第四十三の論争 しあわせのめんへら
「あれ?キミが一人でいるなんて珍しいね!ほかの人はどうしたの?」
「ん?オメーか、いや…行くべき道を迷ってな」
「そっか…それじゃあ私が正しい道をさし示してあげる♪これからも…ずっと…」
「フフ…頼もしいな」
「そうそう!君に渡したいものがあるんだー!」
ポケットの中に手を入れる。
彼はいつもより興奮している彼女の目を見つめ何か言いようのない異変に気付く。
今…ここで…告白…
自分が今からしようとしていることを思うとしめ縄がまかれているかのように胸が苦しい。
いままで見慣れてきた彼の顔を見ると脈が爆発しそうなくらい慟哭している。
緊張でろれつが回らず失敗しないようにいつも気にしたことがないハキハキとしゃべるということを試みる。
「私には…もうこれは必要ないんだー…」
「でも…キミに持っててほしいんだ…はい…これ…」
彼がゆっくりと彼女のお守りに手を伸ばす。
たった数センチの距離だがその距離は今までのどんな距離よりも道のりがつらく険しいものだ。
彼が手に取り書かれた文字を見る。
彼女はもう緊張に負けて少し涙目になっていた。
どうか…お願いどうか…
彼女は何に対して何を祈っているのかわからなかったが確かに祈りを上げていた。
「…『安産祈願』!?」
「ほえ?」
「さっきからどこかおかしいと思ったが…これは…」
「しかも…もう必要ない!?」
「ブクブクブクブク…」
「…え?」
「・・・」
「間違えたの買っちゃった…」
「もー…いつまでもわらわないでー!」
「いやいや、だってよお!!フフッ…間違えるにしても限度があんだろw」
「もう!忘れてよー!」
「ハハハ…わるいわるい…でも本当にびっくりしたんだぞ?」
「うっ…それは…すまなかったけどー…」
「それで本当は何を渡そうとしてたんだ?」
「…ないしょ」
帰りのバスの中、行きのバスとは違い彼女の望み通りに彼とおしゃべりをして幸せそうだった。
「あいつ…修学旅行中に絶対告白しただろ…」
「あんなにイチャイチャしやがって…俺も彼女欲しいな…」
周りからも勘違いをされるほどにまで彼との距離が縮まりまた、彼の中でも彼女のことが好きという気持ちに素直になり始めたのだろう。
(「あれ?キミが一人でいるなんて珍しいね!ほかの人はどうしたの?」
「ん?オメーか、いや…行くべき道を迷ってな」
「そっか…それじゃあ私が正しい道をさし示してあげる♪これからも…ずっと…」)
(これからも…ずっと…か…)
(アホのくせに…いいこと言うじゃねえか…)
彼女は完全に告白は失敗したが得るものはあったというのが今回の集計だった。
しかし告白は失敗していなかった。
彼は男友達と話さないのではなく話せないのだ。
話そうとしても彼女のことが何度もよぎり会話どころではない。
何度もよぎる彼女を見るたびに胸が締め付けられる。
慢性心不全になってしまう。
だが彼女とそうして話していると胸の痛みが消えるどころか心地よい暖かさを感じる。
おそらく窓際の席に座る彼に暖房が直接当たるからなのだろう。
まあそこで終わってたら名作エンドだったのだろう、しかし相手は彼だ。
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