第4話 アイツの優しさ

騒々しい家から一歩、会いたくないアイツ桜太が。なぜ嫌いな相手ほど近くにいるのだろう。桜太ははす向かいに住むご近所さんだ。家族ぐるみでの付き合いも深い。桜太をここまで嫌うようになったのはいつのことだっただろうか、あまり記憶にない。幼いころはよく遊んでいたはずなのに。


桜太を避けるようにして遠回りで学校に向かう。昨日私を夢の世界へといざなった春風は今日も暖かく私を包み込む。流石に自転車で居眠りはしないけれど。


「おはよー。」

「おはよー。咲彩、今日は早いね。」


友美とふたりで盛り上がっているといつの間にかHRの鐘が鳴って先生が入ってきた。まだまだしゃべり足りないが諦めて自分の席に向かう。


昨日の始業式をサボってしまったこともあり初めて座る。第一印象が肝心だと意気込んで話しかける。ん、なんだか見たことのある後ろ姿。


「おはようございます。隣の席の大橋咲彩です。」


隣の子が振り向いたとき、私の頭が机にぶつかる。打ち付けたごつんっという音が教室に響く。泣きたい...。


私は何かに気が付き、友美の方を振り向くと、口パクで“ご愁傷さま”と。そのとき私の脳裏のは昨日の憐れむような目の友美が思い浮かんだ。すべてがこれで繋がったと友美に“そういうこと”と同じように口パクで返すと大きくうなづいた。しかし友美がすぐに首を振り始めた。奇妙なダンスだなぁと見当違いのことを考えていたあの日の私をひっぱたいてやりたい。音もなく忍びのように使づいてきた先生に案の定お説教をくらい、放課後の居残りを命じられる。


やってしまったぁ、初日から目立つ私の姿はクラスでも噂になった。横のムカつく男が鼻で笑い、小馬鹿にしてくる。


「なにやってんだよ、ばーか。小学生かよ。」


私はイラっとしたがここで乗っては桜太の思うツボだと必死にこらえる。本音を言うならば、今すぐセメント漬けにして東京湾に投げ捨ててやりたい。とても華の女子高生がしていい考えではないがしょうがない。


罰の掃除は意外と大変だった。トイレに行って帰ってくると、誰かがホウキで床を掃いている。その人物に私は驚愕の表情を浮かべる。桜太だ。いつも、掃除なんてかったりぃとサボってばかりの桜太がなぜ。頭の中は疑問だらけで正常な思考能力が働かない。事態が呑み込めないうちに桜太は掃除を終わらせ練習へと戻っていった。


私はその姿を後ろから見ていることしかできなかった。

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