第30話 12月中旬
来週にはもう二学期が終了する。どの授業もすでに受験試験対策になっていた。自習の時間も増えた。まあ、もう来月にはセンター試験もあるしな。校舎からは寒そうな山を見ながら生物の過去問を解いていた。四時間目の終了のチャイムがなった。
「竜二、いつ引っ越すんだっけ?」
玲花が確認するように竜二に聞いている。
「クリスマス」
「クリスマス?」
みんな驚いて口を揃えた。
「なんでわざわざクリスマス?」
向井が俺の方確認しながら竜二をみた。
「いやさ、引っ越し業者の関係でさ、二十三日の終業式が終わったらそのまま引っ越すことになったんだけど、さすがに終業式終わってすぐってのも寂しいじゃん。だから親父にお願いして俺だけ二日間、ホテル泊ってもらったわけ」
「え! じゃあクリスマスイブみんなで遊ぼうよ」
玲花がみんなを誘った。
「いや、俺、クリスマスイブ用事あるしよ」
「どーせ、木崎とデートでしょ?」
玲花がズバリと言う。
「いや、まあ」
向井が照れてる。
「勉強もしないといけないし」
俺も受験が心配だった。
「はぁ、大地、いいじゃん。別に〜。よし、この際、みんなまとめてクリスマスデートしよ」
「お、それいいな! って玲花、彼氏いんのかよ?」
竜二がなんだか嬉しそうだ。
「いないわよ」
「ってことは、ダブルデート+1って感じか」
「え。なにそれ、超絶嫌味なんですけどー」
竜二はなにが嫌味だったのか分かってないらしい。
「いや、お前ら勝手に決めんなって。一応木崎にも聞かないと」
「いや、木崎は絶対大丈夫でしょ」
竜二が根拠のない発言をした。
「携帯貸して、あたしが話す」
向井が玲花に携帯を渡して、一ノ瀬にかけ始めた。
すぐに木崎は電話に出た。
「あたしあたし、玲」
電話が切れた。
「え。なにー超感じ悪いんですけどー」
玲花が携帯に向かってキレている。向井に携帯を返し、向井がかけ直した。
「悪い、悪い、木崎。あのさ、クリスマ」
「どした?」
向井が俺たちを見渡した。
「うん。うん。うん。落ち着け、落ち着け、とりあえず、落ち着こうな。お前、今どこだ?」
「屋上か。待ってろ、今俺がそこに行くからな」と優しい口調で木崎を宥めている。屋上という言葉に一気に緊張が走った。
「向井」
「春樹」
俺達は何を話していたのか分からなかったが、尋常じゃない向井の慌てように心配になった。
「やべんだよ、木崎が」と言い、向井が走り出そうとした瞬間、グランドからキャーという悲鳴が聞こえた。俺たちはすぐに屋上を目指さした。
次の階段を登れば、屋上へ続くドアがある。
「旬!」
向井が木崎の名前を呼びながら急に止まった。木崎が屋上のドアの前の階段で泣きながら座っていた。俺たちは一応安堵の表情を浮かべた。
「お前、なにがあったんだよ?」
向井がゆっくり階段を登り、木崎の頭を撫でながら隣に腰掛けた。
「屋上に行こうとしたら、鍵が、鍵がかかって」
木崎の携帯を持つ手が震えている。俺たちは踊り場から見守っている。
「なんで屋上に行こうとした?」
向井の口調が優しい。
「死のうと思って」
俺は一瞬にして蓮くんのことを思い出し、竜二の方を見た。竜二は何か言おうとしたが、俺は腕をつかんで、頭をふり、止めた。
「そっか」
向井は優しく木崎のことを抱きしめた。
「旬くん?!」
二年生と思われる男の子と女の子が、ここまで走ってきた。
「よかったー」
女の子の方は、かなり息を切らしている。
「おまえらは?」
「旬の友達です」
「ってことは、俺らは用済みだな」
竜二は嬉しそうに俺のことを見てきた。
「何かあったか知らねーけどよ、お前らが守ってやれよ」
「はい!」
「旬くん、探したぞ」と言いながら彼たちは階段を駆け上って行った。
「なんで人って死にたがるんだろうな?」
教室に戻る途中で竜二が難題を出してきた。俺と玲花は答えを探し出せなかった。
「さあな」
向井が隆二の背中を叩きながら、俺たちに合流した。
「木崎、もう大丈夫なの?」
俺は向井に聞いた。
「うん、なんかいつの間にか頼もしい友達もできてたしよ。旬な、昨日、親にカムアしたんだって。でも親からあんま良い顔されなくてよ。今日は今日で、同じクラスのやつに嫌なこと言われたんだって。なんで、ただゲイってだけでいじめられて、親から嫌な顔されて、世間から認められなくて、俺たちってなんなんだろうな」
「俺たちってエイリアンなのかな。この世界に住んじゃいけないのかな」
「ちげえよ、大地。俺たちは俺たち。でも確かに、俺たちは木崎や蓮に比べたら恵まれてるのかもな。こうやってなんでも喋り合える仲間がいてさ」
竜二の発言は心強かった。
「なんでも喋り合えるか、それは大事だな」
向井が納得している。
「あ、でもうちの学校、カウンセラーいるよね?」
玲花が発言した。
「でも、なんか行きづらくない?」
俺はその存在を知っていたが、相談室に入ることができなかった。自分に問題があるような気がして。
「確かに、行きづらいかもな」
向井も同意してくれた。
竜二が腕組みをしながら、ぼぞッと発言した。
「でもカウンセラーてやっぱ必要だよな」
後で知ったが、あのグランドから聞こえた女子生徒の叫び声は、俳優として活躍する卒業生が母校を訪れていたからだった。
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