたいです。処置お願いします。」
とだけ言い残して帰っていった。火照る顔からは今にも火が出そうだった。
放課後、包帯を巻いてもらった足を引きずりながら廊下を歩いていると1人の女生徒とすれ違った。
「ちっ。そのまま轢かれればよかったのに。」
彼女が小さくつぶやいた声が耳に入る。驚いて振り向くと、意地の悪い笑みを浮かべた茶髪の女がいた。そのとき転んだ時のことが頭によぎった。そうだ、あのとき私は何かに躓いた。しかしそこは道路の真ん中で障害物はおろか石1つだった落ちていなかった。そこまで思いだせばこの女がわざと足をかけたことは容易に想像がつく。
「なのにあの清水とかいうやつ、邪魔してくれて。おまけに....」
ハッとなる。さっきこの女は“そのまま轢かれればよかった”と言った。ということは轢かれる直前だったということだ。そういえばだれかの背中が見えた気がする。けたたましい車のクラクションしか記憶になかった。
「おい、またお前か。」
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